アーキテクチャ・ジャーナル

SOAのためのエンタープライズ アーキテクチャ戦略

Hatay Tuna
2010/08/04
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サービスを通じた変更の管理

 各変更には、実装に対するビジネス ニーズの識別から、変更後の成功の検証までのライフ サイクルがあります。図 11 に、このような変更 (サービスを通じたケイパビリティの変換) のライフ サイクルにおいて、組織が経験する主なフェーズを示します。

図 11: ビジョンからバリューへの旅

 SOA の実装フェーズ (旅) を既存の IT 機能に組み込むことをお勧めします。既存の IT 機能には、Microsoft Operations Framework (MOF)、Information Technology Infrastructure Library (ITIL)、Control Objectives for Information and related Technology (COBIT)、および国際標準化機構 (ISO) などがあります。これにより、組織では、多くの IT チームが使い慣れた構造化/体系化された形式で、サービスのライフ サイクルを管理できます。また、組織では既存の人やプロセスを活用して、不要な組織的、政策的障壁を作ることなく、サービス指向へと考え方を最適化できます。

 これらのフェーズについて、簡単に見ていきましょう。

手順 #1: ケイパビリティの優先順位付けとサービスの識別を行う

 “サービスの計画” は、アーキテクトが “ケイパビリティ アーキテクチャ” と “サービス指向モデリング” を実行して、ケイパビリティとモデル サービスの優先順位付けを行う重要なフェーズです。このフェーズの目的は、次のとおりです。

  1. ビジネスのコンテキストに基づいて、注意が必要なケイパ ビリティを識別し、優先順位を付ける。
  2. サービスおよびサービス指向に対して優先順位の高いケイ パビリティを評価する。
  3. 識別されたサービスとその主なコンポーネントをモデル化 する。

 これは基本的な課題を解決するためのフェーズです。基本的な課題とは、SOA に着手する領域や方法、サービスの識別方法や範囲の決定方法などです。

 主な成果物は “承認されたプロジェクト” であり、これにより、要求された “変更” を表す “サービス” を提供します。

手順 #2: サービスを通じてケイパビリティを変換する

 “サービスの提供” には、ケイパビリティの変換 (要求された変更のサービスを通じた実装) が関係しています。ケイパビリティの属性と境界、また、サービス指向モデルが、アーキテクトとこの提供フェーズに不可欠なインプットを提供します。

 サービス指向モデリングでは、ビジネスに至るまでのすべてが接続されるので、この提供フェーズを通してエンドツーエンドの視認性や追跡可能性が実現され、現在実行している作業のコンテキストがチームに提供されます。

 このサービスの提供フェーズでの最終的な目的は、ケイパビリティを実装し、要求される変更を表す信頼性のあるサービスを運用環境に提供することです。

手順 #3: サービスの運用中のケイパビリティを監視する

 “サービスの運用” では、運用環境に展開されたサービスとそのコンポーネントの運用と監視を主に行います。これらは、ケイパビリティを表すサービス (サービス コンポーネントにより構成) の運用の正常性やパフォーマンスに関係します。

 組織では、主なサービスの特性 (SLA、QoS の要件、KPI など) を継続的に監視する必要があります。

 サービスの運用の結果得られる主なものには、“サービスの正常性とパフォーマンス” (形状や形式に関係なく、サービスの成功を表すもの) が、正常なサービス計画のための主なインプットや要件になるということがあります。

 経済や競争における変化、運用コスト削減に対する圧力、技術革新に対する要望、そしてビジネスを取り巻く環境の変化により、組織は常に、積極的に優先順位付けを行い、漸進的かつ反復的に展開される各サービスから価値を引き出すことを求められています。そのため、ここで再び手順 1 に戻ります。これは、次のサービスについて作業を進めるためだけでなく、手順 2 で展開し、手順 3 で監視してきたサービスの成功を測定するためでもあります。

まとめ

 SOA の主な課題に対するソリューションは、製品やテクノロジの中に潜んでいるわけではありません。実際には、手法と実践のフレームワーク (図 12 にまとめて図示) を適用して、組織が SOA の実装を通じてナビゲートできるようにすることによって利用可能になるのです。

図 12: SOA 成功のための EA 戦略の全体像

 主な概念を思い出しながらまとめてみましょう。

  1. “不安定要素” から “安定要素” への抽象化。
     ケイパビリティ アーキテクチャにより、組織は、ビジネスに対する抽象的で安定した視点を構築し、対処が必要な領域を把握できるようになります。またアーキテクトは、問題を抽象化し、明確な境界を持つ対応可能な要素に分解できるようになります。

  2. “サービス” 内での “不安定要素” のカプセル化。
     サービス指向モデリングは、組織が IT とビジネスを結び付け、連携させるのに役立ちます。アーキテクトは、ケイパビリティをサービス (そして次に IT の実装) にマップし、テクノロジの複雑さを隠蔽しながら、これらのサービスをモデル化することができます。

  3. “サービス” による “変更” の管理。SOA は旅であり、目的地ではありません。 組織では、ビジネス ニーズと優先順位を念頭に置いて、漸進的で反復的なサイクルを通じて、SOA を実装する必要があります。
     ビジネス ケイパビリティか IT ケイパビリティかに関係なく、また、ソリューションがオンプレミス、クラウド、またはその両方のいずれで実装されているかに関係なく、ケイパビリティ アーキテクチャおよびサービス指向モデリングは、組織の SOA 実現の旅において重要な道しるべになります。これらによって、組織では、サービス指向によって必要な変更 (技術革新、最適化、アウトソーシング、自動化、クラウドなど) を実現する機会を劇的に増加させることができ、SOA で期待される価値やメリットを実現できます。

 ケイパビリティの実装を構成する “人”、“プロセス”、および “IT” は変化するものです。常に変化しており、これからも変化し続けます。実行内容 (ケイパビリティ) と実行方法 (サービス コンポーネント) が論理的な関連付け (サービス) で緩やかに結合されることによって、連携、技術革新、生産性、敏捷性の基盤が提供されます。

 最初にビジネスを IT と緩やかに結合し、それからシステムと緩やかに結合することによって、緩やかに結合されたシステムだけでは達成できない、ビジネスに不可欠な技術革新や生産性を実現できるようになります。 End of Article

参考資料

寄稿者について

 Hatay Tuna は、受賞歴のある、マイクロソフト (UK) のプリンシパル アーキテクトです。彼の専門分野は、ソフトウェア プラス サービス、サービス指向アーキテクチャ、ビジネス アーキテクチャ、モデリング、モデル駆動型の開発/アーキテクチャ、サービスとしてのソフトウェア、サービス バス アーキテクチャ、プロセスの自動化/最適化、イベント駆動アーキテクチャ、およびソフトウェア ファクトリです。Hatay は技術革新、最先端テクノロジ、および将来の業界のトレンドに熱い情熱を傾けています。彼は、既に行政/公共事業分野、金融サービス分野、ヘルスケアおよび小売業界に、いくつものソリューションを提供しています。また、TechReady、SOA & Business Process、Architecture Insight Conferences などの社内外のイベントに定期的に参加しています。仕事以外では、家族と時間を過ごしたり、Xbox 360 で遊んだり、硬い技術書を読んだりすることを楽しんでいます。


 

 INDEX
  [アーキテクチャ・ジャーナル]
  SOAのためのエンタープライズ アーキテクチャ戦略
    1.不安定要素から安定要素への抽象化
    2.サービス内での不安定要素のカプセル化
  3.サービスを通じた変更の管理

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