「SaaSの死?」で注目 米AIスタートアップのCEOが語るAIエージェントOS戦略とSaaSのゆくえ
「SaaSの死」についての議論が再燃する中、注目されるAIスタートアップがある。スマートフォンがガラケーやPCを置き換えていったように、SaaSを結果的には置き換えるような存在になることを目指しているという。
2026年1月、SalesforceやWorkday、ServiceNow、Intuitといった業務SaaS企業の株価が軒並み下落した。株価は本記事執筆時点でも、以前のレベルに回復していない。
さまざまな要因が指摘されているが、ロイター通信は当時、「売りは『急速に進化するAI(人工知能)技術がソフトウェア業界を大きく変えるのではないか』という投資家の不安の高まりによって引き起こされた」と報じた。
直接的なきっかけの一つはAnthropicが発表したClaude Coworkの業務特化プラグインだ。法務、財務、マーケティングなどのワークフローを構築できるAIエージェント機能で、SaaSのビジネスモデルを激変させるとされた。なお、AI専門家からは、このプラグインについて特に目新しいものではないとの指摘も聞かれる。
Anthropicの業務特化プラグイン自体が直ちに業務SaaSの価値を低減させるかどうかは別として、生成AIエージェントがユーザーを広げ、新たな使い方を生み出すことは明らかだ。
そこで注目されるAIスタートアップ企業がある。元Nutanix CEOのディラージ・パンディ(Dheeraj Pandey)氏が立ち上げたDevRevだ。業務AIエージェントの構築・運用プラットフォームを開発してきた企業で、執筆時点ではオープンβとして提供している。パンディ氏は、AIがSaaSを代替していく世界について筆者に語った。
DevRev設立のきっかけはNutanixにおける経験にあるとパンディ氏は話す。
Nutanixでは、顧客ロイヤリティの指標である「Net Promoter Score(NPS)」を上げることに注力していた。この活動には営業担当者や顧客サポート担当者だけでなく、製品開発エンジニアも加わらなければならないとパンディ氏は考えていたという。
同社では開発者が営業などと連携しながら、顧客の要望を直接取り入れて対応できる仕組みを作ろうとした。しかし、CRMやサービス支援ツール、チケットシステムなど、社内にツールが乱立し、連携が不十分な状況では難しかった。この経験が新会社を立ち上げるきっかけになったのだという。
この発想を広げて開発した「Computer」という大胆な名称のプロダクトを、パンディ氏は「エージェントOS」と表現する。基本コンセプトは社内業務システムやSaaSの普及で生まれたデータ/機能のサイロ化を打破する形でAIエージェントを構築する基盤となり、企業内の組織の壁を超えた業務の自動化/効率化/変革を実現することだという。
Computerのベースとなるのは統合データ基盤だ。社内のファイル/ドキュメント、業務システム、コラボレーションツール、SaaSなどから構造/非構造化データを取り込み、単一のナレッジグラフで管理する。データは都度引っ張ってくるのではなく、ソースと常時リアルタイムで同期するようになっている。Computerから既存システムの情報をアップデートすることも可能という(データへのアクセス権限もグラフで管理される)。
この「リアルタイム同期」「単一ナレッジグラフによる社内データ統合」が同社の基本的な強みだ。その上でLLMによる分析やリーズニングを適用し、業務に関するさまざまな質問に答えたり、業務の自動化やインテリジェント化を実現できるとする。
パンディ氏によると、同社が現時点で特に注力しているユースケースは2つある。
1つ目は顧客サポート。コールセンターを撤廃できるとする。
「コールセンターを介すことなく、顧客と担当者のセルフサービスを実現する。あらゆる業界でL1とL2のサポートを自動化し、ソフトウェア業界ではL4までをカバーできる。エスカレーション判断のミーティングも不要になる」(パンディ氏、以下同)
例えば、モバイルアプリの新バージョンについて、Computerがユーザーセッションを自動的に分析し、発見した不具合について背景情報付きのチケットを発行、担当者を自動アサインするといったこともできる。これにより、ユーザーが気づく前にトラブルを解消できる。また、CRMからのデータを生かし、重要顧客への対応を自動的に優先することもできるという。
もう一つの大きなユースケースは、企業内のさまざまな部門が恩恵を受けることのできるエンタープライズ検索(Enterprise Search)。検索というと古いと思われがちだが、AIとセマンティック検索によって「文書を見つける」から「答えを引き出す」ものに生まれ変わろうとしている。
「どんな業界でも社内のナレッジを最大限に生かす必要性が高まっている。エンタープライズ検索はこのニーズに答えられるようになる。そのためには正確で、ドキュメントの日常的なワークフローを的確に処理でき、企業全体のデータに対する最高のクローラーとして機能しなければならない。非常に奥の深いユースケースで、知識の発見やセルフサービスによって従業員の生産性を解き放つことができる」
DevRevを積極的に使うことで、これまでやりにくかったことが実現できると同時に、SaaSのライセンスコストを抑制することができる。これに興味を示す企業は多いという。
DevRevのComputerは、少数のユースケースに限定される「プロダクト」ではない。AIエージェントの「プラットフォーム」に進化するとパンディ氏は強調する。
AppleはiOSでアプリ開発のフレームワークを推進し、App Storeには多数の開発者によるアプリが集まるようになった。同様にDevRevでは、SIパートナーやチャネルパートナー、ユーザー組織の開発者が同社の検索/ワークフロー/分析エンジンをAPI/Webhook経由で使い、スナップインを作成して公開できるマーケットプレイスを提供していくという。
DevRevは、AIの世界におけるiPhoneを目指しているという。
パンディ氏によると、生成AIでDevRevが目指すのは、最終的には業務アプリケーションのユーザーインタフェース(UI)の変革だ。
「iPhoneはカメラやBlackBerryを置き換えた。PCで行っていた業務の大半もiPhone上でできるようになった。これと同様に、業務アプリケーションのUIは対話型AIに置き換わっていく。専門的な作業には従来型のUIが引き続き使われるが、データの消費や簡単な更新はAIとの対話で行われるようになる」
業務の世界でそうした大きな変化は容易に受け入れられないことをパンディ氏は認める。だが、iPhoneや他のスマートフォンでも、時間はかかったが業務アプリケーションが使われるようになった。同じようなことを起こすことが可能だという。
iPhoneがガラケーやPCと直接対抗するようなメッセージを出さなかったのと同様、DevRevでもSaaSを競合相手とするつもりはないという。だがSaaSから対話型AIへの移行は進むとする。
「まずレガシーSaaSは、データの保管場所として対話型AIと共存するようになる。その後AIは徐々にSaaSの機能を空洞化し、最終的にはAIが主役へと入れ替わる」
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