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AIでヘルプデスクの価値はむしろ上がる? 仕事が減った後に考えるべきこと:正しく評価されるための情シス入門

生成AIを導入すれば、ヘルプデスクの問い合わせは減る――。そう考えているなら、少し見方を変えた方がいいかもしれません。AIに回答させた件数だけを見ていると、本当に改善すべき問題を見落とすからです。これからのヘルプデスクに求められる役割とは何でしょうか。

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 前回は、ヘルプデスク業務の本質を掘り下げて、利用者からの問い合わせに対して単に「対応する部署」から「改善する部署」に転換するための“仕組み化”のコツを伝えました。

 一方で最近は「AIがヘルプデスクの仕事を奪う」という話をよく耳にします。果たしてこれは本当なのでしょうか。今回は、生成AIの普及によってヘルプデスクの役割がどのように変化し、人にしか担えない価値がどこに残るのか、AIヘルプデスクの賢い使い方について考えていきます。

 筆者は、ヘルプデスクエンジニアが最終的に目指すべき姿は、「問い合わせ対応者」ではないと思っています。目指すべきは、問い合わせの背景にある課題、ひいては組織のIT課題を見つけ、仕組みで解決できる人材です。

 「問い合わせを分析する」「原因を特定する」「FAQやマニュアルを整備する」「申請フローを改善する」「システム改修を提案する」「生成AIやチャットbotを活用する」「ユーザーが問い合わせをしなくても仕事が進む環境を作る」。それこそが本来のヘルプデスクの価値です。言い換えると、目指すべきゴールは、「対応する人」から「改善する人」になることです。

 これができる人材は情シスの中だけではなく、どの企業でも必ず重宝される存在になるでしょう。

連載「正しく評価されるための情シス入門」について

情シスは採用の見極めや評価指標の不在、意思決定の曖昧(あいまい)さにより、その実力や価値が正しく伝わりにくいジレンマを抱えています。本連載では、経歴の見抜き方やツール選定の本質、ヘルプデスクやキッティングの再評価、“ぼっち情シス”の限界などを通じて、単なる「何でも屋」から脱し、正当に評価されるための実践的な視点を提示します。

AIに問い合わせを100件答えさせて、そこで終わっていいのか?

 生成AIの登場によって、これまで人が対応していた問い合わせの多くは、生成AIやチャットbotによって自動化できるようになりました。「パスワードのリセット方法」「申請手順の確認」「PCの初期設定」「社内ルールの確認」といった定型的な問い合わせは、今後さらにAIが担うようになるでしょう。

 しかし、筆者はそれを悲観的には捉えていません。むしろヘルプデスクという仕事の価値がこれまで以上に高まる時代になると考えています。なぜなら、AIが代替できるのは「回答する仕事」であり、「改善する仕事」ではないからです。

 生成AIは、膨大なナレッジをベースに適切な回答を返しますが、「なぜこの問い合わせが発生したのか」という根本原因を考え、業務や運用を改善することは、人が担うべき役割です。

 例えば、毎月100件の問い合わせがAIによって自動回答されるようになったとします。そこで満足してしまう組織もあるでしょう。しかし、本当に考えるべきことはそこではありません。

 重要なのは、「なぜ100件も問い合わせが発生しているのか」という根源的な問いです。その原因はもしかすると「分かりにくいマニュアル」や「システムのUI」「複雑な権限申請」「従業員の教育不足」「そもそも業務フローそのものに問題がある」などにあるのかもしれません。

 このような視点で原因を分析し、問い合わせそのものを減らす活動は、AIにはできないでしょう。AIは回答することは得意ですが、「改善テーマをそのものを見つけること」は、そこで働いている私たちだからこそできることなのです。

AIを導入しただけでは、ヘルプデスクは変わりません

 ここまで読んでいただいた方にはもう察しが付くかもしれませんが、生成AIやAIチャットbotを導入しただけで問い合わせ件数が大きく減るという“魔法のようなこと”は起こりません。その理由はシンプルで、ナレッジが整理されていないからです。

 社内Wikiや共有フォルダ、PDF、パワポ・ワード、チャット履歴、メールなど情報があちこちに散らばり、内容も古いまま更新されていない。この状態では、AIも正しい回答を返せません。ですからAIに力を発揮させるためにも、まずは「社内ナレッジ」を整理して育てる必要があります。そしてそれこそがヘルプデスクの新たな役割なのです。

