連載PCの理想と現実第1回 Direct RDRAMに普及の兆し?元麻布春男 |
多くのニュースサイトなどですでに報じられているとおり、IntelはMTH(Memory Translator Hub) チップの障害を認め、同チップを搭載したマザーボードの交換に応じると発表した。MTHとは、Direct RDRAMに対応したi820チップセットに、PC100 SDRAMを組み合わせるための信号変換チップである。フリーズやリセット、最悪の場合にはデータ破壊につながるという致命的な障害が確認されたため、交換することになった。ただし、どのような形でどのように交換を行うか、といった具体的な事項については、まだ検討中であるという。 このニュースで困惑した人は少なくなかったと思うが、それは筆者も例外ではない。実は筆者の主力実験マシン用マザーボードが、このMTHを使ったIntel CC820であるからだ。実際に原稿を書くマシンに使うマザーボードは、以前に実験マシンに使っていたマザーボードの「おさがり」だから、こうした問題とは無縁(?)なのだが、実験マシンは常に新しいスペックを追わざるを得ない宿命にある。
いくら最終的な結果(ベンチマーク結果)に及ぼす影響が小さいとはいえ、AGP 4x対応のグラフィックス カードのテストを行うのに、AGP 2xにしか対応できないチップセットのマザーボードを用いるのは、やはり気がひける。かといってIntel以外のサードパーティ製チップセットでは、エンジニアリング サンプル レベルのグラフィックス カードが動かないことも珍しくない。新しいOSへの対応が遅れがちなこととも合わせ、サードパーティ製チップセットは、実験マシン用には採用しづらいのが現状だ。もちろん、サードパーティ製チップセットでも問題なく動作するのか、ということを確認するためには、実験用に持っておかねばならないのだが、主力にはできないと考えたわけだ(動かなかった場合に、マザーボードに問題があるのか、グラフィックス カードに問題があるのかが判断しにくいため)。
CC820を主力実験用マザーボードにしたもう1つの理由は、RIMMの価格だ。障害などなくても、MTHなどの変換チップは、システムの性能を十分に発揮できないといった理由から、使わないに越したことはない。できればDirect RDRAMに対応したi820ベースのマザーボードを使いたいところなのだが、筆者がCC820を購入した時点におけるDirect RDRAMメモリ モジュール(RIMM)の価格は、PC800の128Mbytesで8万円強であった。安価なPCが1台買えてしまう価格だ。こんなに高価なメモリを必要とする環境は、たとえ実験環境であろうと現実味に欠けると考えたのである。
どうやらRIMMは高すぎる、と考えたのは筆者だけではないようで、さまざまな報道によるとi820ベースのマザーボードのうち、MTHを用いたものがかなりの割合を占めるという。こうしたマザーボードは、中小のPCベンダや、単体販売を中心に普及している(DELLなど一部の大手PCベンダは、メモリメーカーと直接大口契約している強みか、RIMMを用いたシステムを中心にリリースしている。また、ほかの多くのPCベンダはi440BXベースのシステムをリリースし続けたため、MTHの問題はそれほど深刻ではないようだ)。もし最初からDirect RDRAMの価格がリーズナブルだったなら、それほど大きな問題にならなかったかもしれない。
では、Direct RDRAMの価格はなぜ高いのか。端的にいえば、作るメーカーが少ないからだ。問題は、なぜ多くのメモリメーカーがDirect RDRAMの量産に積極的でないのか、ということになるのだが、これが分からない。もちろん大手メモリ メーカーは、みんなDirect RDRAMの量産に必要なライセンスを取得済みだ。つまり、ライセンスがないから作れないわけではない。なのになぜ作らないのか、ということに対し、どのメーカーもあまり口を開こうとしない。というより、どのメーカー(もちろんRambusのライセンスを持つメーカー)も聞かれれば、「Direct RDRAMを作る予定である」としか答えない。これは、一説にはRambusの契約には、「Rambusに敵対する発言をしてはならない」といった条項が含まれているといわれており、そのせいであるとも考えられるが、行動が伴っていない発言であるのは確かだ。
