第6回 クラウドコンピューティングセミナー レポート:

「クラウド」が嫌いでも、やるべきことはある


柏木 恵子
2010/12/24

2010年11月26日、@IT編集部主催で、「『クラウド』という言葉が嫌いな人のための社内ITインフラ最適化術」セミナーが開催された。このセミナーでは、クラウドブームといったん距離を置き、いま企業ITに必要なこととは何なのか。そのためのITインフラは、どう変わっていくべきなのかを探った。以下では、同セミナーの内容を要約してお届けする

  2010年11月26日、@IT編集部主催で、「『クラウド』という言葉が嫌いな人のための社内ITインフラ最適化術」セミナーが開催された。「クラウド」という言葉がIT業界を席巻しているが、この「何でもクラウド」といった状況のなかで、各企業の情シス部門がITインフラについて何を考え、どう行動していくべきなのかが、逆に見えにくくなってきている。これを踏まえ、いま企業ITに必要なこととは何なのか。そのためのITインフラは、どう変わっていくべきなのかを探った。

 本セミナーの一部のセッションは、こちらから録画を見ることができます
Tech Target InfoCenter 「クラウド」という言葉が嫌いな人のための社内ITインフラ最適化術
 

「クラウド」という言葉がIT業界を席巻している中、企業のIT部門がITインフラについてどう考え、行動していくべきか。今後に向けた指針からデータセンターの変革の可能性まで、企業ITが目指すべきものを探る。

 

 情シスは前向き、外向き、未来志向で

基調講演1
「Beyond Cloud:クラウドの先に見える未来」
ガートナージャパン
バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト
亦賀忠明氏

 クラウドの先に見える未来を語るには、クラウド時代とは何かをまず語らねばならない。テクノロジーの進化を考える時、まず黎明期がありその後に過度な期待の時期がある。期待と現実のギャップに気づくと幻滅期に入り、そこから地道に発展し安定していくというのが一般的な流れだ。この流れに当てはめると、クラウドは「過度な期待」期にあると言える。ユーザーの「早い」「安い」「より満足」という期待は、クラウドさえあれば解決するというものではない。ただし、ITの所有から利用へという流れはクラウドという言葉が話題になり始めた頃にはすでにあり、そうでないとビジネスの要求に応えられない時代であることは間違いない。

 「クラウド・コンピューティング」とフルネームで呼ぶとき、クラウドはサービスでコンピューティングは仕組み、と分けることができる。仕組みをさらに分解するとテクノロジー/プロセス/アーキテクチャとなり、これらが魅力的でなければサービスとしてのクラウドが魅力的になることはない。また、現在ではコンシューマレベルでの技術革新が急速で、そのデバイスやサービスの進化をうまく取り込み根本的に変化することで、ITインフラはより使いやすくなり、新たな価値を生み出すようになる。

 クラウドサービスではIaaS、PaaS、SaaSというレイヤ分けがあったり、プライベートとパブリックの区分や、それらが混在したハイブリッドが良いと言われる。技術的なことを言えば、ハイブリッドにするにはレイヤ分けをそろえておく必要がある。ただし、日本ではクラウドの利用について、企業のコスト削減や業務改善を目的とするITインフラの改善に限定して考えすぎているきらいがある。コンピュータの性能向上は爆発的なものであり、企業のITインフラとしてだけでなく、社会インフラも含めたもっと大きなことを考えた方がいいというのが亦賀氏の考えだ。

 米国では日本よりも華やかなイメージをITの大手ベンダが演出しているし、日本でも社会全体の発展とコンピューティングをからめた大がかりなコンセプトを提案している組織もある。ITについて、企業内に閉じた既存業務にとらわれず、外向きに前向きに取り組んでいくことが必要だ。システムやサービスを相互接続するのがクラウドだが、これからのITでは、パートナー企業との連携と、さまざまなサービスや情報、リソースを融合することが必要になる。そのような新たなITインフラは、既存ビジネスの維持だけでなく地球規模の新たなビジネス拡大の武器となる。情報システム部門の人々は、社内サービスプロバイダ兼社内のビジネスイノベーターとして、企業と社会の成長と競争力のリーダーとなるべきであり、企業は新たなテクノロジを戦略的に導入し、過去と現在の延長だけではなく、未来志向へと切り替えなければならない。

