解説

Itanium 2はバックエンド・サーバ市場を切り崩せるか?
――垂直統合型ソリューションに挑むIntel――

2. 各ベンダの思惑とIntelの期待

デジタルアドバンテージ
2002/07/18

解説タイトル


サーバ・ベンダの思惑とIPFの位置付け(2)

 IntelとHPのIPFに対する戦略を見てきたが、ここからそのほかのサーバ・ベンダについて解説していこう。

■HPとIntelとの提携を軸に展開を図る日本電気
 もともと日本電気は、RISC/UNIXサーバとして、MIPS Rシリーズを搭載してきた。ところが肝心のMIPS Rシリーズが、PCワークステーションの台頭で急速にシェアを失ったうえ、SPARCやPA-RISC、POWERといったRISCプロセッサのターゲットがワークステーションからバックエンド・サーバへと移行する中、その流れに乗り遅れてしまった。そのためMIPS Rシリーズは、どちらかというと組み込み用途向けにプロセッサ開発の方向性を移してしまった。

 こうしたMIPS Rシリーズの動向から、日本電気はRISC/UNIXサーバとしてSun MicrosystemsとHPからそれぞれOEM供給を受けて販売することとなった(UP4800シリーズとして、MIPS Rシリーズを搭載するサーバもラインアップしているが)。そのOEM供給元の1社であるHPがIPFに移行することに加え、MIPS Rシリーズに代わる独自のバックエンド・サーバを開発するためにも、IPFに対して積極的になっていると思われる。

 同社は初代Itaniumにおいても、バックエンド・サーバとして「Express5800/1160Xa」を、科学技術計算向けサーバとして「TX7/AzusA」を販売してきた。Itanium 2においても、「TX7/i9000/i6000(開発コード名:AsAmA)」をいち早く製品化して発表を行った(日本電気の「Itanium 2搭載サーバの発表に関するニュースリリース」)。さらに、2002年第4四半期には2ウェイと4ウェイのItanium 2搭載サーバの販売を開始するという。2002年7月9日のItanium 2の発表会では、HPからOEM供給された2ウェイと4ウェイのサーバが参考出品されていたが、E8870チップセットを搭載したIntel製のマザーボードを採用したサーバもラインアップされるかもしれない。

 日本電気のIPFに対する取り組みは、HPとのサーバ分野での協業や、2000年9月20日に発表されたIntelとのサーバ製品事業における提携を考えれば納得がいく(日本電気の「Intelとのサーバ製品事業における提携について」)。また、日本電気にとっては、IPFが独自開発によるバックエンド・サーバ市場への再参入のチャンスであることも確かだ。

■IPFをIAサーバの上位モデルとして位置付けるIBM
 IBMは、Itanium 2向けに独自のチップセットを開発しており、2002年末にもそのチップセットを搭載したサーバを投入する予定である(IBMの「Itanium 2のサポートについて」)。IBMが開発中のチップセットは、Intel XeonとIPFの両方をサポートする独自アーキテクチャ「エンタープライズX-アーキテクチャ(開発コード名:SUMMIT)」を採用したもので、すでにIntel Xeon向けチップセット「XA-32」を搭載したサーバは出荷済みである。IPF向けのチップセット「XA-64」については、概要しか明らかになっていないが、4ウェイから16ウェイに対応したものとなるようだ。IBMによれば、Intel Xeon向けとIPF向けのチップセットは、設計の約80%が同じであるということから、XA-32とほぼ同等の機能を持つものとなるだろう。

 IBMは、現在のところIPFをeserver xSeries(IAサーバのラインアップ)の最上位モデルと位置付けている。これを、POWER4を搭載するpSeries(UNIXサーバ)やエンタープライズ・サーバ(メインフレーム)のzSeriesまで広げていくのかは不明だ。UNIXサーバとメインフレームについては、日立製作所と提携して共同開発を開始したことから、IBMは今後ともIPFをIAサーバの上位モデルとしてしか見ていないのかもしれない。

■ラインアップは豊富だが、戦略が見えない日立製作所
 日立製作所も8ウェイ対応の独自チップセット「CF-2(ColdFusion-2)」を開発、Itanium 2搭載サーバの販売を開始した(日立製作所の「HA8500シリーズの販売開始について」)。こうした姿勢を見ると、IPFに対して積極的な印象を受ける。しかし、HPからRISC/UNIXサーバのOEM供給を受けたうえで、UNIXサーバとメインフレームをIBMと共同開発するなど、バックエンド・サーバ(エンターブライズ・サーバ)戦略をどのように展開していくつもりなのかが明確でない。IPFについても、製品ラインアップを拡充する以上にどのような意義があるのかは不明だ。

