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「AIファースト」の前にやるべきこと――東大、日本マイクロソフト、リコー、レゾナックが語るデータ基盤の未来真の「AI Ready」を実現させるデータベースモダナイゼーションとは

AI利用の取り組みが活発化する一方、成果を十分に享受できている企業は一部にとどまる。その背景には、既存のデータベースやインフラが“AI前提”の仕組みになっておらず、データの品質、所在、来歴、権限管理が十分に整備されていない課題がある。真の「AI Ready」とは、AIツールを導入することではなく、企業内の業務データを信頼できる形で管理し、AIやアプリケーションから安全に活用できる状態にすることだ。では、その実現に向けて、データ基盤をどうモダナイズすべきなのだろうか。

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 AI利用の取り組みが活発化している。現場での業務効率化にはじまり、新サービスの開発や企業変革に向けた業務プロセス変革などさまざまな取り組みが進められている。ただ、その成果を十分に享受している企業は一部にとどまるのが現状だ。

 なぜ成果につながらないのか。その理由の一つとして指摘されているのが「データ整備」の問題だ。既存のデータベースやデータ基盤はAIを前提とした仕組みになっておらず、格納されているデータもAIに適した形に整備されていない。

 AI活用で重要なのは、AIモデルそのものの性能だけではない。AIが参照するデータが正確で、意味がそろい、必要な権限管理や監査の下で利用できることが前提になる。つまり、AI活用の成否は、企業がこれまで蓄積してきた業務データを、どれだけ信頼できる形で整備し、活用できる状態にできるかに左右される。

 では、どのようにデータベースやインフラをモダナイズすればよいのか――。そんな中、アイティメディア@IT編集部が主催したオンラインセミナー「真の『AI Ready』とは何か? 今『データベースモダナイゼーション』が不可欠な理由と、現実的な変革ロードマップ」が開催された。セミナーのパネルディスカッションからそのヒントを探る。

「デジタル完結」が急進展、「データとAIの管理プラットフォーム」が重要に

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東京大学 江崎浩氏(大学院 情報理工学系研究科 教授)

 AIの進化は目覚ましく、企業経営の在り方を根本的に変えつつある。東京大学大学院の江崎浩氏は、「攻め」と「守り」の両方が重要になってきたと指摘する。

 「AIによって、垂直統合型モデル(閉域システム)から水平統合型モデル(連携・協調プラットフォーム)への変化が起こっています。既存の企業データはサイロの中に閉じており、デジタル化と言いながらシステム間の接続は事実上アナログでした。そんな中、AIの登場によって水平統合型のデータベースを作り、連携・協調しようという動きが進みました。組織のインフラを相互に接続し、組織の壁を越えてデータの自由な利用を実現させて効率性を向上します。一方、専門家が基盤のセキュリティ対策を共通で担う必要があります。攻めるためにも守るためにも、データとAIが前提になってきたのです」(江崎氏)

 もっともAI自体は「素直だが未熟な新種の子ども」にすぎない。親からの教育が必要で、間違った教育をしてしまうと「ダークサイドに落ちる」リスクもある。

 「AIを教育するには、きちんとしたデータが必要です。データを使って大人になったら、われわれにクリエイティブな仕事の時間を確保してくれますし、創造性を支援してくれます。そうなって初めて、AIとの共生が可能になります」(江崎氏)

 では、企業はこのようなAIとデータをどう取り扱えばよいのか。江崎氏はシステム開発の在り方の変化を挙げ、変化を踏まえた対処が重要だと指摘する。

 「人類のシステムは『モノ完結』から『デジタル完結』に変わってきています。クルマのように、燃焼機関のエネルギーをシャフトとベルトで伝達していたものが、バッテリーと電気銅線とモーターに置き換わり、さらにデータでのオンラインシミュレーションに置き換わりました。設計もサイバー空間で行うようになり、最終的にはデジタルで完結します。実際、ニューロやバイオ、半導体などの先端産業の研究所や工場では急速にデジタル完結へ向かっています。デジタルで完結する世界では、機密情報の管理はもちろん、遅延要求の厳しいソフトウェアやハードウェア、ロボットの管理も必要です」(江崎氏)

 そこで求められるのがデータやAIを適切に管理するデータベースやAIインフラだ。オンプレミスとクラウドで構成するハイブリッドなデータセンターの中で、生成AIやAIエージェントを管理する包括的な基盤が重要になるとした。

データファーストのアプローチで土台を固め、包括的なプラットフォームでAIを活用する

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日本マイクロソフト 帖佐一学氏(Azure製造統括本部長)

 そうした時代背景の下、企業の現場では何が起きているのか。日本マイクロソフトの帖佐一学氏は、大きな変化として、データとデータベースの役割の変化を挙げる。

 「データ活用はこれまで『過去のファクト』が対象で、データベースの役割もデータの保存・検索・分析にありました。しかし、AI時代にはデータ活用の目的は『未来へのインサイト』を得る目的に変化して、データベースの役割も学習・推論・行動の燃料に変化しています。これまでは、構造化データのトランザクション処理を担っていましたが、それだけでなく、非構造化データのリアルタイム処理が求められています」(帖佐氏)

