System Insider Interview

2005年にサーバのトップ・シェア獲得を目指すデルの目算と課題

デジタルアドバンテージ
2005/02/26
解説タイトル

 昨今のデルについては、テレビ機能付き液晶ディスプレイやプリンタなどのパソコン周辺機器や、家庭向けPCなどの販売に注目が集まっている。しかしここ数年、同社が最重要課題として取り組んでいるのがサーバやストレージといったエンタープライズ・ビジネスであることは間違いない。同社はパソコン直販メーカーというイメージの陰で、エンタープライズ・ビジネスを加速させている。パソコン販売においては大成功を収めた同社だが、エンタープライズ・ビジネスにおいては成功を収めることができるのか。

 サーバやストレージも、パソコンと同様、価格競争時代に突入しており、システム・ベンダの収益性の悪化が懸念されている。そんな中、NECや富士通、日立製作所、日本IBMなどは、自社開発のソフトウェアを組み合わせることで、ハードウェア単独での収益性の悪化をトータル・ソリューションによってカバーしようとしている。こうした動きの中、有力な自社開発ソフトウェアを持たないデルがどのような戦略により、高収益体質を維持しようとしているのか、現在のデルのエンタープライズ・ビジネスが直面している課題とは何なのかについて、デル株式会社エンタープライズ事業本部ソリューション本部長の多田和之氏にお話をうかがった。

デル株式会社エンタープライズ事業本部
ソリューション本部長多田和之氏

標準化とデル・モデルこそがデルの強み

 日本においても、パソコン直販メーカーというイメージの陰で、デルのエンタープライズ・ビジネスは急速に立ち上がっている。インタビューの冒頭、多田氏は「非常に熱い手応えを感じてきた」とし、2004年度の日本におけるエンタープライズ・ビジネスの成長を「満足できるもの」と評価した。その第1の理由は対前年度比で20%近い成長率でマーケット・シェアを拡大できたこと、第2の理由はサポートやサービスの幅を広げることができたことだという。マーケット・シェアの拡大により、日本国内のIAサーバ市場において、デルはNECに次ぐ、2位の地位を確実なものにした。

 デルのエンタープライズ・ビジネスは、パソコン販売と同じく「デル・モデル」と呼ばれる、デルならではの直販ビジネスの上に成り立っている。メインフレームや独自仕様のUNIXサーバの販売を基本戦略としてきた競合他社が、「サーバ統合」を合言葉にスケールアップ指向に動いている中、デルはあくまでもIAサーバによるスケールアウトにこだわりを見せる。例えば、Itanium 2搭載サーバは「ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)などの一部の用途向け」としており、8ウェイなどのハイエンド・サーバを投入するなどのラインアップ強化は予定していない。多田氏は、「Intel Xeonが64bit化したことで、金融サービス向けのデータベース・サーバでも、2ウェイや4ウェイのサーバをスケールアウトすることで十分対応可能になった。またスケールアウトの方が、トランザクション処理における柔軟性が高く、信頼性の向上も実現できる」と述べ、スケールアウトでも十分にミッションクリティカル領域を狙えると自信を見せる。

 デルでは、デル製サーバと「Oracle Database 10g」「Oracle Real Application Clusters 10g」を組み合わせた無停止型システムを日本オラクルと共同で提供しており、スケールアウト手法でも十分にミッションクリティカルな領域を狙えると見ているようだ。しかし特に日本においては、この領域は未だにメインフレームやUNIXサーバが主流であり、これらのユーザーは保守的であるとされている。すでに先進的なユーザーでは、この動きは始まっているが、多くのユーザーにデルの手法を浸透させるには、時間がかかるかもしれない。

サービスにもデル・モデルを適用し安価で良質なものを目指す

 このように製品戦略においては、業界標準というべきIAサーバの販売を基本戦略とし、サポートやサービスの提供においても、競合他社とはまったく異なる戦略を採用している。競合他社が製品販売よりもむしろサポートやサービスの提供で利益をあげようという「ソリューション・ビジネス」を強く打ち出しているのに対して、多田氏は「デルの考え方はまったく異なる」として、以下のように続けた。

「デルは複雑で高価なサービスを顧客に押し付けることは考えていない。シンプルで価格的にも手ごろなサービスを、必要に応じて顧客に提供していくのがデルの考え方だ。顧客は必要なサービスだけを受け取ることができるし、受け取るサービスの明細をはっきり知らされるようになっている。デルのサービスが、ブラックボックス化している競合他社のサービスとまったく異なる点だ」

 つまりはこういうことだ。製品戦略においても、サポートやサービスの戦略においても、貫かれているのは「デル・モデル」であり、デルはあくまで顧客にシンプルな価値を提供していく。デルは顧客が必要とするサポートやサービスだけを低価格で提供する。競合他社のように、サポートやサービスの提供を製品販売に代わる収益源というように考えたりはしない。製品販売、サポートやサービスの提供、それぞれにおいてしっかりと収益管理が行なわれており、それぞれを独立した収益源ととらえている。こうした考え方に立つことができるのは、同社が製品販売においてもしっかりとした収益構造を確保しているからであり、同社の最大の強みはやはりそこにあるのだろう。

