解説 HPとの合併で名を捨てて実を取ったCompaq――新生HPの製品ラインアップが明らかに―― 2. サーバ製品もCompaqが主流に デジタルアドバンテージ |
合併の鍵となるサーバ製品の統合
HPとCompaqの合併で鍵となるのが、サーバ分野の統合だ。今後の収益の柱と考えているサービス部門との関連性も高い。つまり、この分野の統合が成功するかどうかは、直接的に今回の合併が成功するかどうかを左右するといっても過言ではない。IA-32、Itanium、RISC/UNIXサーバのそれぞれについて見ていこう。
■IA-32サーバはProLiantを主流に
IA-32サーバについては、基本的に製品としてCompaq ProLiantを残し、HP netserver(最近の製品はHP server)の販売は順次終了していく。理由として、Compaqの製品のシェアが高いことを挙げている。
継続が決まったProLiantシリーズ |
写真は、1Uラックマント・サーバの「Compaq ProLiant DL360 G2」。IA-32サーバは全面的にProLiantの製品ラインが採用される。 |
ブランド名は「HP ProLiant」になるが、エントリ・サーバの「HP server tc2210/tc2100」は引き続き、この名称で販売が継続される。「HP server tc2210/tc2100」が継続される理由については明らかにしていないが、どちらもタワー型のシングル・プロセッサ構成のサーバであることから、価格が安く、量販店などでも販売されていることから、それらの販売チャンネルを考慮したためかもしれない。
ブレード・サーバは、Compaq ProLiant BLシリーズをデータセンター向けに、HP blade server を通信業界向けに提供していくという。Compaqは、2001年5月にIntelとデータセンター用途の高密度サーバを共同で開発することを表明していることから、この協業を生かす目的があるのかもしれない(Intelのニュースリリース「Compaqとの高密度サーバの開発での協業について」)。
なお、ProLiantへの統合に際して、ストレージ(SmartArray)、ラック、ラック・オプション、電源インフラ、システム管理ファミリもProLiantで採用されているものに移行するとしている。ラックマウント型サーバの標準化は進んできているとはいえ、ラックのレールなどは各社微妙に異なる場合がある。現行のHP serverのラックを利用しているユーザーは、場合によっては既存のラックを生かした拡張などが不可能になるかもしれない。気になるところだ。
■ItaniumサーバはHP製品をベースに
HPとCompaqとも、Itaniumサーバをラインアップしているものの、事実上、次のItanium 2(開発コード名:McKinley)搭載モデルから本格的な製品展開を予定していた。そのため、現行の製品やユーザーに与える影響はそれほど大きくないと思われる。ただし2002年夏ごろに発表予定のItanium 2搭載サーバは、HPとCompaqが別々に開発しているはず。このモデルに関して、どちらの製品が採用されるかは明らかにしていない。
Itaniumサーバは、これから本格的な成長が見込める市場であるため、むしろ今後の製品計画、ならびにItaniumサーバの位置付けをどうしていくのかがポイントになるかもしれない。もともとItaniumの開発にはHPが大きく関与していたこともあり、HPは将来的にRISC/UNIXサーバを含めてItaniumへ統合するように計画していた。その点、Compaqも2001年6月25日にハイエンド・サーバをItaniumに統合する計画を発表しており、方向性としては同じであった(Compaqのニュースリリース「64bitサーバのItaniumへの統合について」)。むしろ、両社の統合によって、Itaniumプラットフォーム上で動作するOSの種類が膨らむことが最大の問題になるかもしれない(詳細は後述)。
■RISC/UNIXサーバは当面並存へ
HPは、2001年にRISC/UNIXサーバ市場でSun Microsystemsを抜き、シェア1位となった。日本においても同社のPA-RISC搭載サーバは、日本電気、日立製作所、沖電気工業が販売しており、着実にハイエンド・サーバ市場でシェアを伸ばしている。一方、CompaqのAlphaServerは、大学や研究所などの科学技術計算市場で高いシェアを確保していることから、両シリーズとも並存させるとしている。ただ、両社とも順次、RISC/UNIXサーバをItaniumサーバへ移行させることを発表しているので、数年後にはItaniumサーバによって製品統合が行われることになるだろう。
■HPの製品に加わったNonStopサーバ
フォールト・トレラント・サーバのNonStopサーバは、もともとCompaqと合併したTandem Computersが主力としていた製品。HPは、フォールト・トレラント・サーバをラインアップしていなかったので、継続して販売が行われることになる。ブランドは「HP NonStop Server」になるが、製品ロードマップはCompaqが予定していたものが継承される。そのため、2004年には現行のMIPSベースからItaniumベースのシステムに移行が行われる予定だ。
■世界最大のOSラインアップ
合併によって大きく膨らむのがOSのラインアップだ。両社がサポートするWindowsとLinuxのほか、HPはHP-UX、CompaqはTru64 UNIX、OpenVMS、NonStop Kernelと6種類にもなる。これらをサポートし続け、IA-32/Itaniumサーバ上へ統合するために移植するのは掛け値なしに大変な作業である。しかしこれらのOSの顧客や、これらのOSをベースとして開発されたソフトウェアこそ、新生HPがよりどころとする大きな資産でもあることから、安心できるマイグレーション・パスを用意するのは至上命題だ。なお、UNIXについては、HP-UXが採用され、これにTru64の機能を追加・サポートしていくことで統合が行われる。将来的に、さらにOSの統合が行われるかどうかについては明らかにしていないが、HP-UXとTru64 UNIXが統合しても5種類のOSをサポートし続けなければならないのは現実的でない。さらなる統合が行われる可能性もあるだろう。
実はCompaqに有利な合併?
