Development Style

第6回 読者調査結果

〜 システム分析/設計工程の課題とは? 〜

小柴豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2004/1/17


 

 ここ数年“システム開発の新たな危機”が叫ばれ、それに対応するさまざまな開発プロセスや手法、ツールなどが登場している。しかし当事者であるITエンジニアたちは、開発工程のどの部分に問題意識を持ち、実際どういった手法/ツールで対応(予定)しているのだろうか? @IT Development Styleが実施した第6回読者調査から、その状況をレポートしよう。

現在のプロジェクトの開発内容は?

 はじめに、Development Style読者が現在どのような開発プロジェクトに携わっているのか尋ねた結果が図1だ。ご覧のとおりさまざまな種類のプロジェクトが稼働している中、「基幹システムのオープン化/再構築」への取り組みが、最も多くなった。TCO削減/メーカーの製造・サポート終了/開発・保守要員の高齢化といった要因を背景に、レガシー・システムのマイグレーションは着実に進んでいるようだ。

図1 プロジェクトの開発内容(N=435)

開発プロセスの採用状況は?

 では上記のような開発プロジェクトは、どのような手順で進められているのだろうか? 読者のかかわるプロジェクトの開発プロセス採用状況を見ると、伝統的な「ウォーターフォール・モデル」の利用率が、いまだ大勢を占めていた(図2)。今後は「eXtreme Programming(XP)」や「Rational Unified Process(RUP)」といった反復型プロセスの採用予定/検討率が高くなってはいるものの、これら新しいプロセスが話題となって3年ほど経過した割には、変化のスピードは緩やかだ。開発プロセスの変更は、ユーザー/デベロッパ双方の意識改革を必要とするため、ハード/ソフトなどシステム資産のリプレースとは異質の“心理的な障壁”も存在する。今後プロセスの変革を実現するためには、関係者全体の合意形成を促すような、“レガシー・マインド”のマイグレーション施策が必要となるだろう。

 続いて、読者のかかわるプロジェクトで、現在どのような課題が発生しているのか尋ねた結果が図3だ。ここでは回答者全体のおよそ半数が、「システム開発期間の短期化」と並んで「顧客要求の適切な分析/定義」を挙げている点に注目したい。要求定義フェイズの課題について、豆蔵の萩本順三氏は「現代のソフトウェア要求は非常に複雑多彩になってきており、すべて最初に要求を固めてしまうということ自体に無理がある」と論じている(関連記事参照)。ウォーターフォール・モデル主体の現在の開発プロセスでは、システム開発の上流工程に、根源的な問題が潜んでいるようだ。

図2 開発プロセスの採用状況(N=435 複数回答)

図3 プロジェクト進行上の課題(N=435 複数回答)

◎ 関連記事:【改訂版】初歩のUML 第10回 開発プロセスの上手な組み合わせ

改善が望まれる要求定義時のタスクとは?

 ところで一口に要求定義フェイズといっても、そこにはさまざまなタスクが含まれている。そこで、読者が今後効率化/改善を望んでいる要求定義時のタスクを尋ねたところ、「現状の業務内容/課題の分析や、データフローの把握」がトップに挙げられた(図4)。

図4 改善が望まれる要求定義時のタスク(N=435 複数回答)

 要求定義の現状に関して読者からは、

  • ユーザーの業務内容をどのように短期間で正確に漏れがなく聞き出し、ビジネス・モデルに落とし込むか(31歳:SE)

  • 要件定義を整理するときに、業務担当者側と経営者側のギャップをどのように埋めていけるかが現在の課題となっている(29歳:PL)

  • 多岐にわたる業種のエンドユーザーに対しての切り札はないのは 重々理解しているが、うまくパターン化して分かりやすく要件定義、分析、システム設計へと流れるテンプレートが欲しい(30歳:SE)

 といったコメントが多数寄せられた。これらを見ると、現在の開発プロジェクトの課題は、プロセスを変えるだけでは解決できないように思われる。技術力+コミュニケーション能力+ビジネススキルを駆使し、短期間に最適な要求分析/ソリューション設計を提供できる“ITアーキテクト”の価値が、今後ますます重要となるだろう。

◎ 関連記事:The Rational Edge

ソフトウェア開発手法/ツールの利用状況は?

 読者のかかわるプロジェクトにおける、ソフトウェア開発手法やツールの利用状況を見てみよう。分析/設計からテストに至る、さまざまな工程で使われる手法/ツールを並べて尋ねた結果、現在最も利用率が高いのは「統合開発環境(IDE)/開発ツール」であった(図5 青棒)。@ITの Java/.NETフォーラムの読者調査を見ても、Visual Studio/Eclipseなど各種IDEの利用率は年々高まっており、開発工程における実装フェイズの生産性向上に寄与しているものと思われる。

 一方、分析/設計フェイズでは、現在リレーショナル・データベース(RDB)の設計によく使われる「ER図」の利用率がトップとなり、「クラス図などのUMLダイヤグラム」がそれに続いている。DOAに基づくER図+RDBと、オブジェクト指向に基づくUML(およびJavaなどのOO言語)が共存する環境では、オブジェクトとリレーショナル・データの構造的な違い(インピーダンス・ミスマッチ)が問題となり、生産性を阻害する要因となる。今後はUMLやそのモデリングツールの利用予定率が高いが(図5 黄棒)、実績あるDOA手法が突然使われなくなることは考えにくく、しばらくは効率的なO/Rマッピング方法の模索が続きそうだ。

図5 ソフトウェア開発手法/ツールの利用状況(N=435 複数回答)

システム分析/設計に関する情報ニーズは?

 最後に、読者がシステム分析/設計を行ううえで、現在どのような情報に興味があるのか尋ねた結果が図6だ。「精度の高い見積もりやスケジュールなどの計画方法」をはじめ、「要求分析のための論理的思考法やその表現技術」「顧客業務の分析/ビジネス・モデリング法」など、上流工程の効率化に必要なさまざまなテーマに対して、読者の関心が高いことが分かった。このニーズにこたえるべく、今後@ITでは分析/設計分野におけるコンテンツ/サービスの強化に取り組む予定だ。ぜひご注目いただきたい。

図6 システム分析/設計についての情報ニーズ(N=435 複数回答)

調査概要

    ・調査方法:Development Styleコーナーからリンクした Webアンケート
    ・調査期間:2003年11月14日〜12月5日
    ・有効回答数:435件

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