【トレンド解説】
ホットスポット・ビジネス最前線
鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2002/8/1
いま、ホットスポット・ビジネスが注目を浴びている。「ホットスポット*1・サービス」とは、駅構内や喫茶店など、人が集まったり休んだりする場所で、無線LANによるインターネット接続サービスを提供することである。こういったサービスが見られるようになったのはつい最近のことだが、米国などでは日本に先行する形で、空港やスターバックスのような喫茶店を中心に、すでに事業展開が進んでいる。
ホットスポットには、IEEE 802.11bの無線LAN方式が用いられることが多い。IEEE 802.11bの無線LANは、無線LAN機能を内蔵したノートPCが販売されるなど、価格もこなれてきており、かなり一般に普及してきているといえる。通信スピードも、11Mbps(実質は5Mbps程度)というパフォーマンスが出るため、日本ですでに普及している携帯電話やPHSのインフラよりもはるかに高速だ。外出先でもブロードバンド接続を体感できる便利さは、一度体験したら止められないものだ。
今回は、このホットスポット・ビジネスに焦点をあて、現状でこの業界に何が起こっているのかをまとめてみた。
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■ホットスポット専門事業者も登場
日本でのホットスポットのはしりは、NTTコミュニケーションズがモスバーガーなどの一部店舗で開始した「Hi-FIBE」という実験サービスにあるのではないだろうか。モニタに登録したユーザーに対してIDなどの割り振りを行い、実験対象店舗において無線LAN経由によるインターネット接続が可能になるというものだ。初の公衆向けの無線LAN接続サービスということで、一般ユーザーへの認知こそまだまだだったものの、今後サービスが広がるきっかけを与えた点は大きかった。
この実験サービスのスタートは2001年の夏だったが、2002年に入ると参入する事業者の数も増え、ホットスポットの実験サービスが随所で見られるようになった。表1に簡単にまとめたが、ISPが提供する商用/実験サービスで、現在のところ5社が名乗りを挙げている。
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表1 ホットスポットの商用/実験サービスを提供する事業者 |
この中で特筆すべきなのが、MIS(モバイルインターネットサービス)である。同社は、無線LAN接続サービス専門の事業者として2001年春に設立された。対象エリアは東京が中心で、まだまだ拡大の余地はあるが、人の集まる交差点近辺や主要店舗/施設などをメイン・ターゲットとしていることもあり、今後の展開によってはビジネスとして大きく成長する可能性も高い。
ホットスポットは面白いサービスでありビジネスではあるが、1つ大きな難点がある。それは、インターネット接続のための回線とアクセス・ポイントの導入、そしてそれらの維持にかかるコストに対して、いかにペイするかという点である。NTT東西、NTTコミュニケーションズ、Yahoo! BBなどは、すでにISPとしてのインフラを持っており、既存ユーザーへのさらなる追加サービスという考え方もできるが、専門事業者の場合は、いかにユーザーを集められるかが鍵となる。提供エリアが拡大して利便性が増せば、それだけユーザーにとっての魅力も増す。最初は採算ラインを無視したとしても、数年先の展開をにらんで設備投資を続けなければならないのだ。
昨年、米国で無線によるインターネット接続サービスを提供する事業者の倒産が相次いだが(幸いなことにホットスポット事業者ではなかったが)、やはり原因は先行投資に対して収益がついてこなかったことにある。日本のホットスポット事業者には、ホットスポットの灯を絶やさないためにも、米国の轍を踏まないでほしいと願いたい。
■熾烈な拠点争い
前述のように、ホットスポット・サービスの利便性は、サービス・エリアいかんに掛かっているともいえる。単に提供エリアが広いだけでなく、人の集まるような主要エリアが押さえられているかが重要になってくる。例えば出張などの場面では、駅前の分かりやすい場所にある喫茶店にアクセス・ポイントが設置されているほうが嬉しくはないだろうか? 各事業者は、当然ながら人気スポット争奪戦を開始することになるだろう。
Yahoo! BBモバイルは、マクドナルドとスターバックスとのホットスポット事業での提携を進めている。これらの店舗の中には、都心の一等地や要所に場所を構えているものもあり、サービス・エリアとしては申し分ない。NTTコミュニケーションズも、前述のモスバーガー各店をはじめ、都内の主要ホテルなどとの提携を進めている。ISP事業者こそ違えど、喫茶店やファストフードの主要店はカバーされつつあり、結果として東京都内の提供エリアは続々と拡大している。