 IPFが加わったことで、日立製作所はバックエンド・サーバとして、以下のような多様なラインアップとなっている。

  • Itanium 2搭載の「HA8500シリーズ」
  • POWER4搭載のUNIXサーバ「EP8000」
  • HPからのOEM供給で販売するPA-RISC搭載の「9000Vシリーズ」
  • PA-RISC搭載で独自UNIX「HI-UX/WE2」を採用する「3000ファミリー」
  • メインフレームの「APシリーズ」と「MPシリーズ」

 これらのサーバ製品をすべてサポートし続けていくのは、コストやリソースを考えても現実的ではない。今後、これらをどのように整理統合していくかが、日立製作所の課題となるだろう。特にIPFをどのように位置付けるのか、気になるところだ。

■様子見を決めたDell Computer
 Dell Computerは、Itanium 2搭載サーバの投入をしばらく見送ることにしたようだ。Dell Computerは、Itanium 2搭載サーバの発表を見送った理由として大きく以下の2点を挙げている。

  • 現行のItanium搭載サーバの販売実績からItanium 2の出荷台数が未知数であること
  • 64bit版Windows Serverがリミテッド・エディションであり、サポート面での不安があること

 Itanium搭載サーバの「PowerEdge 7150」は、学校や研究所などへの導入実績はあるものの、一般企業への導入は進んでいないという。そのため、他社の動向を見たうえで、Itanium 2搭載サーバの導入を決めたいということのようだ。

 また、64bit版Windows Serverが未だに「リミテッド・エディション」というサポートが限定的な状態であるのも理由としては大きい(Microsoftの「Windows Advanced Server, Limited Edition Version 1.2の出荷について」)。製品版となる64bit版Windows .NET ServerならびにWindows XPは2003年にならないと出荷されない。

 この問題について日本HPは、Itanium 2搭載サーバのOSとして、HP-UX 11iをメインに据えており、Windows Serverについては「サポート可能」というレベルでしかない(Linuxについては、顧客の要望に応じるためにサポートを行うとしている)。これは、日本電気もほぼ同様の対応である。HP-UX 11i上には、すでに多くのアプリケーションがあり、IPFへも容易に移植が行えるという。そのうえPA-RISCで築いてきたマーケットもある。

大きな画面へ
64bit版Windowsの取り組み
64bit版Windowsの開発過程。プレゼンテーションでは、残念ながら正式版の出荷日については明らかにされなかった。

 一方、HP-UXのライセンスを持たないDell Computerの場合、LinuxもしくはWindows ServerのどちらかをメインのOSに据えることになる。しかし、現在のところどちらのOS上にもめぼしいアプリケーションがない(Oracle9iはベータ版)。そのうえ、64bit版Windows Serverの正式リリースが2003年となれば、急いで製品を投入する必要はないという判断は間違いではないだろう。

 HPや日本電気が、早々と市場にItanium 2搭載サーバを投入することで先行者利益を確保する一方で、Dell Computerは市場が形成された時点で早期に参入し、得意の価格戦略によって市場を確保しようという思惑のようだ。

IPFのエコシステムに対する不安

 このように現在のところIPFをサポートするのは、RISC/UNIXサーバを販売する垂直統合型ソリューションのサーバ・ベンダである。特にIPFに積極的な姿勢を見せるHPは、これまでのRISCプロセッサの代替としてIPFを見ており、垂直統合ソリューションに位置付けている。それでも確かにRISCプロセッサを置き換えることで、IPFは一定の成功を収めることは可能だ。しかし、それではIntelが思うエコシステムは実現できず、IPFシステムが安価にだれでも購入できるものとはならない。

 「水平分業型マーケット・モデルによる、垂直統合型ソリューションへの導入を推進する」という目標は、Dell ComputerなどのPCサーバ・ベンダが参入でき、システム・インテグレータがハードウェアをいろいろなサーバ・ベンダから選択できる市場が生まれることで達成される。そのためには、PCサーバ・ベンダが得意とするWindows Serverの製品版出荷は必須となる。Microsoftの公約が守られるのならば、64bit版のWindows .NET Serverは2003年前半に正式出荷される。Itanium 2の水平分業型マーケット・モデルによる本格的な市場投入は、実は64bit版のWindows .NET Serverの出荷日以降になるのかもしれない。記事の終わり

  関連リンク 
Itanium 2搭載サーバの発表に関するニュースリリース
Intelとのサーバ製品事業における提携について
Itanium 2のサポートについて英語
HA8500シリーズの販売開始について
Windows Advanced Server, Limited Edition Version 1.2の出荷について英語
 

 INDEX
  Itanium 2はバックエンド・サーバ市場を切り崩せるか?
    1.エコシステムの構築がIPF成功のカギ?
  2.各ベンダの思惑とIntelの期待
 
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