Security&Trust トレンド解説
企業ユースも攻略していくFirefox
岡田大助
2005/8/25
クライアントの集中管理がもたらすメリット |
もう1つの軸足であるクライアントの集中管理について、テンアートニ社内での導入プロジェクトを手掛けた戦略情報システム本部の中村健太氏は「サーバに設定ファイルを置くだけで、クライアントのセキュリティレベルを統一できるだけでなく、各種設定のコントロールもできるため非常にありがたい」と語る。
システムプロバイダのテンアートニとはいえ、150人近い社員の中には技術職以外のスタッフもおりITスキルに差があるという。オプションの設定を管理者がコントロールすることで、ITスキルの低いユーザーに対する個別サポートの時間を減らすことができるのだ。
当然、新しいセキュリティ対策を実施したら、設定ファイルを書き換えることで全社のセキュリティを最新のものにバージョンアップすることができる。中村氏によれば、マルチバイト文字を使ったURLの偽装やフィッシング詐欺を目的としたブラウザの偽装対策などの設定を集中管理しているという。
この設定ファイルだが、「基本的には、Firefoxを立ち上げたときに、自動的に設定ファイルを読み込んで最新の内容に自動更新されるので、ユーザーが何かの作業をする必要はありません」とのことだ。
Mozilla Japanと連携した企業版Firefoxの作り込み |
企業に導入するに当たっては、Mozilla Japanと連携してカスタマイズ作業を行っている。まず、下準備としてそれまで利用していたWebブラウザのブックマークの移行は正しくできるのか、Webブラウザのエンジンを利用しているグループウェアの表示は崩れないかといった調査を入念に行った。
中村氏は「社内から外部へはプロキシを利用しています。このプロキシ関係を中心にこまごまとしたバグ出しやカスタマイズについては、Mozilla Japanとずいぶんやりとりをしました」と当時を振り返る。
約1カ月をかけて、導入マニュアルの整備とインストール用のバッチスクリプトを作成した。「いまのバージョンではサポートされていますが、導入当時はサイレントインストール機能がありませんでした。作成したスクリプトはFirefoxとFlashプレーヤなどを簡単にインストールするものです」と中村氏。このスクリプトによって、プロキシの設定からFlashのインストールまでを自動で行うことができた。ここで培われたノウハウは、導入コンサルティングサービスにも役立っているという。
プロキシについては、ネットワーク環境に応じて簡単に設定を切り替えられる機能拡張をMozilla Japanに開発してもらったという。中村氏は「ノートPCを使っている社員が社外でインターネットに接続する場合、通常はメニューを開いて設定を切り替える必要があるのですが、このメニューの階層が深いので手間がかかります。機能拡張を使って専用の設定切り替えボタンを作成しました」という。フリーソフトでも同様の機能を実現するものはあるというが、企業で利用する場合にはサポートを得られる信頼できる開発元が必須だろう。
このようにして得られた企業ユーザーが望むFirefoxに必要な機能は、提言という形でMozilla Japanへとフィードバックされた。オープンソースソフトウェアの精神にのっとり、Firefoxの可能性をさらに広げるものとなるだろう。
企業でのFirefox利用は進むのか |
テンアートニのFirefoxの全社導入の経験は、今後、Firefoxの導入を検討する法人の道標となるかもしれない。
喜多氏は「IEもようやくバージョンアップしますが、いままでユーザーは技術的に古くなったIEを甘んじて利用する以外のすべがありませんでした。だから、企業ユーザーのFirefoxへのニーズがあり、これからはもっと増えるでしょう」と現状を分析する。
テンアートニは、Mozilla Japanのビジネスパートナーとして支援を続けている。導入コンサルティングサービスを開始してから、大企業を中心に十数社の国内企業から引き合いが来ているという。喜多氏によると主にカスタマイズに関する相談が多いとのことだ。
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企業ユースも攻略していくFirefox | |
Page1 テンアートニがFirefoxを全社で導入、IEの独占に風穴を開けたい 本当にFirefoxはIEよりもセキュリティが優れているのか |
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