 圧倒的な性能は業務を変革できる

セッション1
「強い会社はもう始めている! ビジネスを変革するシステムの高速化」
日本オラクル SPARCサーバ担当シニアマネージャー
籾井啓輔氏

 コンピュータの性能向上は急激で、オラクルのあるユーザーでは30時間かかっていた売上動向検索が21分で行えるようになったという。これは、仕事が早く終わるようになったということを意味しているだけではない。かつて前月の売り上げ動向を見て事業戦略を決めていたが、ITの導入によって前日のデータを見て決めて決めることができるようになった。それがさらに、1時間前の情報で判断することができるようになったということなのだ。つまり、システムを高速化することで、ビジネスの前提が変わる。圧倒的なシステムパフォーマンスが、業務を改革するのである。

 企業のITはコンピュータやストレージ、ネットワーク、ソフトウェアといったコンポーネントが個別に提供されていた時代から、すべてがサービスとして利用できる世界へと進んでいる。今はまだ過渡期だが、オラクルでは現時点での最適ソリューションとして、システム構築の手間や時間をかけずに必要な時に迅速に利用を開始できる「Oracle's Optimized Solutions」を提供している。

 具体的な製品として最近クローズアップされているのが、「Oracle Exadata Database Machine」である。これは、「RAC Database Server Grid」と「Exadata Storage Server Grid」をひとつのラックに収め、超高速のInfiniBandネットワークで接続した高性能のデータベースシステムだ。データベースでは、データ量の増大によりサーバとストレージ間のネットワークがボトルネックになっているほか、大量データをサーバ間転送するため、ネットワーク帯域がボトルネックになるという問題がある。それを解決するのがInfiniBandで、サーバ間のインターコネクト、サーバとストレージ間のネットワークに40Gbpsの帯域を確保している。また、従来のデータベース構成では検索対象のデータをストレージからサーバに転送し、データベース側のメモリ上で抽出処理を行うため、転送帯域が広くてもデータ量の増加に伴う処理時間の増加が問題だった。Oracle Exadata Database Machineでは、ストレージ側でSmart Scanを行い条件に合った結果だけをサーバに転送する。これにより、ストレージサーバが独立して並列処理を行うため処理時間を短縮できる。そのほか、Exadata Smart Flash Cacheによりキャッシュ領域を大幅に増やして処理性能を向上させることができる。

 Oracle Exadata Database Machineは、これらのさまざまな先進技術を導入して、サーバ・ネットワーク・ストレージといったハードウェアを最適構成し、OSやデータベースとともに、クラスタウェアやストレージ管理ソフトウェア、システム管理ツール、バックアップソフトをベストコンフィギュレーションでセットアップしてある。統一アーキテクチャで運用可能で初期コストや運用コストの抑制が実現するシステムを、検証済みの最適構成で提案する。

 ネットワークもシンプル化を目指せ

セッション2
「THE NEW NETWORK:企業ネットワークインフラの最適化」
ジュニパーネットワークス マーケティング本部
エンタープライズソリューションマーケティングマネージャー
小川直樹氏

 ジュニパーのビジョンは「Connect Everything; Empower Everyone(すべてをつなぎ、すべてに力を)」ということで、ネットワークベンダとしてシリコン、システム、ソフトウェアの開発を続けている。今はクラウドの時代と言われているが、その始まりはさまざまなメディアのデジタル化や、さまざまなデバイスが登場し小型化したことにある。これによりコンテンツが結びついて新しいコンテンツが生まれたり、マシン間が接続されるようになった。つまり、新しいネットワークが必要になったのである。それが新しい情報インフラとしてのクラウドだ。従来、ITの世界では利便性と経済性は両立せず、パフォーマンスや拡張性の向上をとるかコスト削減をとるかのトレードオフの関係にあった。しかし、動的に割り当て可能な共有リソースプールにより、経済性、拡張性、安全性が同時に手に入ると期待されている。

 ユーザーは、ネットワークを経由してサービスが提供されることを期待している。この時、考慮に入れなければいけないのは周辺技術の進化によってアプリケーションアーキテクチャが変化しているということだ。旧来のクライアント/サーバ型のアプリケーションでは、トラフィックの大部分はクライアントとサーバの間の通信だった。しかし、Web2.0やSOA、SaaSといったキーワードに代表されるテクノロジーにより、分散型になった現在の多くのシステムでは、クライアントとサーバの間よりも、サーバ同士の通信の方が格段に多くなっている。

