.NET TIPS ガベージ・コレクタを明示的に動作させるには?株式会社ピーデー 川俣 晶2003/05/02 |
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C++やVisual Basic 6.0の世界でプログラミングしてきた技術者が.NET Frameworkの世界に入ってきてまずおどろくのは、プログラムを実行していると、プロセスが使用するメモリ量がどんどん増えていくことである。「メモリ・リークか!?」と焦ることもあるが、これは正常な動作である。
メモリの解放忘れは典型的なバグの要因であり、メモリ解放を自動化することによって、プログラムの信頼性は向上し、プログラマーの負担も減る。自動的なメモリ解放を行う機構は、ガベージ・コレクタと呼ばれ、解放する行為をガベージ・コレクションと呼ぶ。問題は、ガベージ・コレクションがいつ行われるかであるが、これはメモリが不足してきた場合や、明示的に動作を指示された場合にのみ行われる。つまり、メモリが潤沢に余っている場合には、プロセスの使用するメモリ量が増加するのが正常な動作である。そのままメモリ不足でプログラムが停止するのではないかと懸念する必要はない。メモリが不足してくれば、自動的に回収が行われる。
そのため、プロセスが使用するメモリ量が増加しているとしても、通常はそれに対してプログラマー自身が何かの対処をする必要はない。むしろ、メモリ管理に下手に手を出そうとすると、かえって効率を落とす可能性がある。
それでもガベージ・コレクションを行うには
以上のような説明を踏まえた上で、プログラム中で任意の時点でガベージ・コレクションを行いたい場合がある。例えば、ある処理を最速で実行したい場合など、処理中にガベージ・コレクションが発生しないよう、処理の開始前にガベージ・コレクションを行っておきたいこともあるだろう。それを行うにはGCクラス(System名前空間)のCollectメソッドを呼び出せばよい。実際に、このメソッドによって使用メモリ量が減少しているところを次のサンプル・プログラムで確認してみよう。
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GC.Collectメソッドの動作を確認するためのサンプル・プログラム(C#版:gctest1.cs) | |
(各Console.WriteLineメソッド呼び出しの最後に付いているコメントは、その出力例を示している) | |
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GC.Collectメソッドの動作を確認するためのサンプル・プログラム(VB.NET版:gctest1.vb) | |
GC.GetTotalMemory(false)は、その時点で使用されているメモリ量を返すメソッドである。これにより、メモリ使用量を表示させて変化を見ている。ただし、クラス・ライブラリのリファレンスでは、GetTotalMemoryメソッドの説明において「現在割り当てられていると思われるバイト数を取得します」と表記されており、必ずしも正確な値ではない可能性があることを示唆している。
さて、このサンプル・プログラムでは、1000文字の文字列を1000個含む配列を作成し、それを解放する処理を記述している。「a = null」(VB.NETでは「a = Nothing」)を実行した時点で、確保したメモリはすべて不要になったことを明示的に示すことができる。この時点で、確保したメモリは解放されてもよいのだが、実行結果例の表示を見ると、その段階ではメモリ使用量が減っていないことが分かるだろう。しかし、Collectメソッド実行後の数値を見ると明らかに減っている。つまり、ガベージ・コレクションが実行され、不要なメモリが回収されたのである。
なお、最後の数値と最初の数値が異なっているのは、ここで問題にしたデータだけが確保されたメモリではないこと、それから、次項に述べるような賢い世代管理が行われていることなどが理由として考えられる。しかし、システム内部の構造に依存する話なので、このような数値差はあり得るものと考えて扱った方がよいだろう。
より高度なガベージ・コレクションを行う
.NET Frameworkのガベージ・コレクタは、ジェネレーション(世代)という概念を持っており、ガベージ・コレクションを効率よく実行できる。ジェネレーションとは、生成されてから間もないオブジェクトと、時間が経過したオブジェクトを分ける概念である。一般的に、作成されてから時間が経過したオブジェクトは解放される可能性が低く、生成されてから間もないオブジェクトは解放される可能性が高いことから、後者のオブジェクトだけを調べて解放処理を行うことで効率アップするというものだ(作成から長時間が経過しても解放されないオブジェクトは、今後も長期にわたり使用され続ける可能性が高い)。