 こうした変化に対応するためには、データアーキテクチャを再設計する必要がある。そのためのアプローチとしてはデータ基盤の拡張や、AIの近場にAI活用向けデータ領域を新設するなどがある。その際に注意したいのは「AIが先か」「データが先か」の議論だ。

 「江崎さんが指摘するように『AIは子ども』で、子どもには物事を教える教師が必要です。どれほど高度なアルゴリズムを積んでも入力されるデータが信頼できなければ出力も信頼できません。AIファーストは言葉として魅力的ですが、実装の現場では本当に成果を出すのは地味で愚直なデータファーストであることは変わっていません」(帖佐氏)

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AIファーストとデータファースト(提供:日本マイクロソフト)《クリックで拡大》

 データファーストで取り組みを推進する際に重要な要素は「ガバナンス」「データ来歴」「オーナーシップ」「データ品質」「メトリクス」「信頼」の6つであり、まずはこれらを「土台として固める」ことが求められる。

 「土台を固めながら、AI Readyな環境としてスケールさせます。AI Readyな環境にはデータ、データベース、データプラットフォームという3つの観点があります。データはAIが信頼して使える素材です。その素材を引き出せる形で保管するのがデータベースです。データとデータベースを含めて、開発、運用、ガバナンスまで束ねるのがプラットフォームです」(帖佐氏)

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データ、データベース、データプラットフォームの関係性(提供:日本マイクロソフト)《クリックで拡大》

 帖佐氏はそれぞれの要件や機能を解説しながら、既存データをAIで活用するためのデータベースとして「Microsoft SQL Server 2025」を挙げた。加えて、データベース、分析、ガバナンスを統合的に支える考え方として、Microsoft FabricやMicrosoft Purview、Azure SQLなどを含む「Microsoft Intelligent Data Platform」の位置付けを紹介した。

 「SQL Serverは、既存のデータを大きく動かすことなく、これまで培ってきた信頼性やセキュリティ、運用性を維持したまま、AI活用に対応するデータベースへ進化させることができます。また、Microsoft Intelligent Data Platformの考え方では、Microsoft製品だけでなく、『Oracle Database』や『MongoDB』などを含む多様なデータソースを包括的に扱い、AI活用に必要なデータ管理やガバナンスを支えることができます」(帖佐氏)

 SQL Server 2025では、従来のトランザクション処理や分析用途に加え、AIアプリケーションから業務データを活用しやすくするための機能強化が進められている。既存の業務データを生かしながら、生成AIや検索拡張生成(RAG)などの用途に接続しやすくすることが、データベースモダナイゼーションの重要な方向性になる。

オンプレミスのデータベースをPaaS化、AI Readyデータ整備を推進するリコー

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リコー 飯田正史氏(DX本部 コーポレートITセンター 設計改革推進室 室長)

 実際に企業はどのようにAI活用を進めているのか。リコーの飯田正史氏は、ものづくり領域の基幹システムを題材に同社の課題と対応方法、AI利用の取り組みを紹介した。同社は「デジタルサービスの会社」への変革を掲げ、2020年からシステム変革に関してさまざまな取り組みを推進してきた。

 その1つがリコー製品の部品構成、図面、CADデータ、変更情報の原本管理を行うPLM(製品ライフサイクル管理)システムの変革だ。製品開発におけるミッションクリティカルな基幹システムの一つで、グローバルで約9000人のユーザーが利用している。このシステムを「Microsoft Azure」(以下、Azure)で刷新した。

 「PLMシステムは2021年3月に稼働しましたが、稼働後はシステムの負荷増加の課題に直面しました。原因はパッケージの利用方法の誤りで、結果としてデータベースに負荷が集中したのです。当時はオンプレミスで稼働していたためスケールアウトできず、可観測性も悪く原因特定に苦労しました」(飯田氏)

 そこで取り組んだのがクラウドを前提としたシステムの再設計だった。データベースのPaaS化、可観測性の強化、開発環境のオンデマンド化、パフォーマンス向上などに取り組んで、ランニングコストの25%削減と、安定稼働によるユーザー満足度を19%から52%へ向上させた。

 「AIを利用する前提の下、システムをモダナイズして可観測性を実現させるのが大事でした。リコーではAIツールを導入するだけにとどまらず、ものづくりの業務現場でAIを利用してどう働き方を変えるかにフォーカスしています。そこで大事になるのがプロセス、データ、システムを一体化させ、連携させることです。目的として、ものづくり業務の生産性向上とシステム運用の高度化を掲げ、それを実現するためにAI Readyデータの整備を進めました」(飯田氏)

 AI Readyデータは「データ品質」「データ運用方針」「人材育成」「ガバナンス」「推進アプローチ」の5つで構成されるデータだ。リコーはこの定義の下、業務視点でデータを整理して、業務ニーズの把握、データ整備、活用促進を進めている。データベースをモダナイズして、AIを利用するために進化させ続けている。

