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コードは大量に出力された、だが見合った“成果”は出ているのか及川卓也からエージェント時代の開発者たちへ(10)(1/2 ページ)

米トップテック各社が、社員のAI利用に次々ブレーキを踏み始めました。これだけ使って、成果は出ているのか。AIはコードという出力を爆発的に増やしましたが、それが価値に変わっているかどうかは別の話です。今回は「出力と成果のズレ」を掘り下げます。

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「AIの利用量が増加しても消費者向けの便利な機能が比例して増えるわけではないことが判明」→私が危惧している奴。アウトプットが増えてもアウトカムが増えてないのではないか。すなわちそれはゴミの量産。──私のX投稿(2026年5月28日)

 エージェントを使うのがすっかり日常になりました。ただ、使っていてたまに考えてしまうことがあります。自分が手を動かしていないにもかかわらず、コードだったり、文章だったりが大量にできていくのは快感です。でも、これに何の意味があるんだろうか、きちんと価値を生み出しているんだろうかと、ふと我に返ることがあります。

「速くなった」は、本物だ

 冒頭に掲げたのは、私が5月にXに書いた言葉です。米国の大企業が、社員のAI利用に上限を設け始めた──そんなニュースを見ながら書きました。これだけ使って、見合うだけの成果は出ているのか。アウトプットは増えても、アウトカムは増えていないのではないか。これは思いつきではなく、以前から気にしてきたことでもあります。今回は、その引っかかりを正面から掘り下げます。

 言いたいことは単純です。コードはいくらでも作れるようになったけれど、それが価値に変わっているかどうかは全く別の話だということです。

 「AIはダメだ」というのではもちろんありません。速くなった実感は本物です。AIがコードを書くことを否定したいわけではありません。問題視しているのは、私たちが何を「成果」と呼んできたか、その測り方です。「コード」という出力を成果に変える回路があるはずなのですが、その回路のどこかで詰まりが生じているのでしょう。今回は、その詰まりを深掘りしてみましょう。

「使ったのに、線が引けない」──米トップテックの戸惑い

 冒頭にも書いたように、AIを最も貪欲に使ってきた会社がブレーキを踏み始めたというニュースを最近よく耳にするようになりました。

 Uberは、5000人ほどのエンジニアに「Claude Code」を配ったと報じられています。現場は沸き、みるみる使われ、2026年の年間予算をわずか4カ月で使い切ります。慌てた会社は、「エンジニア1人当たり、AIコーディングツールごとに月1500ドル」という上限を設けました。これはシートの利用料ではなく、従量で積み上がるトークン消費額の上限です。COO(最高執行責任者)のアンドリュー・マクドナルド(Andrew Macdonald)氏の一言が、全てを言い当てています。「That link is not there yet(その線がまだ引けない)」。AIにこれだけ使ったことと、利用者に届いた価値との間につながりが見えない、、というのです。つまり、回路のどこかが詰まっているということでしょう。

 同じ頃Microsoftは、一部の部門で社内のClaude Codeを引き上げ、自社のツールへ戻し始めました。AmazonとMetaも、社内で過熱したAI利用に、是正の手を入れています。これについては後述します。

 各社なりに言い分はありそうです。Microsoftは「自社で形を作れる道具を選ぶ」という戦略の話としており、コストが理由だと決めつけたのは報道の側です。とは言え、UberやMicrosoftがブレーキを踏んだ背景に、コスト超過があるのは確かでしょう。後で見るように、ブレーキを踏むどころか、方針を変えていない会社もあります。

 確かに、出力はとてつもなく増えました。スタンフォード大学の研究者たちの試算では、エージェントは普通のやり取りの1000倍を超えるトークンを使います。けれど、その大量の出力が、どこで価値に変わったのかが見えません。各社が踏んだブレーキは、その戸惑いの表れでしょう。

トークンを浪費して、順位を上げる

 先ほど少し触れた、AmazonとMetaの社内で起きていたことには驚かされました。

 両社は、社員のAI利用をランキングにしました。誰がどれだけトークンを使ったかが、社内で見える。順位がつきます。すると、何が起きたか。社員はこぞって自分の順位を上げにいきました。本来AIなど要らない瑣末な作業にまで、わざわざエージェントを走らせ、トークンを浪費して、数字を積んでいきます。Metaでは、8万5000人を超える社員が並ぶランキングで、30日間の合計は60兆トークンを超えました。最上位の1人だけで、推定140万ドル分です。

 これは、開発者個人が愚かだったという話ではありません。会社が「トークンをたくさん使うこと」を物差しにして評価すれば、人はその物差しで高得点を取りにいく。ごく自然な反応です。経済学者グッドハートが残した法則があります。ある数字がいったん「達成すべき目標」になると、人はその数字を上げること自体を目的にしてしまい、指標はもう本来の良し悪しを映さなくなる、というものです。犯人は、エンジニアではありません。測り方です。

 同じことを、もっと辛辣に言った人がいます。Palantirの技術トップ、シヤム・サンカー(Shyam Sankar)氏です。決算の場で彼はこう言いました。「トークンは新しい石炭だ」「More tokens means more slop(トークンが増えれば、ゴミも増える)」。

 もちろん、反論もあります。MetaのCTO(最高技術責任者)、アンドリュー・ボスワース(Andrew Bosworth)氏は、ランキングを擁護してこう言いました。

 「自分の年収分のトークンを使う一流エンジニアは、5倍も10倍も生産的だ。上限なんてない。どんどんやれ」

 実際、Metaが取り下げたのは社内ランキングだけで、しかも理由は、そのデータが外部に漏れたためでした。AIを使い倒せという方針そのものは、撤回していません。むしろ2026年には、「AIによるインパクト」を人事評価の中核に据えています。

 言い分は分かります。ただ、その「生産的」が指しているのは、出力の量です。出力が5倍になることと、事業の成果が5倍になることは、別の話なのです。

これは、AIが始めた問題ではない

 1つ指摘したいのは、これがAI固有の問題ではないということです。

 人間だけで開発していた時代も、コードを速く大量に書けたからといって、必ずしも事業や顧客の価値に変わるとは限りませんでした。理屈の上では、ずっとそうでした。ただ、昔は生産性の伸びが緩やかでした。年に少しずつ速くなる程度なら、出力と成果の間の線が細いことなど、誤差に紛れて誰も気にしませんでした。

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