特集.NET完全対応で生まれ変わったDelphi 8
泉 祐介 |
|
Delphiは、主にWindowsアプリケーションの開発に利用されてきたRADツールで、ボーランド社の主力製品の1つだ。
そのDelphiが.NETに完全対応して新しく生まれ変わった。本稿で紹介する「Delphi 8 for the Microsoft .NET Framework」(以下Delphi 8)である。
.NET完全対応のDelphi 8
まずここで、簡単にDelphiの歴史を振り返っておこう。初代Delphiは、Win16アプリケーションを開発するためのRADツールとして1995年に登場した。その後すぐにWindows 95が登場したことに合わせて、次のDelphi 2では開発対象をWin16からWin32に移した。
2001年には、DelphiをLinux環境に移植したKylixを発表し、それに合わせてDelphi 6からはLinux環境とのクロス・プラットフォーム開発も可能になった。
そして今度のDelphi 8では、「for the Microsoft .NET Framework」という名前からも分かるように、.NET Frameworkに完全対応した。
Delphi 8では、手続き型言語であるPascal言語にオブジェクト指向の機能を追加したDelphi言語*でプログラムを記述する。ボーランドのPascalコンパイラは、MS-DOS時代の製品であるTurboPascalのころからその驚異的なコンパイル速度で人気があり(しかもコンパイルされたコードの実行速度も速い)、その技術はDelphi 8においても生かされている。
* 当初はObject Pascalと呼ばれていたが、後にDelphi言語に改称された。 |
また、VCL(Visual Component Library)と呼ばれるボーランド独自のライブラリの使いやすさにも以前から定評があった。後述するように、もちろんこのライブラリも.NETに対応したマネージ・コード版が提供されている。
Delphi 8の製品ラインアップは、標準的な開発環境のProfessional版、企業向けのEnterprise版、アーキテクト向けのArchitect版の3種類となっている。Delphi 8でArchitect版が新たに追加された一方で、Delphi 7に存在した廉価版のPersonal版は姿を消した。
Delphi 8 Architectでは、Delphi 8 Enterpriseと比べて、モデル駆動型の開発(MDA)を可能にするBorland ECO(Enterprise Core Objects)や、.NETアプリケーションにおけるパフォーマンス管理をサポートするBorland Optimizeit Profiler for the Microsoft .NET Frameworkなどの機能が追加されており、より大規模で信頼性の高いアプリケーションを迅速に構築できる。
これらの各エディションの違いについての詳細は、次のWebサイトを参照していただきたい。
Borland - Delphi 8 for the Microsoft .NET Framework製品情報
本稿では、ついに.NET対応言語の正式な仲間入りを果たしたDelphi 8の機能について、特にDelphiのメイン・ターゲットであったWindowsアプリケーション開発を中心に検証していく。
まずは、Delphi 7からDelphi 8へのバージョン・アップによって変化したIDEのユーザー・インターフェイスから見ていこう。
変化したユーザー・インターフェイス
Delphi 8を起動して最初に気が付く点は、IDEのユーザー・インターフェイスが大きく変更されていることである。次の画面がそのDelphi 8を起動したときの画面だ。
Delphi 8のIDE画面 |
ユーザー・インターフェイスが変更され、全体的にVisual Studio .NETと似たインターフェイスになった。また起動時には、[ホームページ]と呼ばれるVisual Studio .NETのスタート・ページのようなページが表示されるようになった。 |
Delphi 8の画面を見て、Visual Studio .NET(以下VS.NET)のインターフェイスによく似ていると感じた読者も多いだろう。
以前のバージョンまではフォームやコード・エディタ、オブジェクト・インスペクタ(プロパティなどを設定するウィンドウ)などのウィンドウはそれぞれ独立に表示されていたが、Delphi 8ではVS.NETと同じように、これらのウィンドウが1つにドッキングされて表示されるようになった。また、コンポーネント・パレットはツール・パレットに名前が変わり、その位置も画面右下に移動している。
なお、ドッキングされたウィンドウの操作性はVS.NETと同じである。つまり、ウィンドウをドッキングさせる位置は自由に変更可能であるし、ドッキングを解除して独立したウィンドウにすることもできる。さらに、複数のウィンドウを同じ位置にドッキングさせれば、タブでウィンドウを切り替えられるようになる。
このほか、起動時に[ホームページ]と呼ばれるページが画面中央のウィンドウに表示されるようになった。このホームページは、VS.NETのスタート・ページのようなもので、このページから最近参照したプロジェクトを開いたり、さまざまなドキュメントやリソースにアクセスしたりといったことが可能である。
また、従来はリファレンスなどの各種ヘルプ・ファイルはWindows Help形式で提供されていたが、Delphi 8ではVS.NETのヘルプと同じHTML Help 2.0形式に変更された。
ヘルプ・ファイルの内容を参照するには、マイクロソフト製のヘルプ・ビューアであるDocument Explorerを使用する(下図)。これはVS.NETなどに含まれるヘルプ・ビューアと同じものだ。
Delphi 8のヘルプ画面(Document Explorer) |
Delphi 8のヘルプはVS.NETと同じHTML Help 2.0形式に変更された。 |
コード・エディタには、新たにVS.NETのアウトライン機能と同等な機能が搭載されている。この機能により、手続きや関数、クラス宣言といった単位で、コードを折りたたんで隠すことができる。またDelphi 8では、Delphi言語に特有の単位である「インターフェイス部」、あるいは「実現部」といった単位で折りたたむこともできる*。さらに、「REGIONコンパイラ指令」を使えば、折りたたむ範囲を自分で設定することも可能だ。
* Delphi言語では、ほとんどのユニット(モジュール)がインターフェイス部と実現部から構成される(その後に初期化部と終了処理部と呼ばれる部分が続くこともある)。 |
なお、キーボード操作に関しては従来とほぼ同じである。もっとも、キー割り当ては自由に変更可能であり、VS.NETライクなキー割り当てに変更するための設定もあらかじめ用意されている。
それでは、Delphi 8で開発可能なアプリケーションについて見ていくことにしよう。
INDEX | ||
[特集].NET完全対応で生まれ変わったDelphi 8 | ||
1..NET完全対応のDelphi 8 | ||
2.VCLフォーム・アプリケーションの開発 | ||
3.VCLを.NET環境に移植した「VCL for .NET」 | ||
4.Windowsフォーム・アプリケーションの開発 | ||
- 第2回 簡潔なコーディングのために (2017/7/26)
ラムダ式で記述できるメンバの増加、throw式、out変数、タプルなど、C# 7には以前よりもコードを簡潔に記述できるような機能が導入されている - 第1回 Visual Studio Codeデバッグの基礎知識 (2017/7/21)
Node.jsプログラムをデバッグしながら、Visual Studio Codeに統合されているデバッグ機能の基本の「キ」をマスターしよう - 第1回 明瞭なコーディングのために (2017/7/19)
C# 7で追加された新機能の中から、「数値リテラル構文の改善」と「ローカル関数」を紹介する。これらは分かりやすいコードを記述するのに使える - Presentation Translator (2017/7/18)
Presentation TranslatorはPowerPoint用のアドイン。プレゼンテーション時の字幕の付加や、多言語での質疑応答、スライドの翻訳を行える
|
|