 その上で飯田氏は「スモールスタートで取り組みを進めて、アジャイル型で小回り良く効果を積み上げてきました。こうした取り組みをIT全体に広げる予定です」と今後を見据えた。

マルチクラウドでAI利用の土台を構築し、3つのレイヤーでAIを利用するレゾナック

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レゾナック・ホールディングス 石塚直樹氏(エンタープライズシステム部 エンタープライズシステム企画Gr グループリーダー〈兼務〉SCMシステムGr グループリーダー)

 続いてレゾナック・ホールディングスの石塚直樹氏が、レゾナックで推進している3つのレイヤーでのAI利用の取り組みを紹介した。

 昭和電工と昭和電工マテリアルズの合併により2023年1月に誕生した化学メーカーのレゾナック。システム的な特徴として、多様な事業・拠点が国内外に存在し、事業・地域ごとの個別最適が強く、データが分散されていることが挙げられる。そこでまず取り組んだのがクラウド移行だ。

 「データセンターが東西にあり、基幹システム群は約300台の論理サーバで複雑に連携する構成でした。2024年以降、既存ハードウェアが順次EOL(製品・サービスのライフサイクル終了)を迎えるに当たり、クラウド移行を進めてきました。EOL期限への対応を最優先として、利用者・外部機関への影響を最小限にするため、ソフトウェアは変更せず、ハードウェアのみクラウドへリフトする基本原則でした」(石塚氏)

 クラウド環境として採用したのがAzureと「Oracle Cloud」だ。AzureでVMware環境を稼働させる「Azure VMware Solution」(AVS)と、Oracle Cloudのインフラサービス「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を組み合わせたマルチクラウド構成にして、Azure環境とのL2延伸やOCIとの専用線接続で低レイテンシを実現した。

 「クラウド移行によりAI利用に必要なAI Readyな土台を整備できました。AzureとOCIへの集約による拡張性と柔軟性の確保、リソース拡張できる弾力的な基盤の構築、将来的なAPI化やアプリモダナイズ、データ統合への対応、統合ネットワークによるセキュリティなどです。ただ、クラウド移行はゴールではなく、AI利用に向けたスタートラインです。クラウド移行を単なるEOL対応で終わらせず、将来的なAI利用とデータ活用につなげるために、データを整備する必要がありました」(石塚氏)

 データや業務面での課題としては、マスターの不統一、用語やコード定義の差異、データ品質のばらつき、業務ルールや運用の差異などがあった。AIを活用するためには「意味がそろったデータ」が必要であり、AIが意味を解釈できるデータ整備が求められた。

 「業務の特性とデータの性質に応じて、3つのレイヤーでAIを利用して、事業価値の最大化とIT変革を目指して取り組みを推進しています。レイヤー1は定型業務の自動化・効率化(1次データ処理)、レイヤー2は分析・推論による意思決定の高度化(統合データにおけるAI分析・推論)、レイヤー3はAIを使ったIT・業務そのものの変革(生成AIやAIエージェント活用)です。全社のあらゆる業務で安心・安全にAIを使いこなせる基盤を目指します」(石塚氏)

目的に向けた独自のロードマップ策定を

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アイティメディア 内野宏信(DX編集統括部 統括編集長)

 AIがもたらすビジネスの変革は一朝一夕には成し得ない。本セミナーで示されたように、目覚ましい成果の裏には、既存の枠組みを超えた「データファースト」の取り組みと、データベースやインフラのモダナイゼーションによる強固な土台づくりがある。リコーやレゾナックの事例は、クラウドへの移行やPaaS化がゴールではなく、業務データを信頼できる形で整備し、AIやアプリケーションから継続的に活用できる状態にするためのスタートラインであることを示している。

 その第一歩は、自社の既存データベースとデータ活用目的を棚卸しすることだ。どの業務データをAIで活用したいのか、そのデータは信頼できる品質で管理されているのか、権限や来歴を追跡できるのかを確認する。その上で、既存のSQL Serverなどを生かすのか、PaaS化やクラウド移行を進めるのか、分析・AI基盤とどう接続するのかをロードマップとして整理することが、AI Readyへの現実的な第一歩になる。

 モデレーターを務めたアイティメディアの内野宏信は「AI Readyな環境への変革を推進する上で、最も重要なのは明確な『目的意識』を持つ姿勢です。まずは自社の事業やシステム環境、フェーズを可視化して、目的に向けた独自のロードマップを策定することから始める必要があります。フレームワークを活用して必要な要件を整理すれば、投資に対するリターンも計算しやすくなるはずです。自社ならではの最適なロードマップを描くためには、専門的な知見を持つパートナーの存在が欠かせません。日本マイクロソフトやパートナー企業は、その強力な味方となってくれるでしょう。まずは気軽に相談して、未来への確かな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか」と、セミナーを締めくくった。

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:アイティメディア編集局/掲載内容有効期限:2026年8月7日

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