株式会社トラストワーク
CRMで派遣手配の効率化と
コスト削減を推進する人材派遣会社

松本 すみ子
2002/1/9

 
CRMの目的は、顧客の囲い込みと信頼関係の構築であることはいうまでもない。しかし、人材派遣業にとって、その2つが不可欠な相手は、ほかにもいる。それは労働力である登録スタッフだ。質の良いスタッフをいかに確保し、コミュニケーションを持続していくかが、顧客満足度と収益向上の重要な要素となるのである。

  日払い・翌日銀行振り込みが、人材確保に大きな効果

 株式会社トラストワークの主な事業は、軽作業を中心とした人材派遣である。フリーターや学生、一部主婦もいるが、主に20代の人材を集めて、その労働力を提供している。事業コンセプトは、「欲しいときに欲しい分だけ労働力を提供すること」。現在は、コールセンターへの派遣が半分以上を占め、最近は、外回りの営業職やホワイトカラー系が成長分野だ。営業職はコールセンター関係での仕事が多いが、それ以外にもソフトハウスやキャンペーンに伴う外回りの営業などもある。営業とはいっても、値引きなどの条件がある比較的売りやすい商品を扱うことが多いため、そこに高いコストを掛けて正社員を営業に従事させるよりも、1件いくらというインセンティブを付けたアルバイトのほうが顧客企業にとっては効率的だ。一方の登録スタッフにとっては、都合のいい日を選んで働けるというのがメリットとなる。

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 こうした人材の手配、キャスティングが、トラストワークのアポイント担当者の腕の見せどころである。同社では、終身雇用制が崩れたいま、自分に力を付けた能力の高い人が、その能力で活躍できるような人材の流動化を図っていきたいとしている。

 それを推し進めるもう1つの特徴が、給与の日払いシステム。しかも翌日銀行振り込みである。同じく日払いシステムを採用している同業他社もあるが、支払いに関しては手渡しが普通。その場合は、実際に受け取りにくるのは1週間に1〜2度だから、事務処理には余裕がある。しかし、同社のような銀行振り込みの場合は、日々銀行にデータを送る必要があり、マッタがきかないシビアな方式である。1日1000件以上の振り込みも珍しくはないという。

  スタッフの管理にCRMを採用して、コスト削減

株式会社トラストワーク
取締役経営管理本部副部長
情報システム部長
齋藤 康史氏

 トラストワークの齋藤康史氏(取締役経営管理本部副部長兼情報システム部長)は、「当社のような軽作業系の請負や派遣といわれる会社は、あまり粗利が大きくありません。成功のカギの1つは、1トランザクション当たりの費用をいかに抑えるかということ。それには、いかに情報を活用するかが大切です」という。

 そこで浮かび上がってきたのが、CRMの活用だ。もちろん、得意先や顧客企業との関係強化・満足度向上という目的でのCRM利用はトラストワークでも同様に行われている。しかし、“商品”が人間である同社では、コミュニケーションが欠かせない。そこで、登録スタッフのデータをCRMで一元管理しようというわけだ。

 しかし、市場に出ているCRMのパッケージソフトは、ほとんどが外資系ソフトメーカー製品で大企業向け。価格は数千万円からというのが一般的だ。中小企業にとっては、まだまだとっつきにくいものであり「聞いたことはあるが、どんなもの?」というのが、偽らざる心境。齋藤氏も、経営にとって重要なキーワードといわれていることは知っていたが、それ以上の知識は持っていなかった。

 齋藤氏は「3000万も、4000万もしたら、とても中小企業での導入は無理」という。しかし、業績の拡大に伴い、基幹システムの構築が急務だったことから、トップがある会合で見つけてきたCRMパッケージを検討事項の中に入れることになった。それがジェイワールドの「eMplex」だった。検討していくうちに、日本製のため当然日本企業向けに作られていること、自社の要求に合わせてオリジナルが作れること、何よりも比較的低価格であることから、同製品の採用が決定した。

 これで居住沿線や希望職種に応じて、登録スタッフのPCや携帯電話に仕事情報メールを配信するシステムを構築した。特に、効果的なのはeメールによるOne to Oneメール配信である。導入は2001年6月。顧客の新規登録、スタッフの面接前の仮登録は、4月から先行してスタートした。

