IT不況の先にあるモノ

渡邉利和
2001/09/06

 日本国内経済の低迷が長引き、21世紀が始まったというのにいまこそが世紀末であるかのような暗い雰囲気に覆われているようだ。数年前に盛んにもてはやされた「インターネット革命」という言葉も、いまや「勘違いしていた恥ずかしい過去の死語」と扱われているようにさえ感じられる。だが、ITとインターネットの可能性は失われてはいないはずだ。

IT不況と言われるもの

 最近、新聞や雑誌などで「IT不況」を論じたものを目にする機会が増えたようだ。確かに「ドットコム企業」ともてはやされた新興企業の多くが厳しい経営状況に直面しているようだし、IPOブームも去って株式市場は冷え込みが続いている。確かに、一時的に「IT」「ドットコム」といった言葉がブームのように踊り、実体のない「好景気風状況」を作り出し、そしてしぼんだのは間違いない。ただ、国内の状況に関していうと、こうした動きを自発的に生む土壌は育っていなかったと思う。つまり、米国の状況を見て、盲目的に模倣した結果だと感じられるわけだ。この点、地価高騰を支えにしていた前回のバブルの方が、日本固有の背景に根ざしていた分だけ影響も大きく、バブル期も長かったこともあり崩壊後のダメージが大きかったと思う。ITバブルは所詮借り物だったため、バブルに踊った期間も短かったし、その影響も比較的軽微だったように思うのだが、これは現状を過小評価しすぎであろうか?

 ともあれ、現在の経済状況の分析や反省に関しては専門家に任せるとして、ここでは「インターネットの可能性」について改めて触れてみたい。

「インターネット革命」は起こったか?

 インターネットには、大きな可能性がある。ほぼ全世界をリアルタイムに結合し、個人レベルでの情報の受発信を可能にする低コストなインフラとして、まさに「夢の通信網」だといってよいだろう。ただし、現実にはこのインフラは「まずできあがってしまった」ものであり、有効な活用法を見つけ出すのはこれからの課題なのである。

 「インターネット革命」が盛んに喧伝された頃には、この点があまり重視されていなかったのではないだろうか。目の前の「夢の通信網」が潜在的に持つ可能性の大きさに感動する過程で、「実現したもの」と「実現する可能性のあるもの」とを混同したきらいはないだろうか。

 筆者は自宅で仕事をすることが多いため、インターネットへの依存度は極めて高い。それでも、「インターネットが革命を引き起こした」とまでは感じられないのである。「革命」というからには、社会を大きく(それこそ革命的に)変化させてしかるべきだが、現実の社会は利便性が向上し、効率化も進んだものの、これは「改良」のレベルであって「革命」と呼ぶほどではない。

 確かに、インターネットを使ってさまざまな情報にアクセスできるようになったし、航空券でも書籍でも自宅に居ながら購入できるようになった。銀行口座の残高を確認し、振り込みもできる。筆者ももちろん、こうした新しいサービスの恩恵を大いに享受している。しかし、実のところ、こうしたサービスの多くは、インターネットに特有のものではない。航空券も書籍も、インターネットを使わずに購入することはもちろん可能だし、またインターネットがこれほど普及する前から電話やFAXなどを使った通信販売が行われてきた。「夜中の3時にふと思い立って購入する」いう敷居の低さは、確かにインターネットならではかもしれないが、「買えるか買えないか」という点では、従来実現していたサービスをインターネットにも持ち込んだ、ということでしかない。では、現在インターネットで使われているサービスのうち、従来は存在せずにインターネットでしか提供できない、というものはどれほどあるだろうか。

 もちろん、この問いに対する答えは着眼点によっても異なるのだが、少なくとも筆者にとっては、社会を革命的に変革するほどのインパクトを持った「インターネット固有のサービス」は思い付かない。「インターネットは新しいインフラであり、これを活用することで社会に革命的な変化を引き起こすことができる」という意見には筆者としてももちろん同意する。しかし、「その変化はすでに起こった」とは思わないのだ。まだ、インターネット革命は始まっていないと考える。

厳しいときこそチャンスがある

 IT不況だとかバブル崩壊だとかいわれ、ITやインターネットに対する目がずいぶん冷たくなっているようだ。しかしながら、この状況は当然チャンスでもある。高速化や効率化といった、IT/インターネットが本質的に備えるメリットを活かし、従来なかった新しい価値を創造するためには、実は状況が厳しいくらいの方がちょうどよい。現在の厳しい状況を打破する力を持った解を思い付けば、それが本物である可能性も高いだろう。

 「インターネット・タイム」だの「ドッグ・イヤー」だのといわれ、その動きが急速であることがインターネット環境の特徴とされてきたが、さすがに現実の社会はインターネットと同じ速度で変化したりはしない。社会がインターネットの潜在能力と可能性を受容し、革命の土壌ができるにももう少し時間が必要だろう。この数年で起こったインターネット・バブルとその崩壊は、あまりに短期間に進みすぎた。まだ絶望するには早すぎるし、インターネットが秘めた可能性は、まだそのすべてが明らかになったわけでもない。

 厳しい経済状況が続くが、今こそ「来たるべきインターネット革命」に備えて現実的な活用法の芽を探るべき時期なのではないだろうか。記事の終わり

「Opinion:渡邉利和」


渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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