連載第1回
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プロトコルの迷宮を さまよい歩く楽しみ |
「行けば行くほどカラクリや落とし穴が増える」
「あまりに複雑怪奇で世間の人を寄せ付けない」
映画に登場する迷宮は、だいたいこんな感じですが、もしかすると、通信プロトコルを理解することも、これに似たような面があるかもしれません。
インディー某のようにカッコよく迷宮を冒険するぞ! と思ってはみるものの、いざ始めてみると迷宮の入り口で撤退することになったり……。「実は、私も」って方、案外、多いかもしれませんね。
でも、ちょっと考えてみてください。初めて踏み込んだ迷宮で、地図も持たずイキナリ全体制覇だなんて、どだい無茶な話です。最初のころは、迷宮の入り口付近をちょっとさまよってみるのが関の山でしょう。
やがて、そんなことを続けていれば、迷宮の中がどうなっているか少しずつ分かってくるし、目の前の問題をどうやって解決するか、そのコツなども身に付いてくるに違いありません。そんな感じになって初めて、迷宮の全体制覇の計画を立てても、全然遅くないはずです。
この連載では、これまでのアプリケーションに近いプロトコルを紹介した上位レイヤ編に続いて、TCP/IPの根幹に深くかかわる下位レイヤの説明に取り掛かりたいと思います。
実際のところ、TCP/IPの深い部分まで完全に制覇することは、そんなに簡単ではありません。もし、この連載を全部読んでいただいたとしても、TCP/IPの詳細すべてが分かったといえる状況にはほど遠いでしょう。でも、そうやって少しずつ迷宮の中をさまよい、いろんな部分を見てゆくことは、いずれTCP/IPをすべて制覇するときに、頼もしい下地になるはずです。
そう、この連載の目的は、TCP/IPという迷宮の地図を書き、その暗闇に目を慣らしていただくことにあるのです。ここで全体制覇に必要な下地をマスターしたら、次は本格的なTCP/IP技術解説書を手にしてみてください。きっと全体制覇は近いはずです。
プロトコルの話をするとき使う言葉に、上位レイヤ、下位レイヤという言い方があります。その説明は、例えば、人間がコンピュータを使って何かするとき、人間がやりたいことを直接取り扱う部分が上位レイヤで、もうちょっとコンピュータ寄りのことをするのが下位レイヤです、のようになります。でも、これだとなかなかイメージしづらいかもしれませんね。
上位、下位というと、機能に上下があるようにも聞こえますが、実際にはそうではありません。別のいい方をするとしたら、ある目的を果たすためのものと、そのために皆が共通に利用できるものの関係といえるでしょう(図1)。
図1 下位レイヤは主に共通に使える機能の集まり |
例えば、年賀状は人と人が年始のあいさつをするものです。それを実現するために、郵便サービスという基盤的なサービスを利用しています。この例で考えれば、郵便サービスが下位レイヤに相当します。でも、いうまでもありませんが、郵便サービスが下等なものだなんて誰も思いませんよね。むしろ何にでも利用できる便利なサービスです。
このことからも分かるとおり、下位レイヤというのは、より汎用的でどんなサービスでも共通に利用できる、通信機能だと考えるといいですね。
もう少しプロトコルチックな例でいうなら、例えばメールの送信。メールはSMTP(バックナンバー参照:『SMTPでメール送信の舞台裏をあやつる』)というプロトコルで送るんですが、このとき人間が送ろうとしている「メール」を直接扱うSMTPは上位レイヤに分類するのが普通です。
このSMTPというプロトコルはコマンドの集まりです。このコマンドは、相手のコンピュータに届いてこそ意味があります。当然ですね。じゃあ、この届けることを誰がやるのかというと、そこで登場するのが下位レイヤなんです。
SMTPがそういったことに関知しなくて済むのは、詳細な通信をちゃんと処理してくれる仕組みがあるからこそなんです。上位レイヤ、下位レイヤの関係は、これで何となく理解していただけるでしょうか?
人間の行動に近いものを上位レイヤ、共通の機能を下位レイヤとしてまとめるのは、直感的に分かりやすい分け方です。でも、実際にプロトコルの話をするときには、さらに機能を細かく分類して、全部で7つの階層に分けて話をすることがあります。この考え方は7層モデル(図2)と呼ばれています。
図2 7層モデルの様子。これぞプロトコルって感じ、でも難しい |
7つもある階層の中には、例えば「Aという文字をどういうデータで表すか」といった取り決めも含んでいます。7層モデルには、役割分担をはっきりさせることのほかに、通信プロトコルというもの自体を厳密に定義するという目的もあるので、このようになっています。そのせいもあって7層モデルを理解するのがちょっと面倒なのは確かです。
プロトコルの話をするとき、この7層モデルを知っているに越したことはないのですが、いまは必要不可欠ではありません。ピンと来なければ、このお勉強は後回しにしてしまいましょう。
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関連リンク | |
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