アーキテクチャ・ジャーナル

アーキテクトのソフト・スキル

Joe Shirey
2009/06/01
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様々な観点の認識

 プロジェクト関係者から開発者やテスト担当者まで、チームの各メンバーが対立を生む可能性のある見解とモチベーションを持っており、プロジェクトを頓挫させることすらある問題をアーキテクトに突きつけます。開発チームの考え方がチームの外から損なわれることがよくあります。このような態度は、チームがソリューションの重要なビジネス的な考え方を失う可能性があるという理由だけでなく、他人を疎外し、扱いにくいという悪評が立つリスクも負っているという理由で危険です。このようなグループをまとめて、チームがビジネス ニーズを満たす最良のソリューションを構築できるようにすることが、アーキテクトの役割です。

 ソリューションを最適なものにするには、他者の多様なニーズを理解することが重要です。他者のニーズを理解する最良の方法は、彼らの考え方でビジネス問題を捉えることです。システムのエンド ユーザーは使いやすさに関心がありますが、業務管理者は運用環境で確実にシステムを適切に運用することを望んでいます。それぞれの関係者の視点から考えることで、ソリューション アーキテクチャの形が明らかになります。それぞれの人に提供できるものがあると考えると、本当の連携と意味のあるコミュニケーションが促進されます。

 アーキテクトは、関係者すべてがプロジェクトのビジネス促進要因を理解したり信じたりしているわけではないことを認識する必要があります。個人的なモチベーションや組織の政策は、実り多い連携のためにならない場合もあります。アーキテクトとしてすべての要因を制御することはできませんが、ビジネスの促進要因に従ってこのような反応を組み立てる時間を取れば、他の人は重要ではない要因や対立する要因を持ち込みにくくなります。

 開発チームでは、多くのアーキテクトが指導的役割を担っています。環境によっては、開発チームの考え方を管理することが困難な場合があります。自分たちのチーム以外の人とめったに協力しない開発チームもあります。彼らは孤立し、組織から切り離されてしまいます。他の人には実行すべき業務があり皆が同じチームに属していることを、プロジェクト チームの誰かがチームのメンバーに絶えず思い出させることです。グループで不満が出始めたときに、リーダーがそれに加わるのではなく、他の考え方やモチベーションをチームのメンバーに紹介してイニシアチブを取り、チームが変わっていくのを見るのは素晴らしいことです。

様々な観点の認識に関する戦略の要約

  • 時間をかけて個人の考え方とモチベーションを理解します。
  • さまざまな考え方に配慮します。
  • ビジネス促進要因を導く会話を構成し、個人的な意図を減らします。
  • 他のメンバーが他の考え方に気付くようにして、指導力を発揮します。

コミュニケーション

 コミュニケーションがアーキテクトの主要なスキルであることには多くの人が同意するでしょうが、その役割の一部として効果的なコミュニケーションを熟考のうえ戦略的に実行するアーキテクトはめったにいません。私たちの大部分はもともと技術系であるため、問題が発生したときに自分の技術的な強みに立ち戻る傾向があります。

 多くの問題は、日常使用している言葉でコミュニケーションを図れないことに原因があります。私が知っている最も優れたアーキテクトには、経営幹部と会うとビジネス用語で議論し、開発チームと会うと技術的な議論に飛び込んでいく人がいます。このスキルは学習できるものですが、訓練と聞き取りのスキルが必要だと思います。

 言葉の通じない外国を旅行したとき、他人との会話がどんなに難しいかわかるでしょう。言葉がわからないというだけで信用されないこともあります。しかし、基本的な言葉を少し覚え、文化と習慣を理解しようとすれば、歓迎されることもあります。一般的に、言葉に堪能な人が信用され受け入れられる傾向にあります。

 新しい会社で仕事をするときに、同様の経験をしたことがあると思います。新しい言葉、文化、および習慣を学ぶ必要があります。たとえば、ある会社では “アーキテクト” という言葉が別の会社のアーキテクトとは全く異なる役割を意味することがあります。時間をかけて言葉のニュアンスに気付き、日常のコミュニケーションの中でその言葉を使用するようになります。以前は何の意味も持たなかった略語を日常の会話に取り込むようになります。

