7割が「シャドーAI」未対策 Gartner提言・メルカリ事例に学ぶ、正攻法:「AIは全て禁止」でも「IT部門が全て管理」でもない AI活用と統制をどう両立?
企業で生成AIやAIエージェントの活用が広がる一方、IT部門が把握していない「シャドーAI」のリスクが顕在化しています。経営層と現場の認識にはなぜズレが生じるのでしょうか。AI活用とガバナンスを両立させる方法を考えます。
生成AIやAIエージェントの業務活用が本格化する中、企業の情報システム部門やセキュリティ部門が把握しきれない「シャドーAI」のリスクが深刻化しています。
利用できるAIの種類や機能が急速に増える中、従来のようにIT部門が全てを把握し、審査し、管理するやり方は限界を迎えつつあります。
かといって、業務効率化への期待が高まる中、現場が必要とするAIを迅速に利用できなければ、かえって管理の目が届かないAI利用の拡大を招く恐れもあります。
では、企業はAI活用の推進と統制をどう両立すればよいのでしょうか。経営と現場のギャップ、Gartnerの提言、メルカリの実践事例から対策の「仕組み」を考えます。
経営層の「把握している」は幻想 浮き彫りになる意識と実態のギャップ
シャドーAIを考える上で、まず直面するのが経営層と従業員の間にある「認識のすれ違い」です。IDおよびアクセス管理(IAM)を手掛けるOkta Japanが2026年5月に公表したグローバル調査「AI Agents at Work 2026」は、「管理できている」と考える経営側と、実際の現場との間にある大きな隔たりを浮き彫りにしています。
「利用ポリシー」の認知にある大きな隔たり
7カ国の経営幹部と従業員を対象にした同社のレポートでは、日本の経営幹部の54%は「自社のAI利用ポリシーは明確」だと回答しました。これはグローバル全体の65%を下回るものの過半数を占めています。
ところが、同様に回答した日本の従業員は22%にとどまり、調査対象国の中で最も低い水準となりました。さらに従業員の78%は「公式のAI利用ポリシーを見つけられない」と回答しています。経営側がルールを定めたつもりでも、現場まで届いていない実態がうかがえます。
経営陣の8割超が「可視化できている」とするも、現場の半数近くがシャドーAI利用
より顕著なギャップが見られたのが、AI利用の可視化に関する回答です。「AIツールの利用状況を可視化できている」と回答した日本の経営幹部は84.6%に上り、グローバル全体の90%に近い水準でした。
しかし、日本の従業員の47.5%は「未承認のAIツール(シャドーAI)を利用している」と回答しています(グローバル全体は52%)。
経営陣が「把握している」と考えている裏で、現場の半数近くがシャドーAIを使用しているのが現実です。AIガバナンスの第一歩は、この認識と実態のギャップを直視することから始まります。
シャドーAI、7割未対策の実態も明らかに Gartnerが提言する「分業モデル」
では、シャドーAIをどのように管理すればいいのでしょうか。Gartnerの調査からは、多くの企業が現場主体のAI導入を認める一方、シャドーAI対策には手が回っていない状況が見えてきます。
73%が「把握できない」「把握しても手を打てない」
Gartnerが2026年2月に実施した国内企業への調査では、ユーザー部門が選定するAIツールについて、「自由に認めている」(8%)、「審査して問題なければ認めている」(67%)を合わせて75%の企業が現場主体のAI導入を容認しています。
ところが、シャドーAIへの対応は「そもそも把握できていない」(43%)、「把握はしているが、手を打てていない」(30%)と、73%の企業が対策に取り組めていません。
背景にあるのが、IT部門が一括管理する従来型「集権モデル」の限界です。
現場からのAIツールの利用申請をIT部門が審査、検証している間にも、次々と新しいAI機能やAIツールが登場します。判断を待ち切れない現場が独自に利用を始めればシャドーAIとなり、かといって全面的にAI利用を禁止すれば業務の停滞とさらなるシャドーAIのリスクを招きます。
こうした悪循環に対し、Gartnerの林宏典氏(ディレクター アナリスト)は、2026年6月の講演で、IT部門が採るべき一手として「受益者負担の分業モデル」への移行を提言しています。
「全社AI」「部門AI」「個人AI」に分け、責任の所在を明確化
Gartnerの提言する分業モデルでは、社内のAIを「全社AI」「部門AI」「個人AI」の3つに分類します。全社共通で利用する「全社AI」はIT部門が選定・導入し、手厚く支援します。特定部門だけで利用する「部門AI」は、その部門自身が運用・管理を担います。「個人AI」は、高いリテラシーを持つ一部の従業員に限定し、条件付きで個別利用を認めます。
使いたい現場に運用負荷や責任を持たせる「受益者負担」を基本とし、役員クラスによる「AIガバナンス委員会」と、統制の枠組みを構築する「AI CoE(Center of Excellence)」が連携してガバナンスを支える構成です。
「ツール単位」から「機能単位」の統制へ
さらに林氏は、IT部門による「ツール単位」での利用可否判断を改め、「機能単位」でリスクを評価すべきだと指摘します。生成AIツールは多機能化しており、同一ツール内でもリスクが異なるためです。
生成AIの機能を「AI組み込みアプリ」「汎用(はんよう)チャットbot」「ノーコードエージェントビルダー」「Computer Use」「プラットフォーム」の5タイプに分解し、それぞれのリスク特性に応じて評価すべきだとしています。
リスクの高いAIは「即遮断」を原則とし、四半期ごとに棚卸しを実施
未許可のシャドーAIに対しては、セキュアサービスエッジ(SSE)などのクラウド通信監視機能を活用し、リスクの高いAIは「見つけたら即遮断」を原則とすることを推奨しています。