 しかしながら、多くの場合ネットワークアーキテクチャは、サーバを収容するエッジスイッチ、それを集約するアグリゲーションスイッチ、コアスイッチといったように階層構造のままだ。これは、サーバ間の通信が一度コアスイッチまでさかのぼってまた下りてくるという遠回りをしなければならないため遅延が生じやすいほか、スパニングツリーによって無効化される帯域幅がありパフォーマンスでも不利だ。そこで、ジュニパーではこの3階層のネットワークを2階層にするソリューションを提供している。ジュニパーでは将来これを1階層にし、よりシンプルなアーキテクチャにするのが最終目的だ。

 インフラをシンプルにすることは、パフォーマンスの向上や管理対象機器の減少による管理負荷軽減などのメリットがある。さらに、データセンター間をまたがってセキュアにリソースを共有することで、利便性と経済性を両立するクラウド環境が実現する。さらに企業においては、モバイルデバイスの多様化と高機能化に対応することで、生産性向上も期待できる。そのためのインフラ最適化に向けて、ジュニパーでは機器の高性能や多機能を追求するほか、アプリケーションベースのセキュリティポリシー運用の提供や、モバイル機器への対応も進めている。

 クラウドという言葉を使わずとも説明できる進化

基調講演2
「ITインフラ技術の進化とその利用の可能性」
アイティメディア @IT編集長
三木泉

 現在ITの世界で起こっていることは、これまで「たかがIT、されどIT」でやってきたものが、「でもやっぱりたかがIT」だったという認識の広がりだ。多くの企業の業務部門はこの2、3年、大きなプレッシャーにさらされ、余裕がない状況だ。ITがもはやビジネスに欠かせないのは明らかだが、こうした状況下で、「仕事に役立ってこそのIT」という原点が最認識されている。すなわち、ITがどこまで業務を直接的に助けてくれているのかが非常に厳しく問われるようになった。

 一方で、業務部門にとっては、本格的な業務に使えるITサービスの選択肢が昨年来急速に増えてきた。ユーザーとしては、社内にあるものか、社外にあるものかは最終的にはどちらでもかまわない。当然、自分たちの仕事に役に立つようなITを選択したいということになる。

 いまになって「サービスとしてのIT」などという言葉が改めて出てきているが、企業のIT部門を含め、ITを提供するすべての人たちが、ITでどこまで直接的に業務に貢献できるかをめぐる仁義なき戦いの時代に入ったのだとも表現できる。

 求められているのは効率性、柔軟性、運用性を向上する技術だ。ITを提供する立場の人々にとっても、コスト効率がよく、構成変更などに柔軟に対応でき、自動化や自律化によって運用負荷を極小化できるような技術、すなわち運用担当者も楽ができる技術、これが現在必要とされているものだ。

 シスコは自社でIT改善にどう取り組んでいるか

セッションA-1
「ビジネス要件に15分で対応し、TCO50%以上削減を実現する
社内ITインフラ事例のご紹介」
シスコシステムズ 情報システム本部 本部長
廣崎淳一氏

 シスコはネットワークベンダとして知られており、昨今はサーバ分野にも積極的な展開をしている。しかし、今回のセッションは製品や戦略の紹介ではなく、シスコ社内のIT部門がどのように生産性向上の取り組みをしてきたかという、自社製品を使った事例の紹介という内容だ。

 シスコはグローバル企業であり、世界中にデータセンターを持っている。これは、企業買収を繰り返したことで、その会社の業務システムやデータセンターが組織に追加されてくることも一因だ。もちろん業務系システムは統合を進め、単一とまではいかないものの業務系データセンターの数は少ない。一方でどうしても減らせないのが、R&D系のデータセンターだったという。データセンターを取り巻く課題としては、設置スペース、消費電力、冷却、災害対策などお馴染みのものがいくつかあるが、シスコで最も問題だったのはサイロ型のアプローチだった。これは一般的な企業でも、特定のアプリケーションのために専用の機器を購入しネットワークを構築してシステムを組み上げるという通常のやり方を繰り返していれば生ずる問題だ。別のアプリケーションを立ち上げる時、以前構築したシステムのリソースが空いていても、システム要件の違いや部門ごとの予算で構築したので共用できないなどの理由で有効活用されない。この状態を改善するためのプロジェクトが、シスコでは2004年から始まった。