ほかに人が集まるエリアとしては、駅などのターミナルが挙げられる。移動の起点となる場所だけに、その潜在的な需要は高いだろう。東京〜神奈川のエリアに鉄道網を展開する小田急電鉄では、主要駅や特急「ロマンスカー」車内において、ホットスポットの実験サービスを提供している。このほか、成田空港と東京の主要駅を結ぶJR東日本の特急「成田エクスプレス」車内や成田空港において、やはりホットスポットの実験サービスが提供されている(成田エクスプレスの実験サービスは2002年7月いっぱいで終了予定)。
これら鉄道エリアでサービスを提供するのは、現在のところ鉄道会社が中心だが、ISP系の事業者も、重要エリアとして当然狙いを定めてきている。2002年初頭まで、MISは駅構内への無線LANアクセス・ポイントの設置をJR東日本に打診していたが、折り合いが付かず難航していた。MISの要求を呑めない理由としてJR東日本が説明するのは、すでに設置されている無線システムの帯域との競合にあるという*2。当事者間での話し合いを打ち切ったMISは総務省に裁定をゆだね、現在その是非が問われているところだ。
いまは、MISとJR東日本だけが話題になっているが、無線LANの性質上、今後もこういった問題が起こってくる可能性は高い。MISの例では、技術的問題でもあるため、「競争を促すために」といった理由で、単純にアクセス・ポイントの設置を許すだけでは済まないだろう。1つのアクセス・ポイントの複数事業者による共有なども考える必要が出てくるかもしれない。
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■複数事業者が集まったローミング・サービス
無線LANアクセス・ポイントの単価こそ安いものの、そのカバー・エリアの広さから、ホットスポット・サービス実現における設備投資は膨大なものになる。ホットスポットのインターネット接続部分にはADSLが用いられることが多いが、その維持費やメンテナンス・コストも考え合わせると、採算ラインに乗せるのは難しいところだ。そこで出てくるアイデアが、アクセス・ポイントへの複数事業者の相互乗り入れである。
複数の会社がばらばらにエリアをカバーして、部分的にかぶってしまうよりも、エリア区分を明確に分けて、それぞれの得意分野をカバーしていこうというのは、当然の考えだ。特に現状のISPは採算性が厳しく、よほどの大規模事業者でない限り、新たな追加投資を行いにくいという事情もある。
2002年7月にNTT-MEら18社共同で発表された「ネオモバイルサービス」は、ISPフリーのホットスポット・サービスだ(NTT-MEの発表したプレス・リリース)。国際ローミング事業を展開するiPassの認証システムを中心に、ISPフリーのローミング・サービスによるホットスポットのエリア拡大を目指している。本サービスの特徴は。iPassの認証システムをそのまま使用したことで、特にホットスポットのためだけに契約が必要になることがない点だ。これまでのホットスポット展開においては、事業者側が一方的に費用を負担し、設置される店舗側は「このサービスは〜さんの設置されたものなので……」というスタンスであることも多かった。ネオモバイルサービスでは、設置される店舗などにもペイバックを提示し、Win-Winモデルを創出しようとするなど、サービス・エリア拡大により積極的だ。
すでにサービスを展開する事業者が、ネオモバイルサービスに相乗りすれば、さらに利用可能エリアが広がるのでは?……と考えたいところだが。ホットスポット・サービスの2つめの問題である、「セキュリティ」が関門となる。無線LANの情報漏えいに関する脆弱性についてはすでにほかの記事で語られているので省略するが、ここで問題となるのは認証の部分だ。NTT東日本のMフレッツが独自のUSBキーを認証に用いているように、それぞれの事業者が独自の認証技術を採用していることもあり、単純な統合は難しいのが現状なのだ。
日本のホットスポット・サービスは、商用サービス立ち上がりからまだ半年が経過していない状態だが、急速なエリア拡大や複数事業者による相互乗り入れサービスのスタートなど、めまぐるしい展開を見せている。
一利用者の意見としては、ホットスポット・サービスは大歓迎だ。採算のとれるビジネスとして軌道に乗せるのは難しいかもしれないが、業界各社が相互に協力して、ぜひ盛り上げてほしいと思う。
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