このような構造であることから、ガベージ・コレクションを行う際に、ジェネレーションを意識した指定を行う価値がある。つまり、生成されてから間もないオブジェクトのみを対象として、回収漏れが起きる可能性はあるものの、素早くガベージ・コレクションを終了する場合と、もっと古いオブジェクトも対象として、時間はかかるがあらゆる使用済みオブジェクトを回収する場合である。Collectメソッドでは、パラメータによりジェネレーションを明示的に指定することができる。
以下は、ジェネレーションを指定したガベージ・コレクションを行うサンプル・プログラムである。
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ジェネレーションを指定したガベージ・コレクションのサンプル・プログラム(C#版:gctest2.cs) | |
(各Console.WriteLineメソッド呼び出しの最後に付いているコメントは、その出力例を示している) | |
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ジェネレーションを指定したガベージ・コレクションのサンプル・プログラム(VB.NET版:gctest2.vb) | |
なお、このサンプル・プログラムは、コンパイラの最適化によって意図しない数値になるので、最適化を抑止するためにコンパイル・オプションで「/debug+」を指定して、デバッグ・バージョンとしてビルドする必要がある。
ここでの本題は、ジェネレーションを指定したガベージ・コレクションである。これには、Collectメソッドのパラメータに、どのジェネレーションまでを対象にするか、数値を指定することで行う。
さて、このサンプル・プログラムを理解するには、2つの知識が必要である。まず、現在の.NET Frameworkには3つのジェネレーション(ジェネレーション0、ジェネレーション1、ジェネレーション2)があるということ。そして、Collectメソッドでガベージ・コレクションを行うと、その時点で残ったオブジェクトはジェネレーションが1つ古い方にずれるということである。
例えば上記のサンプル・プログラムでは、配列aが参照する配列オブジェクトは、生成された時点ではジェネレーション0に属している。そのため、もしすぐに参照を解放してしまえば、次のCollectメソッドで回収されてしまうことになる。しかし、この例では参照を解放することなくCollectメソッドを実行しているので、解放される代わりにジェネレーションが1つ上がってジェネレーション1になる。ジェネレーションが上がるということは、不要になっても回収されなくなる可能性が増えるということを意味する。通常、ガベージ・コレクタはジェネレーション0を対象にガベージ・コレクションを行い、それで十分な量のメモリを解放できれば、ジェネレーション1は調べないからである。
さて、ジェネレーションは2までしかないので、配列aが参照する配列オブジェクトは3回のCollectメソッド実行後にはジェネレーション2となっている。a = null(VB.NETではa = Nothing)を実行することで、この配列の参照は消滅し、回収の対象になる。しかし、次のGC.Collect(0)というメソッド呼び出しでは、ジェネレーション0までを対象にガベージ・コレクションを行うため、ジェネレーション2のこの配列が処理されることはない。GC.Collect(2)を実行したときに初めて処理の対象になり回収される。この一連の動きは、ほかの配列オブジェクトでも同様である。プログラムの処理される順番と、実行結果を見比べながら、どこでどの配列オブジェクトがジェネレーションいくつになっていて、どれが回収されるかを順番に追いかけてみると理解が深まるだろう。
このサンプル・プログラムと実行結果を見ると、ジェネレーションを意識したメモリの回収処理を行うと、意図的に回収するタイミングをコントロールできるかのように見えるかもしれない。しかし、ガベージ・コレクタはシステムが必要とした場合には随時実行されるので、完全に意図的にコントロールすることはできない。基本的には、ガベージ・コレクションは、意識的に操作するものではなく、システムに任せるものといえる。
なお、85,000byte以上のオブジェクトは常にジェネレーション2に置かれ、ジェネレーション増加の対象にならないとされている。これは、サイズの大きなオブジェクトの管理はコストが大きく、頻繁に回収してしまうとパフォーマンスに悪影響を与えるためだ。
参考文献 プログラミング Microsoft .NET Framework 著者 Jeffery Richter 訳者 吉松 史彰 出版社 日経BPソフトプレス 第19章 自動メモリ管理(ガベージコレクション) |
カテゴリ:クラス・ライブラリ 処理対象:メモリ管理 使用ライブラリ:GCクラス(System名前空間) |
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