 取り組みは3つのステップで進められた。第1段階は統合化で、分散しているデータセンターを集中させて運用効率などを高める。次に仮想化技術の導入により、プール化したリソースを切り出してユーザー(各部門)に提供する形に変えていった。これで、隣の部門のサーバのリソースが空いているのに新たな機器を購入するようなことは少なくなる。2009年頃からは、自動化のフェーズに入っており、プロビジョニングとライフサイクル管理により、迅速なリソース提供や使用しなくなったリソースの返却を促す(これにより業務部門ではコストが削減でき、IT部門は運用負荷が減る)ことが可能になっている。

 もう1つ重要なことは、IT管理に関する組織の考え方を変えることだ。従来のIT部門では、サーバやストレージの管理者がそれぞれのアプリケーションごとに配置されている。ちなみにここにネットワーク管理は入っておらず、それは別組織ということが多い。これを、サーバ・ストレージ・ネットワークに加えてデータセンター自体のファシリティを考える要員まで含めてひとつのIT部門にまとめる。そしてそのスタッフをアーキテクチャ・デザイン・導入・運用というライフサイクルで区分する。これにより、これからどのような機器の導入や新技術への対応が必要なのかタイムリーに判断するとともに、日々の運用がスムーズになるようなIT as a Serviceの環境ができあがる。

 FTが安価になると用途が広がる

セッションB-1
「3分の1のコストで実現。99.99%以上の可用性を実現するクラウドの信頼性対策とは」
シーティーシー・エスピー プロダクト推進チーム
井上悦義氏

 システム冗長化を安くやりたいというときに、これまでの手法では、共有ディスク、あるいはアプリケーションごとの設定が必要になったりする。企業独自のアプリケーションだと、使えるクラスタリングソフトウェアがないということもある。これらを解決するのが「Stratus Avance」ソフトウェアだ。

 Avanceでは、仮想化技術を用いて簡単、低コストにフェイルオーバが行える。2台のIAサーバにAvanceをインストールすると、共有ディスクを使わずに、サーバ間でデータがリアルタイムに同期される。これは、FTサーバで知られるストラタスの製品だ。最近のFTサーバは、ほとんどソフトウェア的にその機能を実現している。これを逆手にとり、IAサーバを用いてソフトウェアとして障害復旧機能を実装したのがこの製品だ。

 独自のハードウェアを用いたFTサーバは最低400〜500万円はかかってしまって高価だ。クラスタリングソフトウェアもコストがかかるうえ、アプリケーションごとに設定が必要になる。さらにクラスタリングソフトウェアでは、基本的に止まった後にしかサーバの切り替えができない。サーバ仮想化でも共有ディスクが必要だ。Avanceは、このようにニーズの満たされていない空白地帯を狙っている。

 Avanceでは障害の予兆を検知し、サーバが壊れる前に、仮想サーバとして動いているアプリケーションをもう1台のサーバに移すことができる。障害予兆検知はサーバハードウェアの管理ツールとの連携で行う。また、壊れたコンポーネントについてだけ、もう1台のサーバのものに切り替えることが可能だ。例えばディスクが壊れると、もう1台のディスクを使って稼働し続けることができる。そして壊れたディスクは稼働中に交換することも可能だ。切り戻し(フェイルバック)のような作業は不要だという点も、運用を楽にするポイントだ。

 適用分野としては、やはりFTサーバのコストが高すぎるというケース、コールドスタンバイを行うと、コストは安いが運用が手動で手間がかかり、対応しきれないというケースなどがある。また、例えばSQL Serverの冗長化システムを提案する必要がある場合、サーバは4台に加えてオプションのソフトウェアを購入する必要がある。Avanceでは、サーバは2台で、オプションのソフトウェアは不要だ。圧倒的な低コストを実現できる。

 秘密分散技術を適用したストレージクラウド

セッションA-2
「より安く! より使いやすく! ファイルサーバーはクラウドで!! 」
NRIセキュアテクノロジーズ
ソリューション事業本部 本部長
佐藤敦氏

 クラウド流行りの昨今だが、「これって本当にクラウド?」というようなサービスがあるのも事実だ。とはいえ、データの保管先として外部のストレージをオンラインで使うというサービスのニーズは高く、最近はかなりクラウドらしくなってきてもいる。