加えて、「四半期に1度の棚卸し」を運用サイクルに組み込み、使われなくなったツールの整理や、成果の上がっているツールを「全社AI」へ昇格させる検討をすることが重要だと提言。併せて、リテラシーの高い人材に「個人AI枠」を認め、最新ツールの検証と知見の蓄積を担ってもらう手法も提示しています。
メルカリの実践事例に見る、シャドーAIを防ぐ「仕組み」
「一律禁止ではなく、利用者や用途に応じて統制する」という思想を具現化したのがメルカリの実践事例です。同社の取り組みからは、ルールで縛るだけでなく「公式の安全な環境を使う方が便利」という状態を作る重要性が見えてきます。
属性やリテラシーに応じたAIツールの「出し分け」
メルカリは2026年5月から「Claude Code」「Claude Cowork」の全社展開を開始しました。同社では、全社イベント「AI Agent Day」などで従業員教育を進める一方、全従業員に一律の権限を与えるのではなく、職種やリテラシーに応じた環境の「出し分け」をしています。
原則として非エンジニアには、仮想環境(VM)上で動作し強力なガードレールを設定できる「Claude Cowork」や「Notion AI」を提供。一方、エンジニアやリテラシーの高い非エンジニアには「Claude Code」も利用できる柔軟な運用としています。
この制御を支えるのが、MDM(モバイルデバイス管理)の「Jamf」とIdP(アイデンティティープロバイダー)の「Okta」です。端末利用者の属性情報を自動同期し、エンジニアには柔軟な設定、非エンジニアには強いセキュリティ設定を自動適用することで、ガバナンスと現場の利便性を両立させています。
「禁止」ではなく「安全で便利な利用経路」を作る
メルカリのシャドーAI対策で特筆すべきは、現場の「日々登場する最新のAIを試したい」というニーズを遮断せず、安全なルートをインフラとして用意した点です。
「さまざまなAIモデルを使いたい」というニーズに対し、同社ではOSS(オープンソースソフトウェア)の「LiteLLM」を活用した共通基盤を構築しました。一般的なAIプロバイダーのAPIキーには原則として有効期限がないというセキュリティ課題に対し、LiteLLMを中継させることで「一定期間で自動失効する短命なキー」でのアクセスを実現しています。
開発者はプロバイダーごとの複雑な設定を意識せず「モデル名を指定するだけ」で安全なAI利用が可能となり、管理側にとっても利用予算の一元的な可視化・最適化ができるメリットが生まれているといいます。
まとめ:禁止から「責任分担」と「環境整備」へ
経営層の「把握している」という過信と現場の実態ギャップを踏まえ、Gartnerの分業モデル提言やメルカリの実践事例を照らし合わせると、今後のシャドーAI対策で企業が取るべき方向性が見えてきます。
AI時代において、申請手続きを煩雑にし、禁止事項を増やしてIT部門だけで統制し続ける従来の手法はもはや機能しません。シャドーAIを抑止しつつも、AI活用による事業成果を最大化するためには、以下の3つのアプローチが不可欠です。
- 実態とリスクの可視化
- 経営と現場の認知ギャップを直視し、通信監視や機能単位でのリスク評価を開始する
- 責任の分担(分業モデル)
- IT部門に過度な負担を集中させず、ユーザー部門やリテラシーの高い個人に役割と責任を委譲する
- 公式ルートの利便性向上
- 「使うな」と制限するのではなく、メルカリのように「安全で使いやすい共通基盤」を用意し、自発的に利用ルートを選ばせる
シャドーAIの解消とは、現場からAIを遠ざけるための「高い壁」を作ることではありません。
経営・IT部門・現場の三者がそれぞれの役割を果たしながら、現場が正しく安全にAIを使いこなせる「導線」を設計することが、AIガバナンスに求められる本質といえます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ChatGPTに「入力してはいけない情報」5選――NGリストとその理由
ESETは、ChatGPTの利用に伴うセキュリティとプライバシーのリスクをまとめた包括的なガイドを公開した。7つの大きなリスクや共有禁止情報の「レッドリスト」、10の保護習慣を解説している。
甘過ぎた“経営陣のAIリスク認識” 8割は「AI利用を可視化」と回答、なのに未承認AIが拡大
Okta Japanが発表した調査レポート「AI Agents at Work 2026」からは、日本企業における、AI利用を巡る経営幹部と従業員との認識ギャップが浮き彫りになった。調査結果から分かった真実とは。
シャドーAI対策「7割が未着手」 「AIは全て禁止」は限界 IT部門が採るべき一手とは? Gartner提言
生成AIの爆発的な普及に伴い、企業のITガバナンスは新たな局面に直面している。情報システム部門が抱えてきた旧来のシャドーSaaSといった問題に、個人契約のAIツールやローカルLLMなど幾つものリスクが積み重なった「難局」を迎えているためだ。限られたリソースで推進と統制をどう両立すべきなのか。こうした中、Gartnerは「分業モデル」への移行を提言している。
メルカリが明かす「Claude Code全社展開」「シャドーAI対策」を支える仕組み
「AIを使わない選択自体がビジネスリスク」と断言するメルカリ。同社は2026年5月、「Claude Code」「Claude Cowork」の全社展開に踏み切った。だが、ローカルファイルの操作やOSコマンドまで実行できる強力なツールの配布は、ガバナンスの課題も伴う。全社のAI活用を支える同社の「仕組み」に迫る。
自社のAI利用は本当に安全? 現場放任に潜む「4大リスク」
サーバーワークスは、AWS環境での生成AI活用に必要なルール整備を支援する「AWS生成AIガイドライン策定サービス」を提供開始した。最短1カ月でルールを整備できるプランも用意する。