先が見えないブロードバンド・サービスの行方

渡邉利和
2001/08/02

 最近では「ブロードバンド」という言葉がテレビのニュースでも日常語のように使われるまでなってきた。ブロードバンド・サービスもすっかり定着したものという印象ができあがっているのかもしれない。しかし、実際にはまだまだ混沌とした状況であり、1年後にどうなっているかもまるで予想がつかない不安定さがあるように思う。

Yahoo! BBのサービス延期

 下り(局→自宅の通信)の速度が最大8Mbpsという高スループットと、月額接続料金2830円という低価格で話題を集めたYahoo! BBのADSLサービスだが、当初予定していた開始時期を8月1日から9月1日に1カ月延期することを決めた(ビー・ビー・テクノロジーの「Yahoo! BB無料試験接続サービス延長のお知らせ」)。理由として、事務手続きの遅れによって予定どおりに技術的特性の検証ができないことを挙げている。このこと自体は、それほど意外でもなく、あり得る話ということになるのだろうが、問題はYahoo! BBのサービスに関しては発表当初からその実現可能性を危ぶむ声があったことにある。

 そもそもYahoo! BBの発表は、東京めたりっく通信の資金繰り悪化の結果、ソフトバンクグループ傘下で事業再建を図ることになったこととセットのような形で行われている。ADSLサービスでは先行者であった東京めたりっく通信でさえ資金繰りに困るような状況であるにもかかわらず、より高速でより安価なサービスを提供することが果たして採算に合うのか、という懸念は当初からあった。こうした疑問に対して、ソフトバンクの孫社長は「Yahoo!の集客力を活かしてさまざまな有料サービスを展開することが可能だ」という趣旨のコメントをしたと報道された。このことを裏返すと、Yahoo! BBの接続サービスは単体で黒字を生まないことを暗に認めているとも取れる。

 今回の商用サービス開始延期がこうした採算性の問題と関連があるのかどうかは、実のところよく分からない。ただ、当初から危ぶむ声があったところに延期の発表で、しかも当初予定の開始時期である8月1日直前になっての発表とあっては、よい印象を受けるはずもない。これにより、Yahoo! BBがマイナス・イメージを背負ったところからスタートせざるを得なくなったのは不幸なことであろう。

通信インフラ整備と独占の問題

 一方、日経新聞の7月28日朝刊の一面トップ記事は、「NTT末端回線を開放」というものだ。これは、総務省が7月19日付けで発表した『「IT時代の接続ルールの在り方について」の第二次答申 〜「電気通信事業法の一部を改正する法律(平成9年法律第97号)附則第15条を踏まえた接続ルールの見直しについて」〜』という長いタイトルの文書の内容に基づくもののようだ(総務省の「IT時代の接続ルールの在り方について」)。単純にいってしまえば、現在のADSLなどのように、NTT東日本/西日本が持つ地域回線網を、ほかの通信事業者が現在よりも低額の利用料金で自由に使えるように開放することを義務づける、という話である。

 通信事業は、インフラ構築に多大な投資を必要とする。狭い範囲でしか利用しないLANのようなものであればともかく、広域通信網を整備するとなると、ユーザーの人数の多寡に関係なく、とりあえず設備を設置しないことにはサービス提供地域に穴があいてしまい、結果として「通信サービスを利用できない地域」ができてしまう。とはいえ、現実問題としては一気に全国すべてをカバーする通信インフラを1私企業の力で整備するのは困難だ。通信自由化がいわれて久しいが、いまだにNTTが圧倒的に優位な立場にあるのは、もちろん電電公社時代に構築された全国の回線網を引き継いだことが大きい。

 「民間企業間の自由競争」といってみたところで、これだけ力の差があれば、実のところ競争する前から勝敗は明らかなわけだ。ADSLサービスに関しても、NTTが手掛けようとしない段階でサービスの導入を図り、「ドライカッパー(電話回線のメタルケーブル)の開放」といった環境整備や、接続確認にかかる時間の短縮といったNTT側への要求を行ないながら現実化していった東京めたりっく通信の苦労は大変なものがあったと思う。しかし、それでもいざNTTがフレッツ・ADSLサービスを開始してしまえば苦しい立場に追い込まれてしまうわけだ。

不安定なブロードバンド・サービスの行方

 こうした場合、「自由競争」という考え方には反するかもしれないが、競争を成立させるために「ハンデをつける」ことが行われる場合がある。新規業者にも参入の機会を均等に与えるように、NTTに不利になるようなルールを義務付けるといったことだ。自由競争の結果シェアを拡大し、それによって市場に強い影響力を持つに至ったのも健全な企業努力の結果だ、という言い方ができないわけではないが、そうはいっても消費者利益を損なわないために後からルールを変えてでも特定企業の影響力をそぐようなことも現実に行われている。

 ブロードバンド・サービスは、高速で安定した通信を実現するための技術の問題である一方、通信インフラの整備や企業間競争の維持などに関わる政治問題でもある。さらに、それが多額の投資を要する事業なだけに、現在のデフレといわれる経済状況の中では、サービス提供企業が健全に運営していくことすらままならない可能性もある。ユーザーの立場としては、だからといってどうすることもできないのだが、現在のブロードバンド・サービスは政治的な意志と経済環境の間で生き残る道を探っている不安定な存在であることは間違いないだろう。

 さて、Yahoo! BBはどうなるだろうか。個人的におそれを感じるのは、ブロードバンド・サービス提供企業が不安定感を露呈することで「やはり頼りになるのはNTT」という風潮が生まれ、結果としてNTTだけが存続することになるという逆戻りの道に進み始めることである。こうした結果に繋がらないよう、9月1日には予定通りサービス開始が発表されるよう望みたい。記事の終わり

  関連リンク 
Yahoo! BB無料試験接続サービス延長のお知らせ
IT時代の接続ルールの在り方について
 
「Opinion:渡邉利和」


渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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