 NRIセキュアテクノロジーズの調査によれば、社内の重要なデータを外部に預けることについて、肯定論者と否定論者はほぼ半々だ。まず判断基準のひとつはコストである。クラウドは安いというのが定説で、肯定派はこの点を評価し、否定派はかえって高くなったと言う。なぜなら、テープバックアップよりも外部に預ける方が高いし、ファイルサーバを外部に預けた場合はセキュリティ確保のためにVPNなど別のコストが発生して結局高くなるのである。ただし、この単純比較は正しくない。例えばバックアップの場合、データの複製を保存すること自体が目的ではない点を思い出す必要がある。何かあった時にシステムを元に戻すためにバックアップをとっているのだから、どのくらい直近の状態に戻せるのか、どのくらい短時間で戻せるのかという基準で比較しなければ意味がない。その点、テープバックアップよりもオンラインバックアップの方が優れている点はかなり多い。表に出ている費用ではなく、トラブル発生時の損失金額で比べると、コスト比較とは異なる結果になる。

 もうひとつはセキュリティの問題である。セキュリティを最終目的である事業継続性と結びつけて考えた場合、ディザスタリカバリを比較的容易に実現できる外部ストレージサービスが有利だが、伝送経路での盗聴や外部からのハッキングだけでなく、サービス提供事業者自身がデータを盗み見ることができるではないかという不安は去らない。NRIセキュアテクノロジーズの「Secure Cube / Secret Share」はこの点に配慮し、「秘密分散技術」を利用したサービスとなっている。秘密分散とは、あるデータの隣接するビットが同じファイルに入らないように分割し、それぞれ別のデータセンターに保管することによって、1つのファイルだけを見ても元の情報が分からないという仕組みだ。加えて、RAID5に類似のパリティ構造により、M個に分散された情報のうちN個が集まれば情報が復元可能(例えば3つに分散されているうち2つあれば復元できるなど)になっている。つまり、1カ所のデータセンターが機能しなくなってもファイルは復元できるようになっているのである。

 仕組みは複雑だが、使い方は非常に簡単だ。外部のストレージにあるファイルは、クライアントのPC上ではファイルサーバに存在する1つのファイルとして表示されている。それを開けば、背後で分散された複数の情報が復元されて元のファイルとして開かれる。日本はネットワーク状況が良好なので、さしてタイムラグも発生しない。

 クラウド化におけるストレージの新たな課題

セッションB-2
「仮想化の効果を最大化するストレージ・インフラ構築法」
EMCジャパン プロダクト・ソリューションズ統括部
テクノロジー・コンサルタント
吉田尚壮氏

 企業はプライベート・クラウドの実現に向け、3つの段階を経て次世代インフラに移行する。最初はコスト削減などを目的としてサーバを仮想化し、次にサービス品質の向上を目指してその規模を拡大、最終的にはITインフラをサービスとして提供できる、次世代のITインフラに進化していく。

 サーバ仮想化の導入とともに、多くの企業では共有ディスクを導入する。これは管理の仕方も変える。このため、初期の段階で効率的な管理基盤を作っておくことが重要だ。

 サーバ仮想化管理ツールと、共有ストレージの管理ツールを使うことになるが、相互に連携していないと問題が起こる。仮想マシンの迅速な展開ができない、あるいは物理/仮想サーバ、ストレージ、ネットワークと、エンド・ツー・エンドで構成情報が把握できない。しかし、例えばEMCのミッドレンジストレージの管理ツールを、ヴイエムウェアのVMware vSphereの管理ツールにインストールすると、VMwareの管理ツールからストレージの管理ができるようになる。また、EMCのストレージ管理ツールから、ストレージに接続しているサーバ機の一覧をはじめ、仮想化環境で仮想マシンが何台動いていて、それぞれの仮想マシンのOSは何か、それぞれはどのディスクを使っているかといった、VMwareの仮想化環境の情報を取得することも可能だ。これをXML形式で出力することもできるので、物理/仮想環境を一括した情報をリアルタイムでレポートできる。問題が発生した場合にも、その箇所を特定できる。

 前述の、EMCのストレージ管理ツールはVMwareの管理ツールにプラグインとして導入できる。そしてそこから、VMwareのために新たなボリュームを作成する、ストレージの機能を使って仮想マシンをコピーする、仮想マシンのデータを圧縮するといったことも可能だ。

