アーキテクチャ・ジャーナル 混迷する時代のアーキテクチャ Mike Walker2010/04/21 |
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本コーナーは、マイクロソフトが季刊で発行する無料の技術論文誌『アーキテクチャジャーナル』の中から主要な記事をInsider.NET編集部が選び、マイクロソフトの許可を得て転載したものです。基本的に元の文章をそのまま転載していますが、レイアウト上の理由などで文章の記述を変更している部分(例:「上の図」など)や、図の位置などを本サイトのデザインに合わせている部分が若干ありますので、ご了承ください。『アーキテクチャ ジャーナル』の詳細は「目次情報ページ」もしくはマイクロソフトのサイトをご覧ください。 記事の著作権はマイクロソフトに帰属する。
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■概要
ITビジネスの原動力、付加価値を高める方法、企業価値の回復に役立つ重要な焦点分野およびテクノロジについて解説します。
■はじめに
私たちが置かれている(執筆当時)経済状況は、情報技術(IT)のプロフェッショナルにとってとりわけ厳しいものとなっています。金融部門やその関連業界での事件は、テクノロジ関連の製品やサービスに大きな影響を及ぼしています。経済危機の長さ、深刻度、影響については経済学者の間で盛んに議論されていますが、当面の間厳しい状況が続くことは間違いないでしょう(Forrester; 2008年10月15日付の記事を参照)。今後数年にわたってビジネスやITの優先事項に大きな影響が及ぶことが予想されます。
不況下においても投資や改革をたゆまず推進することで、不況の中でも、不況を乗り越えた後も大きな競争上の優位性を維持できます。さらに、目下の困難にとらわれず、この経済状況に潜むビジネス チャンスを見据えて行動する企業は、不況が去った後も長期にわたって事業の繁栄を持続していくことができるでしょう。この分かりやすい例が、買収による成長です。鍵となるテクノロジの評価と買収を行うことで、市場における企業の地位を高め、リスクの削減や株主価値の向上を実現できます。
ITはこうした改革の要として、企業を成功に導きます。アーキテクトをはじめとするITの意思決定者の需要は高まり、その専門知識を最大限に発揮することが求められるでしょう。ここでアーキテクトは、数百万ドル単位の影響力を持つ、複雑で視野の広い意思決定の基礎となる技術的なノウハウを提供するのです。
この記事では、現在の経済状況が、企業のアーキテクチャ、そして数多くの企業で技術面の意思決定者を務めるアーキテクトの両方に与える影響に注目します。経済状況と、経済状況が企業にもたらす影響を探ることで、注目すべき重要なテクノロジ分野が浮かび上がってくるでしょう。そして、このテクノロジ分野から、企業のニーズを満たすテクノロジを具体的に探っていきます。
■アーキテクトに対する要求の変化
この新たな経済状況の下で、企業は、ビジネスの優先事項に合わせたIT意思決定者の再編に着手しています。企業とアーキテクトの連携は不可避の課題となっています。アーキテクトは、ITに関する重要な意思決定の要に位置する存在であり、自ら意思決定を行ったり、相談役として意思決定をサポートします。この再編成により、アーキテクトにとっての優先事項にも変化が生じます。刺激的で最先端の、戦略的テクノロジ
こうした動きは、以下のような現在の市場動向にも見て取ることができます。
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小さなコストで大きな成果を: 大企業はIT予算を50%以上削減しながらも、サービスレベル契約(SLA)については従来と同じ水準を維持する意向を示しています。
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既存プロジェクトのコスト削減: 上記の「小さなコストで大きな成果を」と同様、プロジェクトのコスト削減は、ITとビジネスの方向性を定める緊急かつ戦術的な取り組みとなります。特に、大規模なサービス指向アーキテクチャ(SOA)プロジェクトは、より実践的で実行可能な内容に変わり、数年を要する野心的なプロジェクトは減るでしょう。
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企業の合併・買収(M&A): 市況が厳しさを増すにつれ、業界では統合・合併が進むでしょう。一方、IT化はビジネスのあらゆる側面で進んでいます。一般に、さまざまな企業に導入されているプロセスやテクノロジは、各社で似ているものの、同一ではありません。これまでに増して、テクノロジを理解し、M&Aの意思決定プロセスにその洞察力を提供できるアーキテクトが求められています。
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技術基盤の再活用: 人材は資産です。人材が企業をつくります。IT意思決定者は、この困難な時代にリーダーシップを発揮し、技術的知見を活かすことで、意思決定を強化し、成長を実現し、経済危機を改革のチャンスに変えられるようになります。
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新しいアウトソーシングの試み: 既に実証されている手法を生かすと共に、企業の価値を高める新たなテクノロジが登場していることも忘れてはなりません。こうしたテクノロジには、PaaS(Platform as a Service)やSaaS(Software as a Service)などがあります。たとえばマイクロソフトは、データ ストレージ、ワークフロー、アプリケーション開発をホストするクラウドサービス インフラストラクチャであるAzureや、SaaSソリューションであるDynamics CRM Liveなど、さまざまなサービスを提供しています。
