仕様書は書かずに開発 老舗ベンダー弥生はAI前提でソフトウェア開発をどう変えたか?:AIネイティブ企業に大転換(1/2 ページ)
「弥生会計」で知られる弥生は、AIが設計やレビュー、セキュリティ運用まで担う時代を見据え、開発プロセスや組織の在り方そのものを変え始めた。老舗ソフトウェアベンダーがAIネイティブカンパニーへとどう生まれ変わったか。その軌跡をたどる。
「弥生会計」などの業務ソフトウェアで知られる弥生は、パッケージソフト全盛期から事業を展開してきた老舗ソフトウェアベンダーだ。一方で近年は「弥生会計 オンライン」「弥生会計 Next」などSaaSの開発を促進させて、AIを前提とした開発体制への転換を進めている。
弥生が実践する「AIデフォルト開発」 そのリアルな実感と効果
「ボードメンバーにグローバルプレイヤーが加わり、スタートアップのカルチャーも取り入れています。『もっとスピードを上げよう』『変化を起こそう』という雰囲気が強くなりました」
こう話すのは、技術開発本部プラットフォームエンジニアリング部長 CAOの佐々木淳志氏だ。
弥生の開発組織はデスクトップアプリケーションとクラウド・SaaSの2部門で構成され、約250人のエンジニアが所属する。全従業員が利用できる「Google Gemini」に加え、「Cursor」「Devin」「Claude Code」「GitHub Copilot」「Kilo」など複数の生成AIを導入し、それぞれの特性に応じて使い分けている。
会社として単一のAIツールに統一する考えはないという。「AIは数カ月単位で状況が変わります。だからこそ、それぞれの得意分野を理解した上で使い分けることを重視しています」(佐々木氏)
中でもSaaS開発チームでは、AIを開発の中心に据えた「AIデフォルト」の開発が始まっている。
佐々木氏は「最も活用が進んでいるチームでは、人間はほとんどソースコードを書いていません。設計から実装までAIが担い、人間は要求や制約を与え、成果物を評価・意思決定する役割に移っています。その結果、対象となる開発案件では見積工数が約5分の1まで削減できました」と話す。
もちろん、全てのチームがそこまで進んでいるわけではない。当初は既存プロセスの一部をAIで効率化する取り組みが中心だったが、現在では「AIを前提に業務プロセスそのものを設計し直す」チームが増えている。
生成AIの活用が広がる一方で、「AIがコードを書くほどレビュー負荷が増える」という声もある。これについて佐々木氏は「初期は人間がAIの生成したコードを細かく確認していましたが、現在ではレビュー自体も高い割合でAIに任せています」と話す。
ただし人間が不要になったわけではないのはポイントだ。「ヒューマン・イン・ザ・ループは必ず維持しています。AIの提案をそのまま採用するのではなく、人間が最終判断を下します。一方でAIの性能が向上したことで、『この問題を解決して』という抽象的な指示でも十分に成果を返せるようになりました」(佐々木氏)
その結果、人間に求められる役割はどう変化したのだろうか。
佐々木氏は「ビジネス部門と一緒に何を価値として提供するのか。その価値を実現するためにどのような仕組みを作るのか。あるいは、AIには難しいトレードオフを判断することが、人間の重要な役割になってきています」と指摘する。
「AIに人が合わせる」開発 人間というボトルネックをどう解消するか?
生成AIを本格活用する中で、佐々木氏が実感したのは「AIそのもの」ではなく、人間が従来のプロセスを維持していることが生産性向上の壁になるという事実だ。
「AIを導入しただけでは生産性は上がりません。AIに合わせて業務プロセスそのものを変えなければ、人間がボトルネックになります」(佐々木氏)
例えば、表計算ソフトウェアで管理していた仕様書をMarkdown形式に変更し、「GitHub」で一元管理するようにした他、過去の設計書やコード、ドキュメントを整理し、AIが扱いやすい形に整備している。
さらにあるチームではウオーターフォール型開発で当たり前だった「仕様書中心」の開発プロセスそのものを見直した。従来は仕様書を作成した後、フィジビリティテストや設計、実装、テストへと進めていた。しかし実際には、実装後に仕様書を書き直すケースが多かったという。
佐々木氏は「『このドキュメントは本当に使われているのか』『誰が何のために参照しているのか』という前提から見直しました。その結果、まずAIで実装し、人間がブラッシュアップした成果物を基に、AIにドキュメントを生成させる方が合理的だという結論に至りました」と述べる。
AIを前提とした開発チームでは、プロダクトオーナーとエンジニアがAIを相手に議論を重ねながら要件を整理し、その内容から仕様書を生成、さらに仕様書を基に実装まで進める。AIを用いた開発手法を学ぶために「AI-Driven Development Lifecycle」のワークショップに参加し、3日間のワークショップでプロトタイプまで完成した。
もっとも、AIに任せる範囲が広がるほど、誤ったコードや安全性に問題のある実装がそのまま入り込むリスクも高まる。AIによるコードレビューなど品質担保の仕組みが必要になる。
そこで弥生では、AIの挙動を制御するためのガードレールとして「ハーネスエンジニアリング」を取り入れ、AIが実行できる範囲を制限するとともに、権限の最小化など複数の安全策を組み合わせながら信頼性を確保している。
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