主だった製品分野の統合について見てきたが、HPが強いイメージング/プリンタ事業を除くと、新生HPの製品ラインアップの多くでCompaq製品が中心となっていることが分かる。下表に簡単にまとめてみた。
製品カテゴリ | 製品ブランド | 採用された製品ライン | 備考 |
ハンドヘルドPC | HP iPAQ | Compaq iPAQ | HP Jornadaは2002年中に販売終了 |
シン・クライアント | HPブランド | Compaq Evo THIN CLIENT | |
ホーム/ワイヤレス・ネットワーク | HPブランド | Compaq製品 | |
ビジネス向けPC | HPブランド | Compaq Evo | HP Vectraは現行モデルで終了。HP e-pcはHPブランドのまま販売継続 |
コンシューマ向けPC | HP Pavillion/Compaq Presario | HP Pavilion/Compaq Presario | 国ごとに一方のブランドに統合される場合もあり |
ワークステーション | HPブランド | Compaq Evo Workstation | PA-RISCワークステーションも継続提供。64bitプロセッサ系は将来Itaniumワークステーションで統合 |
IA-32サーバ | HP ProLiant | Compaq ProLiant | エントリ・サーバのHP Server tc2210/tc2100は販売継続 |
ブレード・サーバ | HPブランド | Compaq ProLiant BL/HP blade server | Compaq ProLiant BLはデータセンター向け、HP blade serverは通信業界向け |
Itaniumサーバ | HPブランド | HPのロードマップをベースにした製品 | Compaq ProLiantの管理機能などを新製品に取り込む |
RISC/UNIXサーバ | HPブランド | PA-RISC/AlphaServer | 将来的にはItaniumサーバに統合。当面の主力はPA-RISC |
NonStopサーバ | HPブランド | Compaq NonStopサーバ | 将来的にはItaniumサーバに統合 |
UNIX | HP-UX | HP-UX | Tru64 UNIXの機能をHP-UXに統合 |
ストレージ | HP-UX | 個別製品で選択 | 将来的にはCompaqの「Enterprise Network Storage Architecture(ENSA)」に統合 |
イメージング&プリンティング | HPブランド | HP製品 | |
合併後のHPの製品ラインアップ |
この製品統合計画を軸に、今後は人員の再配置や削減、工場の削減などが進められることになるが、製品ラインアップを見る限りでは、Compaq側に有利な展開になるように思える。社名は「Hewlett-Packard」となり、HP主導で合併が進められた印象を受けるが、意外と実を取ったのはCompaq側なのかもしれない。役員は、タスキがけ人事の印象を受けるが、現場レベルではどのような配置が行われるか気になるところだ。
「IT関連企業の大型合併に成功例はない」といわれる。ぜひとも新生HPにはこのジンクスを破っていただきたい。ただユーザーからすると、今後の製品サポートが気になるところ。HPは、これまでと変わらずサポートを続けると宣言している。どこかの国の銀行のように利用者を混乱させるようなことがないように、ユーザー第一の合併作業を望みたい。
関連リンク | |
Compaqとの高密度サーバの開発での協業に関するニュースリリース | |
64bitサーバのItaniumへの統合に関するニュースリリース |
INDEX | ||
HPとの合併で名を捨てて実を取ったCompaq | ||
1.コンシューマ向けPCはブランド変更なし | ||
2.サーバ製品もCompaqが主流に | ||
「System Insiderの解説」 |
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