 このようなサブグループの文化変容が企業内でも起こることがあります。各グループが独自の “ネイティブな” 言語を発達させます。アーキテクトとして、このような言語のヒントを注意深く聞き取り、企業内での使い方を理解することが重要です。聞き手に応じて適切な言語と用語を使用して、複数の言語を使いこなせるようになる必要があります。

 開発すべきスキルは、グループで使用されている言語をすばやく理解し、ミーティングの最中であっても効果的に使用する能力です。つまり、グループで過ごす間に効率的に聞き取って学び、用語のリストを作成し始めるのです。話す相手の “母国語” でコミュニケーションを図ることにより、信用の障壁を乗り越え、開かれたコミュニケーションの可能性を広げます。

 組織内で複数の言語を操れるようになったら、言語とニーズを橋渡しするようにミーティングを再構築したいと考えるかもしれません。ビジネス グループと技術グループのミーティングを行ったものの、片方のグループがミーティングの主導権を握り、他のグループが関心を失って、コミュニケーションが図れなくなってしまったミーティングに参加したことが何度もあります。異なるグループをまとめる場合、各グループが効果的にコミュニケーションを図れるように、通訳の役割を果たす必要がある場合があります。

 コミュニケーションのすべての過程で、最も重要な目標の 1 つに聞き手との信頼関係を構築することがあります。私が考える最良の方法は、そつなくオープンに、公正に、ということです。一般的に、相手の発言内容を信用できると感じた場合、評判の悪い人でも本当の考えを示す傾向があります。

 プロジェクトのスポンサーとコミュニケーションを図るとき、オープンで公正なコミュニケーションは非常に重要です。私は、アーキテクトとプロジェクトのスポンサーの間の強力なコミュニケーション プランでプロジェクトが開発されたのを何度も見てきました。このような場合、スポンサーはポジティブな状況もネガティブな状況も常に最初に知るため、スポンサーがプロジェクトの主導権を握り、必要に応じて対処できました。

 このようなコミュニケーションは非常に効率よく行う必要があります。スポンサーに対し、プロジェクトの細かな内容まで含まれた 20 ページの現状報告書を毎週送るのは、誰の時間も効率的に使用していることになりません。1 週間に 15 分間、マクロレベルのプロジェクト統計と主要な問題およびリスクの記載された 1 枚の用紙の片面を使用した現状報告書が届けば、効率的なコミュニケーション経路が確立され、緊密な関係が構築されると考えます。このプロセスを使用したとき、プロジェクトのスポンサーから、過去のどのプロジェクトよりも積極的にプロジェクトに関与しているように感じたという意見をもらいました。

 他者とのコミュニケーションを図るときは、絶対を排除することが重要です。“できません” や “しません” は融通が利かないという印象を与えます。そうではなく、オープンで公正な方法で選択肢や決定の影響を示します。このアプローチによって対等で友好的な会話を進め、コミュニケーションをディベートではなくディスカッションにします。ビジネスの促進要因がディスカッションの一部でもある場合は、共同意思決定を行うフレームワークがあります。

●コミュニケーションに関する戦略の要約

  • 他者とのコミュニケーションを図るときは、その “ネイティブな” 言語を使用します。
  • オープンで公正な環境を作ります。
  • プロジェクトのスポンサーとの効率的なコミュニケーションを図ります。
  • 可能な場合は選択肢とその影響を示します。

まとめ

 私たちの多くは、ソフト スキルをさらに発展させて、毎日の役割の中で効率を向上させることで利益を得ることができます。ここで説明したフレームワークは、このような重要なスキルを向上させるための戦略の開発に役立てることができます。End of Article

著者について

Joe Shirey : コロラド州デンバー在住のマイクロソフト上級アーキテクト。マイクロソフトに入社する以前は Interlink Group の副社長を務め、その最大の市場に対するサービス提供を担当していました。これまでにマイクロソフトの地域ディレクタを務め、Microsoft Architect Advisory Board および .NET Partner Advisory Council のメンバーも務めました。プロジェクト管理、システム分析、設計、開発、および実装の面で、実践的な技術および機能の経験を 18 年以上積んでいます。2005 年にはマイクロソフト認定アーキテクト (ソリューション) になっています。


 

 INDEX
  [アーキテクチャ・ジャーナル]
  アーキテクトのソフト・スキル
    1.ソフト スキルを取り上げる理由/ビジネスとの連携
  2.様々な観点の認識/コミュニケーション

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