第1回 ご存じですか? Asteriskの魅力
高橋 隆雄
2008/12/22
「Asterisk」イコール「IP-PBX」なの?
さて、よくある誤解の1つが「AsteriskはIP-PBXである」というものです。
確かにAsteriskはIP通話の機能も持っており、IP-PBXであるという側面もあります。しかしながら、AsteriskにとってはIP通話はその機能の1つにすぎず、包含しているというだけです。極端な話、IPネットワーク接続を持たず、アナログの回線インターフェイスだけでAsteriskを構築することも可能です。この場合、内部的にはLinux+Asteriskで動作していても、外からの見た目はアナログPBXそのものです。
もちろん、「部分」であるからといって、AsteriskのIP機能に不足があるわけではありません。IP上の電話で使われるSIPやH.323、MGCP、Cisco SCCPなど、さまざまなIP電話のプロトコルに対応しており、これだけでも十分使えるのですから、IP-PBXであるという誤解が広まるのも不思議ではありません。
現在、多くのサービスやインフラがIPに依存してきています。例えば、従来はアナログで物理的な配線を伴っていた固定電話も、「ひかり電話」の急速な普及によりIP上の1サービスとして実装されるようになりました。ですので、このような背景においては、AsteriskをIPネットワーク上の機能の1つとして活用できる状況はすでに整っているといえます。
Asteriskが「ニガテ」な部分とは?
これはズバリいってしまうと、日本のPBXが得意とする部分です。特に、いわゆる「ボタン電話」の機能に関しては貧弱です。
Asteriskは「PBX」なのに、なぜボタン電話の機能が貧弱なの? と疑問に思われるかもしれません。ですがこれは当然のことで、ボタン電話の機能は、そのほとんどが日本独自のものだからです。
日本の場合、あるボタンに特定の機能1つ(=転送、保留など)だけを割り付けるといった形での運用が広く行われています。これは、企業で電話を使われている方なら実感されているところでしょう。
ところが、アメリカのPBXではこのような使い方はあまり行われていないようで、ボタンに割り付けられる機能としてはせいぜい保留とスピーカーフォン、転送程度のことが多いようです。アメリカのテレビドラマなどを見ていても、例えばピックアップ(代理応答)するにしても、最新のIP-PBXでもなぜか「*8」のように番号をダイヤルして実行していることが多いようです。
もともと、機能と操作に関しては、「長くそう使われてきた」という習慣の影響が大きく、一種の文化のようなものになっているため、日本とアメリカという異なるPBX文化を持つ環境では、その操作方法は大きく異なります。Asteriskはアメリカ発祥であり、アメリカのPBX文化という土壌の上に成り立っているため、日本のボタン電話の機能を実装していないのは当然なのです。
とりわけ問題となっているのがラインキー(=コールパーキング機能)ですが、残念ながら、ラインキー相当の機能はいまのところ実装される気配すらありません。さらにラインキーは電話機とPBX双方の対応が必要であるため、実装しにくいという問題もあります。
しかしながら、最近では仕様を公開している電話機が増えつつあるため、Asteriskにラインキー機能を搭載するという話も非現実的ではなくなっています。ですが、先述のようにこの部分は日本独自のものですから、その実装は日本で行わなくてはなりません。オープンソースであることの最大のメリットを活用するには日本国内のAsterisk開発者の数がまだ足りないのが現状です。
使ってみるのは難しいの?
Asteriskを使ってみるのは難しいのでは? という声もよく聞くのですが、これに対して筆者は「ソースコードからApacheのインストールと設定ができる人なら簡単」と答えています。
これはまさにその通りで、Linux上でソースからのコンパイルとインストールができ、設定ファイルを自分で修正できる人にとっては何ら問題がないからです。その半面、単にGUIからパッケージをインストールしたことしかない、という場合には、少し困難が伴うかもしれません。
ただし、Asteriskは単に「Asterisk」というソースコードがあるだけでなく、Asteriskから派生したパッケージも多く存在します。中でも著名なのが「Trixbox」と呼ばれるもので、これはLinuxとAsteriskに加え、いくつか便利なソフトをパッケージ化したもので、すでに商用化もされています。かつてこのTrixboxは「Asterisk@Home」と呼ばれていたのですが、開発コミュニティごと企業に買い上げられたことで、Asterisk派生製品としては大成功を収めたといえるものです。
これ以外にも、Asteriskを中核にGUIを付け加えた派生パッケージも存在しており、「AsteriskNOW」はAsterisk「純正」の派生ディストリビューションといえます。また、現在「Asterisk GUI」と呼ばれる管理ツールも開発が進められていますので、近い将来、Asterisk導入の敷居は急速に下がるかもしれません。
画面1 「AsteriskNOW」の次期バージョン(β版)の管理画面。GUIにはFreePBXが使用される予定 |
日本国内においてはAsteriskの普及を推進するため、日本国内向けのパッチの開発や配布がコミュニティベース(といっても、ごく少人数なのですが)で行われていますし、日本語音声ファイルの配布も行っています。さらには日本語の音声合成機能をAsteriskに統合するなど、日本国内に向けた開発も、徐々にではありますが進行しています。詳しくは以下のURLを参照してください。
関連リンク: | |
日本Asteriskユーザー会 http://asterisk.gr.jp/ |
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VoIP-Info.jp Wiki http://voip-info.jp |
次回予告「Asteriskとはどんなもの?」 今回は、Asteriskの成り立ちやその機能について紹介しました。次回はもう少し掘り下げ、その構造などを説明します。 |
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Index | |
オープンソースPBX、Asteriskの実力 第1回 ご存じですか? Asteriskの魅力 |
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Page1 Asteriskの歴史 そもそもAsteriskとは何だろう? どのような環境で動く? Linuxで動作するゆえの高い自由度 |
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Page2 「Asterisk」イコール「IP-PBX」なの? Asteriskが「ニガテ」な部分とは? 使ってみるのは難しいの? |
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