 サーバ仮想化、デスクトップ仮想化ではストレージの性能が大きな影響を及ぼす。ストレージでは、多数のドライブを並列に接続し、I/O処理を分散することで高速化できる。しかし、SATAドライブでは30本並べてやっと2400IOPS。ファイバチャネルドライブはその半分の数で同じIOPSを実現できる。しかし、それでもフラッシュドライブのIOPSには達しない。また、フラッシュドライブは負荷をかけても、レスポンスタイムは一定に保たれる。消費電力、信頼性でもフラッシュドライブは有利だ。価格はまだ高いものの、下がってきているため、有効性は高まってくる。

 ストレージには、通常DRAMキャッシュが搭載されている。このキャッシュのアルゴリズムや容量が、ストレージとサーバのパフォーマンスに影響を与える。EMCでは、フラッシュドライブをDRAMキャッシュとして使う技術を提供している。これにより性能を向上できる。また、ハードディスクへのアクセスをモニターし、アクセス頻度の高いデータをフラッシュドライブに移行するため、ハードディスクの利用を最小化することでも性能を上げることができる。

 データセンターネットワークの統合化とシンプル化

セッションA-3
「革新的イーサネット技術が可能にする“真”のクラウドとは?」
ブロケードコミュニケーションズシステムズ
データセンターテクノロジ部 部長
小宮崇博氏

 ネットワークベンダのブロケードは2010年に新社屋をオープンしたが、そこには新しいデータセンターがある。このデータセンターは屋上に太陽電池を備えてPUE1.3をもうすぐ切ろうかという、専業者以外のものとしてはかなり電力効率のいいデータセンターだ。その理由は、サーバ仮想化の技術を使っているからだという。新データセンター設計に当たり、ポイントとなったのは統合、シンプル化、自動化の3点だ。まず、3カ所にあったデータセンターを1カ所に統合し、運用効率を高めるとともにグリーン電力を使用した。さらに、2000台あった物理サーバの70%を仮想化して110ラックに集約、複雑なネットワークのルーティングレイヤをコア1層に集約してプロビジョニングの時間を40時間へと短縮した。

 ブロケード自身が次世代データセンターを作り上げる過程でデータセンターネットワークの課題として浮かび上がったことは、より高密度に集約してコストダウンしたい、複雑性の軽減と高可用性の実現をしたい、迅速なプロビジョニングをしたいという3点だ。また、データセンターネットワークにはビジネストランザクションのネットワーク、リソースエリアネットワーク、マネージメントのためのネットワークという3つのカテゴリがあり、それぞれ最適化を行う必要がある。

 ブロケードでは次世代データセンターのためのコンセプトとして「Brocade One」を6月に発表しているが、そのうちの1つが「Brocade Virtual Cluster Switching(VCS)」だ。これは複数のネットワークスイッチを結合してひとつの論理筐体にする仕組みで、仮想化のために仮想スイッチが増えるなどで複雑化したネットワークをシンプルで高性能にする。また、新しい機能が必要になった場合に物理構成を変えずにダイナミックに追加できるというメリットもある。標準技術を使っており従来環境との共存も可能なため、必要な部分から順次導入していくことが可能だ。もう1つは「Brocade Virtual Access Layer(VAL)」で、仮想スイッチの管理をネットワーク側にまとめ、管理をシンプルにする技術だ。仮想スイッチのトラフィック転送を外部スイッチで行うことでサーバの負荷が軽減するため、集約度も向上する。こちらも標準技術であるIEEE 802.1Qをベースとしており、主要なハイパーバイザーに対応している。

 最新のニュースとして、セミナー開催当日の11月26日に、Brocade VDXを国内リリースした。これはBrocade VCS技術を使用した最初の製品で、イーサネットファブリックを提供する業界初のスイッチという位置づけだ。その他、専用チップであるASICによる低遅延やスパニングツリーを排除するためすべてのパスがアクティブで、高パフォーマンスを実現するなどの特長を持っている。今後、続々と統合ファブリック製品が投入される予定だ。

 バックアップこそクラウド的な運用を

セッションB-3
「『移行→バックアップ→事業継続』
――仮想化統合の3大課題をシンプルに解決する方法とは」
シーティーシー・エスピー プロダクト推進チーム
井上悦義氏

 サーバ仮想化の課題の1つは、既存の物理サーバを、ダウンタイムなしにどう仮想化環境に移行するかという点にある。サーバ機も多種多様で、すべてのサーバの移行ニーズに応えられる1つのツールを見つけにくい。