というわけで、Direct RDRAMの量産がなかなか立ち上がらない理由については、推測だけが一人歩きすることになる。Rambusのライセンス料、Rambus ASIC Cell(RAC:DRAM上のRambusインターフェイス)のダイに占める割合が大きい(ダイに対するペナルティが大きい)、歩留まりが上がらない、RACの存在がメモリ メーカーによるシュリンクの障害となるなどなど、いろいろなことが言われている。おそらくどれか1つが理由というのではなく、複数が重なり合って、原因となっているのだろう。
だが、ここにきて、ようやくRIMM価格に低落の兆しが見え始めた。今のところ国内ではPC700 RDRAMを用いたRIMMを提供しているDELLだが、本国である米国ではPC700よりなぜか割安な価格でPC800 RDRAM RIMMの提供をし始めた。i820ベースのビジネス クライアントPCであるOptiPlex GX200の場合、Pentium III-600EB MHzを用いたミニタワーケースのベース システム(64Mbytes PC800 ECC RIMM含む)の価格は1477ドル。64Mbytes RIMMを128Mbytes PC800 ECC RIMMに交換すると差額は189ドル(non-ECCは159ドル、以下カッコ内は同様)で、追加分についての1Mbytes単価は2.95ドルに設定されている。これを256Mbytes PC800 ECC RIMMに交換すると638ドル(558ドル)で1Mbytes単価は3.32ドル、128Mbytes PC800 ECC RIMM 2本に交換すると588ドル(518ドル)で1Mbytes単価は3.06ドルとなる。
システム価格 | 差額 | 差分の1Mbytes単価 | |
ベース システム(64Mbytes ECC) | 1477ドル | − | − |
64Mbytes -> 128Mbytes | 1666ドル | 189ドル | 2.95ドル |
64Mbytes -> 256Mbytes | 2115ドル | 638ドル | 3.32ドル |
64Mbytes -> 128Mbytes X 2 | 2065ドル | 588ドル | 3.06ドル |
DELL Optiplex GX200のDirect RDRAM(PC800 ECC RIMM)の単価 |
この比較表から、128Mbytes RIMMの価格に比べ256Mbytes RIMMの価格がまだ高いことが分かる。もちろん、PC100 SDRAMはこれよりもっと安いが、その差は2倍を切る水準になっている。これまでPC800 RDRAMをほとんど出荷できていなかったこと、SDRAMとの価格比が3〜4倍あったことを考えれば、劇的な変化といえるだろう。
しかも、こうした動きは秋葉原での実売価格にも反映され始めた。これまでPC800 non ECC RIMMの価格は8万円前後にはりついていたのだが、突如としておおよそ半額のモジュールが一部で売られ始めた(それでもPC100/PC133 SDRAMの4倍近いのだが)。ひょっとすると、ついにRDRAMが動き出したのかもしれない。2000年末にも登場するIntelの次世代プロセッサ(Willamette)のチップセット(Tehama)が、2チャンネルのDirect RDRAMをサポートすること、本来の性能を発揮するのにDirect RDRAMが事実上不可欠であると思われていることを考えれば、そろそろRIMMの価格が下がらないと、きわめて厳しいことになる。RIMM価格に低落の兆しが見えることは、2000年末に向けギリギリのタイミングかもしれない。
さて、筆者の実験マシン用主力マザーボードだが、現時点では何にするか決めかねている、というのが正直なところだ。最悪データが破壊されると製造元が言う以上、もはやCC820を使うことはできない(データが破壊される可能性のあるシステムでとったベンチマーク結果に何の意味があるだろう)。RIMM+i820に移行することも考えてはいるものの、ここにきてRIMM価格が低下を始めたことを思うと、もう少し様子を見たいというのが正直なところだ。しばらくの間は、手持ちのi440BX、VIA Apollo Pro 133A、AMD-750を採用した各マザーボードでやりくりするしかない、というのが今の結論である。
「連載:PCの理想と現実」 |
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