振る舞い検知型IPSの技術解説

後編 “振る舞い検知”の裏側にある技術


出雲 教郎
日本ラドウェア株式会社
技術本部 ソリューション・アーキテクト
2009/6/1


 フィードバックループによる最適化

 振る舞い検知型IPSでは、各アルゴリズムごとに作成したフィルタを適用し、フィルタ適用後のトラフィック推移も継続的に監視を続け、フィルタの効果を測定する。さらにフィルタのパラメータを自動的にチューニングしていき、自分自身でフォールスポジティブ(誤検知)やフォールスネガティブ(見逃し)を防ぐ仕組みを実装する。

 これら監視、フィルタ適用、再監視、フィルタ最適化、再々監視を繰り返すことにより、より正確性の高い、自律型防御システムにすることが可能になる。これらを「クローズド・フィードバック・オペレーション」と呼んでいる。

図5 クローズド・フィードバック・オペレーション

 図5は、クライアントの振る舞い検知アルゴリズムの最適化例である。第1段階では送信元IPアドレスとあて先ポート番号でフィルタし、第2段階ではさらにポート番号をもう1つ追加、第3段階ではパケットサイズやTTLなど、さらに詳細なパラメータを追加していき、より正確な防御を行えるようになっていく。

 以上が現在の主な振る舞い検知型IPSに実装されている代表的な機能だ。

 ターゲットはソフトウェアの脆弱性からサービスの脆弱性へ

 ボットネットを使った組織犯罪者の脅威は年々高まっており、いくつかの被害例も報告されている。これらの新たな脅威に対処するために、従来のセキュリティ方針だけでは十分といえるだろうか。

 オペレーティングシステムやアプリケーションに脆弱性が発見され、そこを狙ったワームが作成される。ワームを隔離してリバースエンジニアリングを行い、ワクチンやシグニチャを作成し、セキュリティ製品に反映させるというストーリーが従来の方式だったが、これはボットネットを使った組織犯罪には通用しない。

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 なぜなら、ボットネットなどの新たな社会的脅威は、ソフトウェアの脆弱性をターゲットにしていない。インターネットに公開されたアプリケーションの、サービス基盤としての脆弱性をターゲットにしてくるためだ。もちろんボットネットにボットを増やしていくためには、さまざまなソフトウェアの脆弱性を悪用したマルウェアなどを拡散していく必要がある。しかしながら、現実の世界ではすでに大規模なボットネットが存在し、行動を起こしている。

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 前述したとおり、ボットネットから攻撃は、1つ1つのトランザクションとしては正規の通信であり、サーバやアプリケーションの脆弱性を突くような不正トラフィックではない。いままでのセキュリティ装置だけでは、これらの脅威に対応できないことを認識するべきなのではないだろうか。

 このような新たな脅威に対していくつかの取り組みが行われている。

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 インターネット上にアプリケーションを提供するサービス基盤を、さらにより強固なものとするための1つの解として、振る舞い検知型IPSは有力なソリューションとなっている。単純にサーバやネットワークを増設するだけだったり、ファイアウォールを入れればよいという問題ではない。もちろんソフトウェアの脆弱性に対する攻撃がまったくなくなったわけではないため、IPSの観点でみれば、シグニチャ型と振る舞い検知型をうまく使い分ける、または併用しながら安全なアプリケーションサービスの提供に役立てていく必要がある。

 個人的にも、インターネットは自由で平等な空間であるべきだと思っているが、そこを悪用した犯罪には、法的な取り締まりとともに技術的な対処で挑戦してくことも必要だ。最新の技術を最適な場所に導入する、それによって快適で安全なインターネット環境が今後とも維持、発展されることを願っている。

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Index
後編 “振る舞い検知”の裏側にある技術
  Page1
ネットワークの振る舞いを分析する
  Page2
クライアントの振る舞いを分析する
サーバの振る舞いを分析する
Page3
フィードバックループによる最適化
ターゲットはソフトウェアの脆弱性からサービスの脆弱性へ

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