 主要な目的の1つは、スタッフの囲い込みだ。紙媒体による募集費を、CRMとWebを使って、いかに削減していくかというのが重要なポイントになる。また、メール機能を使って連絡できるのであれば、いったん疎遠になってしまったスタッフに対しても低コストで仕事の情報をアナウンスできる。実際、一度のメールで10〜15人程度のスタッフが調達できるという。これを求人誌で達成しようとしたら、かなりの費用が必要となる。

 そしてなんといっても速報性が力強い。いまの若者はやはり携帯電話が必需品で、同社のスタッフの場合も、PCよりも携帯電話のほうが普及率は高い。例えば、東京ドームに100人用意してくれといった急な発注があった場合、電話で手配していたときは、社員総出で大変な作業だったが、携帯電話メールであっという間に連絡でき、人員を集めることができるようになった。

  個性の分析とeラーニングへの展開

 将来的には、アンケート機能を活用して、登録スタッフの興味のある仕事や個人的な好み、スキルなどを登録してもらい、それに沿った案内を行って、さらに高度なマッチングを実現させたいというのが同社の構想だ。この人物はリーダー格、この人はブレーン的な性格など、スタッフの個性や能力・スキルの分析を行って、効率的なチーム作りに活用していく。この事業は、そうしたサービスを提供していかないと、顧客には満足してもらえないし、高い収益も望めない。

 教育も重要である。同社は、スタッフの採用時には必ず説明会方式による面接を実施している。その際行う教育には、現在はビデオを利用しているが、これをホームページに保存しておいて、ダウンロードして見せることで、どんな場所でも面接と教育ができるようになる。これは、近々実現できるだろうということだった。

 さらに、それをeラーニングに展開していくことも検討中だ。例えば、コールセンターのような仕事では、ユーザーから質問を受ける仕事は難易度が高く、スキルアップの教育が必要となる。また、飲食業への派遣などは、毎日、違った種類の店舗に行くことが多い。明日の仕事はどんなものかということを、前の日に確認すれば、余裕をもって働くことができる。身近なところから入って、ゆくゆくは資格を取ってもらうまで高めていければという。こうした教育は本来、企業が自社の社員に行うべきもの。社員を派遣スタッフに代えることで、教育は派遣する側が負う時代になっていくのだろう。

 別の活用方法も考えている。例えば、就職した学生スタッフに対する転職情報の提供や物販、ホームレスへの職場提供による社会復帰、身分が不安定なスタッフへの保険などの共済制度の整備、組合や起業時のベンチャーリンク(株主)などである。演劇や音楽、アートなど夢を追いかけている若者が、当座の収入源にスタッフとして登録している場合も多い。彼らの夢を実現するためのサポートも考えていきたいという。それが結果的には、効果的な囲い込み手段となるからだ。これらの実現にCRMは重要なツールとなっていく。

 CRMの土台である基幹システムの構築も忘れてはならない要素だ。顧客とスタッフのデータベース、受注と予約。その4つがあれば、スタッフのマッチングとキャスティングは可能だ。キャスティングの結果を作業履歴として残し、そこから請求と支払いに行くという基本的な構造は、現システムでも行っている。しかし、支店が増えたいま、ネットワークでの統合的なシステム構築は不可欠だ。現在、販売管理とか会計システムなどの基幹系までのすべてを、インターフェイスを作って、上流から下流までデータを流し込んでしまう新システムを構築中。これは2002年4月に完成の予定だ。

 トラストワークの社内システムのワークフロー

 効率化やコスト削減、顧客の囲い込みだけでなく、若者の夢をサポートするシステムの構築。そのとき、CRMがどんな役割を果たすのか、どのような可能性があるのか、興味深い。

Corporate Profile
株式会社トラストワーク
所在地 :東京都新宿区新宿3-3-2 京王新宿3丁目第2ビル5F
TEL:03-5368-3737(大代表)
FAX:03-5368-3738(代表)
設立:1992年5月6日
資本金:4億2540万円
代表者:駒井 滋(代表取締役社長)
http://www.trust-w.co.jp/

   事例研究インデックス


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