 FAQやマニュアルは一度作成して終わりではありません。時間がたつにつれてシステムや業務フロー、組織環境といった環境は変わり、情報は古くなります。そのため「作る」だけではなく「育てる」作業、具体的には、問い合わせが来て回答して終わるのではなく、「この内容をFAQに追加しよう」「このマニュアルは分かりにくいから改善しよう」「AIが回答できるようにナレッジを更新しよう」という一連のサイクルを回し続けることが重要です。

 この運用を継続すればナレッジが充実し、AIの回答精度も高まります。結果として、問い合わせ件数は減り、人はより本質的な改善活動に時間を使えるようになります。

問い合わせに答える仕事から、問い合わせを生む仕組みを変える仕事へ

 筆者が所属しているバリュエンステクノロジーズが提供するAIチャットbotツール「helpmeee! KEIKO」は、生成AIやRAGを使って、社内ナレッジを基に24時間365日、自動で問い合わせに回答する仕組みです。当社が目指すのは「AIチャットbotを作ること」ではなく、この導入によって「問い合わせ対応」を「組織改善」に転換することです。

 AIだけで回答できる問い合わせはAIに、AIでは判断できない内容は有人対応にエスカレーションします。また、有人対応の内容を分析し、新しいFAQやナレッジの作成を提案する。問い合わせ件数や傾向を可視化し、「どこに改善余地があるのか」を分析する。このサイクルを継続することで、社内ナレッジを充実させて、問い合わせ件数そのものが減る仕組みの実現を目指しています。

 筆者はこれまでさまざまな企業の情シスを支援してきましたが、「問い合わせ対応を効率化したい」という相談は数多く受けます。しかし本当に目指すべき姿は、「問い合わせを効率的に処理すること」ではありません。問い合わせが発生しにくい組織をつくることです。そのために、AIを活用する。それが筆者たちの考える生成AIの活用方法です。

 ヘルプデスクにはユーザーの困りごとが集まります。ユーザーがどこで困るのか。どんなシステムが使いにくいのか。どのルールが分かりにくいのか。しかしその情報を持っているだけでは意味がありません。

 そこから改善提案をし、仕組みを変え、業務を変え、組織を変える。そこまでできて初めて、ヘルプデスクは会社の価値を高める存在になります。筆者は、ヘルプデスクという仕事は、情シスの入口ではなく組織改善の最前線と考えています。

 現場の困りごとが集まりやすいヘルプデスクこそがそれを改善して仕組みに反映できる存在なのです。

生成AIで仕事が減った後にこそ問われる価値

 ヘルプデスクは「困っている人を助ける仕事」で終わるものではありません。問い合わせを分析し、ナレッジを整備し、AIを活用し、業務を改善し、問い合わせそのものを減らす。その積み重ねが、組織全体の生産性向上やコスト削減、そして従業員体験の向上につながります。「上流」「下流」という言葉は、あくまで工程の順番を表しているだけです。価値を決めるものではありません。

 生成AIの登場によってヘルプデスクの仕事が減るのは事実かもしれませんが大事なのはその減る仕事をどう捉えるかです。単純な問い合わせ対応から解放され、人にしかできない改善活動に時間を使える時代が始まっています。

 筆者は、この変化はヘルプデスクという仕事にとって大きなチャンスだと考えています。問い合わせに追われる日々から、問い合わせをなくす仕組みを考える日々へ。その変化こそが、これからのヘルプデスクに最も求められる価値ではないでしょうか。

次回予告

 「有名だから導入する」は、なぜ危険なのか――ソリューション選定で本当に見るべきものとは。

 「業界シェアNo.1だから」「大手企業も導入しているから」。ITソリューションの選定では、こうした理由が意思決定の後押しになる場面をよく目にします。しかし、本来問われるべきなのは「何の課題を解決するために導入するのか」「なぜそのツールでなければならないのか」「導入後にどの指標がどう改善するのか」という視点です。

 次回は、ブランドや知名度に左右されない、本当に価値のあるITソリューション選定の考え方について、CIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者)の視点から解説します。

筆者紹介:木戸啓太(バリュエンステクノロジーズ 執行役員 CIO / CISO コーポレートIT部 部長/コーポレートエンジニア)

NetworkEngineer、ServerEngineerを経て、外資系ベンダーでSIer及び社内システムEngineerを経験。その後、freee株式会社に確実なIPO実現のため、コーポレートIT部門の立ち上げの責任者として参画。同社では、ITEngineerも務めながらCSIRTも兼務し、セキュリティ整備を実施。現在は、バリュエンステクノロジーズ株式会社の執行役員CIO/CISO、情報システム部長/コーポレートエンジニア。また、他社での業務委託やIT顧問なども担いISMSやPマーク取得〜更新、監査対応等も対応。



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