データで見るSQLインジェクション渦
アナリストが見逃せなかった、攻撃の“ある傾向”
川口 洋
株式会社ラック
JSOCチーフエバンジェリスト兼セキュリティアナリスト
2008/7/24
SQLインジェクションによる攻撃が止まらない。2008年3月に観測された大規模な攻撃以前から監視を続けているセキュリティアナリストが、見逃せない「変化」を見つけたという。コラム「川口洋のセキュリティ・プライベート・アイズ」筆者による緊急寄稿(編集部)
2008年3月に注意喚起を行ったSQLインジェクションのいま
皆さんこんにちは、川口です。普段私がお送りしている「川口洋のセキュリティ・プライベート・アイズ」の「あの『SQLインジェクション』騒動の裏で(前編)/(後編)」で説明した、2008年3月12日に始まったSQLインジェクション事件はいったん収束したかに見えました。しかし、攻撃は継続して行われています。今回は4月以降のSQLインジェクションの状況について説明します。
攻撃件数、攻撃元IPアドレス数、悪意のあるページが激増
2008年3月から大規模なSQLインジェクション攻撃が行われましたが、3月後半には攻撃者のIPアドレスにアクセスができなくなり、攻撃は収束したかに見えました。しかし、攻撃者はIPアドレスや悪意のあるホームページを変更して、さらに攻撃を継続しました。
図1 2005年1月からのSQLインジェクション攻撃件数の推移 |
このグラフはJSOC全体で検知しているSQLインジェクションの件数を示しています。2008年5月が過去最高の攻撃件数となっています。特に5月の連休から攻撃件数が増加しており、攻撃の分析を行うセキュリティアナリストの負荷も高まりました。それに比例して、グループリーダーである私への呼び出し回数も増加しました。2008年5月3〜6日の間にセキュリティアナリストから受けた連絡の回数は100回を超え、24時間連絡を受けることに慣れている私もさすがに疲弊してしまいました。
SQLインジェクションが突然増加した原因としてSQLインジェクションを行うボット・ワームが出現したという情報もあります。攻撃者が多数のボットを踏み台にして、世界中に攻撃しているのではないかと推測しています。
【参考】 SQL Injection Worm on the Loose http://isc.sans.org/diary.html?storyid=4393 |
4月は攻撃元IPアドレスも非常に少数であり、攻撃件数も3月と比較して変わらない程度でした。ところが、5月のゴールデンウイークあたりから攻撃元IPアドレスが急激に増加し、現在では4000個以上のIPアドレスを確認しています。
攻撃元IPアドレスの数に比例するように、誘導される悪意のあるホームページの数も増加しています。3月の時点では攻撃元IPアドレスへの通信をファイアウォールやサーバでアクセス制御する対策も一定の効果がありましたが、現在ではアクセス制御による対策は焼け石に水となっています。
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