これまでの業務の在り方が変化する中、アーキテクトには、幅広いスキルを活かして、業界や企業のニーズに対応することが求められます。アーキテクトが活かせるスキルには、次のようなものがあります。
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モチベーションとインスピレーション: 価値収益率が見えにくいなど、ITに関する意思決定が複雑化する場合は、購入を認めさせるために社内を説得することが必要になります。アーキテクトは、このスキルを活かして、正しい目標に向けて社内の結束を高めることができます。
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交渉力: 意思決定のための会議には、目的達成に向けてアーキテクトが交渉しなければならない局面が多々あるでしょう。アーキテクトの多くは個人として働く存在であり、組織力は有していません。このため、交渉力は重要な鍵となります。
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批判的な思考: アーキテクトには、常に迅速かつ柔軟に考えられることが必要です。的確な意思決定がビジネスの生命線となる時代では、特にこのスキルが重要になります。
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問題解決能力: アーキテクトには、従来の問題を解決する場合でも、革新的なアプローチを求められるようになるでしょう。ビジネスに対するさまざまな力によって過去の問題は変容してきており、定量的・定性的な評価・解決方法が不可欠です。
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大局的な思考: コスト抑制や投資回収率(ROI)強化の要請が強まる中、IT担当者には、これまで以上に全体を見渡す視野を持つことが求められます。広い視野に立ち、自らの根拠をさまざまな角度から検証できる能力は、IT部門の他の従業員にも示すべきアーキテクトのスキルです。
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ビジネスへの精通: ビジネスに対する深い理解は、ITに関する正しい意思決定を行うために不可欠です。ビジネスに精通したアーキテクトはそのスキルを活かして企業上層部や各方面の専門家(SME)と意見を交わし、理解を深めます。自らが所属する業界を理解することはきわめて重要です。アーキテクトは、テクノロジに関する意思決定がビジネス目標にどのように影響するか、さらには業界に対してどのような影響をもたらすかを理解できるようになります。
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プロセス指向: プロセスの観点から思考できることは、アーキテクトにとってきわめて重要です。ビジネスにおいては、プロセスは共通の言語として使われるためです。ビジネス リーダーの観点に立った思考が重要であるのと同様に、作業成果および作業方法の両方を、繰り返しおよび再利用が可能なプロセスにまとめることが重要です。
上に挙げた、プロセス指向、ビジネスへの精通/技術的知見、批判的思考などのスキルを備えることで、アーキテクトは所属する企業の状況をより良く理解できるようになります。業界に対する影響力は企業によって異なりますが、企業を理解することは、その影響力を理解することにもつながります。
企業の優先事項を理解するためには、一歩下がって、企業が進む方向性に影響を与える要素を理解する必要があります。このような企業の針路を決定する影響(または力)には直接的なものと間接的なものがあります。これらの力は時間の経過と共に変容するため、予測するのは非常に困難です。企業のSMEは力を非常に深く理解しており、意思決定がそれに適うものであるかどうかを見極めるために耳目を研ぎ澄ませています。アーキテクトもこれを見習うべきです。
ITは、単に企業に戦略的価値をもたらすだけの存在ではなくなりました。つまり、もはや必要悪あるいはコスト センターではなく、ビジネスにおける真の差別化要因としての存在感を強めています。アーキテクトが力を理解することによって、企業の目標や目的が最適化された状態を自然に導き出すことができます。
力は、以下の3つのグループに大きく分けることができます。
- 外部からの力: 社外から加わる力で、制御することは不可能。
- ビジネスの力: 純粋に業務に関連した力で、企業の内外から加わる。
- 内部からの力: 企業固有の文化や業務形態に由来する力。
CIO、COO、およびITアーキテクトは、これらの力について検討し、テクノロジに関する意思決定、イニシアチブ、プロジェクト、購買行動を実行します。これらの力を理解することによって、アーキテクトは、ビジネス上の優先事項および要請に対して迅速に、容易に、そしてより確実に対応できます。
図1に、業界の力と、力が企業に与える影響を詳しく示します。“外部からの力”は、企業に影響を及ぼす、市場の広い範囲で発生した事象・状況を指します。ビジネスの力とは異なり、こうした事象は制御不能で、企業は何らかの対応を余儀なくされます。
図1:企業に対する業界の力 |
