第2回 セキュリティ至上主義からセキュリティ市場主義へ


櫻庭 健年
日立製作所 システム開発研究所

Linuxテクノロジ研究部 主任研究員

2007/7/11

 証明によるセキュリティ保証の課題

 さて、LOCKはA1の認証を取ることを目的に始められ、5年の歳月をかけて開発されましたが、コストと時間の制約のため、A1認証のプロセスは完了しませんでした。ただし、形式手法はセキュリティ上の不具合の発見に大いに役立ったことが報告されています。

【関連リンク】
LOCKの開発コスト分析
Smith, “Cost Profile of a Highly Assured, Secure Operating System,” ACM Transactions on Information and System Security, Vol.4, No.1, pp.72-101, 2001

http://www.smat.us/crypto/docs/Lock-eff-acm.pdf

 情報フローの束モデルを提案したデニングは、その後もセキュリティモデルや形式手法などの仕事を続け、1999年に米国のNational Computer Systems Security Awardを受賞しました。その受賞スピーチ「形式的セキュリティモデルの限界」では、セキュリティの保証と商用システムの現実とのギャップについて語っています。

【関連リンク】
ドロシー・デニングのNCSS賞受賞講演

http://www.cs.georgetown.edu/~denning/infosec/award.html

 セキュリティ保証の対象であったアクセス制御技術が、オープンソースとして、商用システムでも利用できるようになってきました。今後は、セキュリティ保証そのものに伴うコストと時間を削減し、商用システム市場のニーズを満たしていくことが課題といえるでしょう。


【息抜きコラム:第2回「トラステッドOSとTCSEC」】

Linuxコンソーシアムセキュリティ部会
田口裕也

 新人A君もセキュアOSについて勉強していくにつれて、だんだんとその仕組みを理解できるようになってきました。

A君 「先輩、セキュアOSは強制アクセス制御(MAC)や最小特権を実装しているOSであることは理解したのですが、セキュアOSの歴史を調べていると、トラステッドOSというのがでてきました。セキュアOS、トラステッドOSの違いがいまいちよく分からないんですけど、どのへんが異なるのですか?」

T氏

「トラステッドOSはTCSECで規定されているB1レベル以上で要求される機能をすべて満たしているOSのことを言うんだよ。

B1レベルからラベルを使用したMACだとか、伝統的なMLSアクセス制御の構造などが要求されているんだ。
セキュアOSはトラステッドOSの一部分の機能を搭載している感じだね。このTCSEC規約項目一覧表を参考にしてごらん。」

表1 TCSECで要求される規約項目一覧表

 このように、TCSECとはTrusted Computer System Evaluation Criteriaの略称で、日本語訳すると高信頼コンピューターシステム評価基準書になります。当時はB1レベル以上で要求される機能をすべて搭載していなければ政府機関や軍事機関には導入することさえできませんでした。

A君 「うーん、なんとなくわかったような気がしますけど、TCSECとはどんなモノなのですか?」

T氏

「そうだな、身近なものに例えると、女性ファッション誌でNo.1の売り上げを誇る『CanCam』があるだろ。

その中に『エビちゃんOL』『マキOL』『直子OL』と呼ばれる専属モデルが着こなす洋服やアクセサリーの組み合わせ項目がたくさん提唱されているんだ。世の中にはそのファッションやスタイルをまねて専属モデルのようになりたいと思うOLがたくさんいて、かわいくなるお手本のような雑誌なんだよ。

なので、CanCamの提唱するファッションの基準を満たしているOLは、その可愛さが確立されることから『トラステッドOL(かわいさが信頼されたOL)』と呼び、提唱されているファッションの一部分を取り入れているOLのことを『セキュアOL(かわいさが普通よりも高いOL)』とすれば分かりやすいでしょ。」

A君

「先輩、よけいに分からなくなりました……」

教訓──例え話は混乱のもと。


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Index
セキュリティ至上主義からセキュリティ市場主義へ
  Page1
何を守るためのセキュリティなのか?
「セキュリティの証明」問題をブレイクダウンする
まずはセキュリティモデルを考える
OSによるセキュリティルールの強制
  Page2
セキュリティの証明に向けた取り組み
ラベルとパス名の議論もセキュリティ保証の観点から
Page3
証明によるセキュリティ保証の課題
息抜きコラム:第2回「トラステッドOSとTCSEC」


Profile
櫻庭 健年(さくらば たけとし)

日立製作所 システム開発研究所

Linuxテクノロジ研究部 主任研究員

日立製作所システム開発研究所にてOSの研究開発を担当。

2002年ころからセキュアOSの調査研究および開発を始める。セキュリティモデルなど、システムセキュリティの理論と技術に興味を持つ。

情報処理推進機構(IPA)による「アクセス制御に関するセキュリティポリシーモデルの調査 報告書」(2005年3月)を執筆(共著)。

2006年よりセキュアプラットフォーム開発推進コンソーシアムに参加し、技術部会長を担当。

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