サポートやサービスを拡充してエンタープライズでもトップ・シェアを狙う

 とはいえ、デルのマーケット・シェアが拡大し、エンタープライズ・ビジネスの中でも「ミッションクリティカル」と呼ばれる大規模システムの領域に入っていけばいくほど、顧客からのサポートやサービスに対する要求は強まっていくと思われる。多田氏は今後のデルのエンタープライズ・ビジネスにおける最重要課題は、サポートやサービスの拡充であるとした上で、最近の取り組みを2つ、事例として紹介した。1つは2005年2月8日にオープンしたばかりの「エンタープライズ コマンド センター(ECC)」だ。これはサーバ製品、ストレージ製品を対象として、これまで行なってきた24時間オンサイト保守サービスを集中的に監視し、さらに迅速なサービスを可能とする管制センターだ。このサービスは「ゴールド」および「シルバー」と呼ばれる、デルのエンタープライズ・サポート・パッケージを購入している顧客にもれなく提供されるという。

 もう1つは、個人情報保護法の施行を目前にして、デル・プロフェッショナル・サービス(DPS)と呼ばれるパートナー企業とのアライアンスにより提供が開始されたセキュリティプログラムだ。デルのエンタープライズ・ビジネスのもう1つの大きな特徴は、顧客に提供されるサポートやサービスの多くが、このようにパートナー企業とのアライアンスに基づいているということだ。それを指摘して、自前のサポート部門やサービス部門を抱える競合他社に比べて、サポートやサービスの総合力という点で劣るのではないか、と危惧する声もあるが、多田氏はそれをきっぱりと否定する。

「単純に社内スタッフの人数だけを比較して、そうした危惧を持たれる方がいるのかもしれないが、むしろデルはパートナー企業とのアライアンスを活用することによって、競合他社より的確なコンサルティング、競合他社より迅速で低価格なソリューションを顧客に提供してきた。DPSは短期間に着実な成果を上げてきており、今後もDPSを活用してサポートやサービスの拡充に努めていく」

 デルの手法は、これまで顧客丸抱えでサポートやサービスを提供してきた競合他社の手法とは異なるものだ。そこに不安を感じる顧客も少なくない。だが、それは別のいい方をすれば、デルのエンタープライズ・ビジネスが急速に立ち上がり、すでに競合他社と同じ土俵の上で、サポートやサービスの質や量を問われる段階まできているということでもある。だが、どうやらデルに迷いはないようだ。あくまでDPSを核とした、デルならではのサポートやサービスの拡充を当面の課題としていく。

 2005年度、デルのエンタープライズ・ビジネスが課題としているのは、もちろんサポートやサービスの拡充だけではない。2005年度、デルのエンタープライズ・ビジネスに大きな弾みを付けるものとして、多田氏は64bitサーバ・コンピューティングへのタイムリーな移行、ストレージ製品のこれまで以上の激しい低価格化が、2つの大きな鍵となると予想している。

 64bitサーバ・コンピューティングは、2005年5月中旬のx64版Windows Server 2003のリリースによって本格的に展開が始まる。またインテルは、4ウェイ向けのIntel Xeon MPのEM64T対応版を近々投入する予定である。デルでは、これらのリリースに合わせてタイムリーに対応サーバを投入するとしている。またストレージ製品の低価格化は、デルにとっての追い風になると多田氏は見ている。低価格化による市場の拡大と、低価格競争におけるデル・モデルの低いコスト構造がデルに優位に働くという。そして、多田氏は2005年度の目標を「トップ・シェアの獲得」といい切った。

デルの課題は広がるターゲット・セグメントか?

 各調査会社が発表している顧客満足度調査において、デルは常に好成績を収めている。しかし2004年の調査では、若干ではあるが満足度が低下傾向にある。これは、シェアが高まったことで、デルのサービスやサポートを理解して購入している人(ある程度、自分たちで管理・運用ができる人)から、ベンダの手厚いサポートが当たり前と考えている人まで広がり始めた結果だろう。サポートの考え方や期待値がデルの尺度とは異なる層にまで、ユーザーが広がったことが満足度調査に現れたと考えられる。2005年の目標としている「トップ・シェアの獲得」を達成するには、こうした新しい顧客層も取り込む必要がある。その場合、デルのサービス/サポートに対する考え方と、ユーザーの意識とのギャップが問題となってきそうだ。デルがさらに飛躍するには、デル・モデルと新たなユーザー層の意識とのギャップをどのように解消していくのかが課題となりそうだ。記事の終わり

  関連リンク
デルと日本オラクル、無停止型システムを低価格で提供
デル・プロフェッショナル・サービスによる統合セキュリティ・ソリューションを提供開始
サーバ・ストレージ製品の保守サービスを管制する施設を開設
 
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