次に、ビジネスの力が形成される際の推進要素として代表的なものを示します。
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経済の低迷: 経済の低迷がビジネスに著しい影響を及ぼすことは、疑う余地がありません。Gartner社は、ITの成長率が世界規模で大幅に低下すると予測しています。当初の予測では、8.9%から7.3%への下落(2008年時点)でしたが、現在では5.8%から2.3%へと下がると予測されています。
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法規制の遵守: 企業は常に法規制の遵守が求められてきました。しかし現在、経済危機の煽りを受けてこの要請が今まで以上に高まっています。政府はこれからも、グリーン IT、セキュリティとプライバシー、監査、業種別の法規制などを複合的に組み合わせ、義務付けていくと予想されます。興味深いことに、テクノロジ リーダーの43%が、2008年の大統領選がITに関する意思決定の行方に影響すると考えています(CDW IT Monitorの2008 年9月10日付の記事)。
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自然災害: 現在の企業では、ITシステムの可用性と情報の整合性への依存度はますます高まっています。こうした依存性や頻発する自然災害を前に、アーキテクトはシステム構築の在り方を見直さざるを得なくなっています。事業継続計画、データ レプリケーション戦略、災害復旧対策を準備する必要性が減ずることは今後もないでしょう。
“ビジネスの力”は、ビジネスに直接関係する力であり、事業の運営方法や意思決定に影響します。次に、この不確実な時代に企業に影響を及ぼす主要な“ビジネスの力”を示します。
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競争の激化: 市場の縮小する中、企業間の競争が激化しています。こうした競争状況を受けて、アーキテクトには、彼らが担当するミッションクリティカルなソリューションへの注力が求められています。さらに、企業は、競争上の理由から自社のIT予算を積極的に削減していることを公開したがらないという Gartner 社の調査結果も、こうした状況を裏付けていると言えるでしょう。
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M&Aの活発化: 現在の経済状況下(執筆当時)では企業買収が活発化します。既に金融部門で見られるこの動きは、他の業種にも波及すると考えられます。M&Aの活発化はITの活発化をもたらすと考えられます。アーキテクトは、テクノロジ ポートフォリオの評価、トレードオフ分析、アーキテクチャのギャップ分析、セキュリティの分析と評価、統合解析において大きな役割を担います。
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業務最適化への取り組み: 高まる競争圧力や穏やかな成長予測から、多くの企業で少ない投資でいかに多くのリターンを得るかということが課題になってくるでしょう。アーキテクトは、ビジネスの活動を評価、追跡、分析するための機能を吟味する必要があります。
“内部からの力” は、”外部からの力”と“ビジネスの力”の両方によって生じます。これらの力は、IT 業務にずっと近い存在である多くのアーキテクトにとって直接的な関わりがあります。
- プロセスの改善 : 業務の最適化が必要性なことから、プロセスの改善や合理化が行われます。アーキテクトは以下の 2 つの点に注目します。
- プロセスを評価、追跡、分析するシステムの効率化。
- 条件の変化に適応するため、プロセスを最適化する取り組みの一端を担う。orrester 社の Gene Leganza 氏は、「エンタープライズ アーキテクトは、開発、サポート、運用の各チームと協力して意思決定を促す役目を負う」と述べています(Forrester 社の 2008 年 10 月 28 日付の記事を参照)。
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インフラストラクチャの最適化 : インフラストラクチャおよびアプリケーションの最適化は、“小さい投資で大きな成果”の実現に向けた必須の取り組みです。予算が圧迫され、サーバー予算も縮小しているため、アーキテクトは、インフラストラクチャの効率性を見直す必要があります。そして多くの場合、ここにはインフラストラクチャへの投資を統合、仮想化、一元化、再目的化できるチャンスがあります。
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アプリケーション ポートフォリオ管理 : インフラストラクチャだけでなく、アプリケーションについても見直しが必要です。アプリケーションは、アーキテクトや上級技術責任者にとっても把握しにくく、不透明なものになりやすい傾向があります。コストや法規制の圧力が高まる中、アプリケーションを深く理解し、管理を強化することが不可欠です。
INDEX | ||
[アーキテクチャ・ジャーナル] | ||
混迷する時代のアーキテクチャ | ||
1.アーキテクトに対する要求の変化 | ||
2.アーキテクトが付加価値を高めるには | ||
3.重要な4つのアーキテクチャ要件 | ||
「アーキテクチャ・ジャーナル」 |
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