セキュリティ製品を増やすほど守れなくなる? 75.4%が実感する「セキュリティ疲れ」の正体:問題はツールの数だけではない
セキュリティ対策を強化するほど、現場の負担が増える。そんな「セキュリティ疲れ」が企業のIT部門をむしばんでいる。TD SYNNEXの調査では75.4%が疲弊感・限界感を実感。さらに浮かび上がったのは、ツールの数だけでは説明できない別の問題だった。
TD SYNNEXは2026年9月7日、従業員300人以上で複数のセキュリティ製品を導入する国内企業のIT部門責任者やセキュリティ担当者、経営層410人を対象に実施した調査結果をまとめた「セキュリティ疲れ白書 2026」を発表した。
TD SYNNEXは、守るために導入した複数のセキュリティツールやアラートへの対応によって、現場が疲弊し、限界感を抱く状態を「セキュリティ疲れ」と定義している。複数のセキュリティツールの運用やアラート対応などについて、疲弊感・限界感を「強く感じる」「やや感じる」と回答した割合は75.4%に達したという。
「守るためのツール」が現場を疲弊させる 75.4%が感じた運用限界
背景には、サイバー攻撃の高度化・巧妙化に加え、クラウドや生成AI・大規模言語モデル(LLM)の業務利用など、企業のIT環境が複雑化していることがある。こうした環境に対応するためにセキュリティ製品を追加すると、管理画面が分散したり、異なる製品から大量のアラートが発生したりする。製品間で機能が重複し、同じような情報を複数の場所で確認しなければならないケースも考えられる。
ここで注意したいのは、「複数のツールを使っていること」と「ツール過多」は同じではないという点だ。EDR(Endpoint Detection and Response)やメールセキュリティ、ID管理、SIEMなど、複数の製品を組み合わせること自体は現在の企業環境では珍しくない。問題になるのは、導入した製品から得られる情報をどのように統合し、重要度を判断し、対応につなげるかという運用の複雑さだ。
調査では、セキュリティ対策やアラート対応について疲弊感・限界感を「強く感じる」と回答した人が23.2%、「やや感じる」が52.2%で、合計75.4%となった。「あまり感じない」は19.3%、「全く感じない」は5.4%だった。
現在の主な課題として挙がったのは、「人材不足・属人化」が57.3%で最も多く、次いで「アラート対応の負荷増大」が43.9%、「脅威の可視性不足」が27.1%、「ツール乱立・管理複雑化」が26.3%だった。
この結果からも、現場の負担を「ツールの数」だけで説明するのは難しい。人材不足や属人化、アラートへの対応負荷などが重なり、セキュリティ運用そのものが複雑になっている構図が見える。
特に目を引くのが、特定担当者への依存だ。「強く感じる」「やや感じる」と回答した割合は合計87.3%に達した。また、人材不足がセキュリティ運用に「深刻な影響がある」「ある程度影響がある」とした回答も78.8%に上った。
つまり、セキュリティ製品から上がってくる情報が増えても、それを読み解き、対応の要否を判断できる人が限られていれば、負担は一部の担当者に集中する。ツールによって検知能力を高めても、最終的な判断を人が担う構造が変わらなければ、別の場所に負荷が移る可能性がある。
同社は、こうした「セキュリティ疲れ」の構造要因として、「ツール過多」「アラート疲れ」「可視性ギャップ」「人材不足・属人化」の4点を挙げている。
このうち「可視性ギャップ」は、単純に「何も見えていない」という意味ではない。多くの情報が得られていても、それが脅威の全体像を把握し、対応を判断するために十分な形で整理されているとは限らない。見えている情報と、実際に判断に使える情報との間にギャップが生じることが問題になる。
こうした状況では、アラートが一つ増えるたびに担当者が確認し、複数の画面やログを行き来しながら対応の優先順位を判断することになる。平時には何とか回っていても、重大なインシデントが発生して大量のアラートや調査事項が押し寄せれば、運用の弱点が一気に表面化する可能性がある。
問題はツールの数だけではない 87.3%が感じる「属人化」というリスク
では、現場はどのような改善を求めているのか。
最も多かったのは「アラート対応の自動化・優先順位付け」で36.3%だった。次いで「脅威の可視化・ダッシュボード強化」が26.1%、「ツールの統合・一元管理プラットフォーム」が17.8%、「運用プロセスの簡素化」が15.6%となった。
一方、「MDR・SOCアウトソーシング」は3.9%にとどまった。
この数字から読み取れるのは、人手不足だから単純に外部運用を丸ごと任せたい、というニーズだけではない。むしろ現場が求めているのは、増え続ける情報の中から重要なものを絞り込み、担当者が本当に判断すべき仕事に集中できる環境だ。
例えば、全てのアラートを人が同じ重みで確認するのではなく、重要度に応じて優先順位を付ける。複数の製品に分散している情報をまとめ、攻撃の全体像を把握しやすくする。さらに、対応手順や判断基準を明文化し、特定の担当者だけが状況を理解している状態を減らす。
こうした取り組みは、単なる「セキュリティ担当者の働き方改革」ではない。
87.3%が特定担当者への依存を感じているという結果を踏まえれば、属人化はインシデント発生時の事業継続にも関わる問題になる。例えば、ある担当者だけが各セキュリティ製品の情報を読み解き、攻撃の状況や対応方針を判断できる状態なら、その担当者が不在になったとき、組織として初動を取ることが難しくなる。
さらに、ランサムウェアなどによって業務停止が発生すれば、「何が起きているのか」「どこまで影響しているのか」「復旧を始めてよいのか」といった判断を短時間で迫られる。平時から情報が分散し、判断が属人化していれば、こうした有事の対応にも影響する。
その意味で、セキュリティ運用の効率化は、単に日々の担当者の負担を減らすための施策ではない。誰が見ても状況を把握でき、複数の担当者が一定の基準で判断できる状態を作ることは、インシデント時の初動や復旧を支えるBCP(事業継続計画)の一部にもなる。
今回の調査結果から見えてくるのは、「セキュリティ製品を増やすな」というメッセージではない。必要な対策を導入しながら、その結果として増えた情報やアラートをどう扱うのか、そして最終的な判断を誰が担うのかという運用設計の問題だ。
セキュリティ対策では「何を導入するか」に目が向きやすい。しかし、製品を増やした先で担当者が情報の整理と判断に追われ、その人がいなければ対応できないのであれば、別のリスクを抱えることになる。
重要なのは、検知できる情報を増やすことだけではない。組織として「何を重要な脅威と見なすのか」「誰が判断するのか」「担当者が不在でも対応できるのかどうか」をあらかじめ決めておくことだ。
セキュリティ疲れへの対策は、現場を楽にするためだけの話ではない。守るために増やした仕組みが、いざというときに組織の判断を止めることがないよう、セキュリティ運用そのものを見直すことが求められている。
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