 サーバ仮想化環境を運用し始めた後も、単一のホストに複数のプロセス(OSやアプリケーション)が稼働しているため、停止は許されない。ダウンしても即座にサービスを再開できなければ困るプロセスがある。データも、重要なものからアクセスのほとんどないものまで集約されてくる。ハードディスクの追加も、なかなかできない。これらの課題を解決するDoubleTakeは、WindowsおよびLinuxのサーバを対象とし、サーバ間でリアルタイムのレプリケーション(複製)を実行できるソフトウェア。障害時には複製先からデータを立ち上げることができる。

 DoubleTakeでは、対象が物理サーバと仮想サーバのどちらであるかを問わず、直前までのデータを保全することができる。また、障害の際の立ち上げも即座にできる。

 この製品では、データの複製を常にリアルタイムで行える。遠隔的にデータを転送する際に、データ書き込みの順番を維持し、データの整合性を確保できる。実際、DoubleTakeの納入実績のうち、約30%をデータベースへの適用が占めている。

 仮想化/クラウド環境を導入しても、その環境に何があったときに、(特に重要なアプリ家ケーション/データについては)自分で復旧できる仕組みを持っておかなければならない。仮想マシンを仮想マシンにバックアップすることはもちろんできるが、物理マシンを仮想マシンにバックアップすれば、コスト効率よくバックアップ環境がつくれる。

 また、DoubleTakeはWAN対応にも優れており、コスト効率よく災害対策のために利用できる。さらにn対1でのフェイルオーバの機能も用意している。障害発生時にバックアップデータを別の仮想マシンからマウントして使える。

 サーバ仮想化でサービス運用が大きく変わった

特別講演
「インフラコストの圧縮とサービス連続稼働に効くクラウド・仮想化、
ネット企業での活用の舞台裏」
ネクスト 技術基盤本部 基盤グループ長
久世崇志氏

 最後のセッションは、ユーザー企業から見た仮想化・クラウドという視点の事例である。ネクストは不動産検索サイト「HOMES」などのサービスを行っている企業で、ネットワーク、サーバ、サイト開発というIT部分からサービス企画、営業活動、広報活動まですべてを自社で行う徹底した自前主義が特長だという。ITではピーク時に合わせたサイジングが常道だが、物理サーバ環境では大して負荷のかからないものでも1Uのスペースを占有する、調達のリードタイムが長いなどが課題になっていた。

 仮想化を導入した効果の第一番目は、サーバ統合で台数が減りデータセンターのラック使用料が削減できたことだ。昨今のハードウェアは高性能で、ひとつのサービスでリソースを使い切ることは稀であり、余剰リソースを有効活用することでこれまでは新サービスを追加するたびに必要になっていたラックの追加もほとんど不要になったという。サーバ統合の際には、ボトルネック要因の異なるタイプのサーバを組み合わせる必要があるが、ネクストではそのためにモニタリングツールの定番「Ganglia」を利用している。
もうひとつの効果は、デリバリタイムの短縮である。物理サーバの場合は調達の社内手続後きなどが通常4週間ぐらいかかるが、仮想化環境では既にあるリソースに複製やカスタマイズを行えばいいため、システム立ち上げまで半日もかからない。これによって、「使いたくなった時に、すぐ使いたい」「最初は低スペックでもかまわないから、とにかく早く使い始めたい」というユーザー部門のニーズに応えることができるようになった。

 また、IT管理の面でのメリットとしては、バックアップの手軽さが大きい。仮想化導入前のバックアップでは待機系サーバを用意していたが、予備機を用意し、データとアプリケーションの定期的ダンプと保存、リカバリ手順の確立、環境復元手順などの検証と、かなり面倒で、しかも面白みのない作業が発生していた。それが、仮想化環境ならばスナップショット機能で簡単にバックアップをとることができる。リストアも簡単なので、アプリケーションのバージョンアップなどの作業も、「ダメでも確実に戻せる」というそれまで味わったことのない安心感があるという。

 クラウドサービスについては、使いどころを選ぶことが必要だろうというのが今のスタンスだ。これまで構築した自社のシステムと連携できることが重要で、ハウジングで利用しているデータセンター事業者の提供するホスティングサービスを利用しはじめているという。企業にとっては、「1時間たりとも止められない」「復旧は明日でもいい」「中途半端に止まるより切り離す」など、サーバをクラス分けしてコストのかけ方を最適化することが重要だ。


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