解説

動き出した富士通のIA/Linuxサーバ戦略
――各社のハイエンド・サーバ戦略を整理する――

デジタルアドバンテージ
2003/01/25

解説タイトル


 

Intelのマイク・フィスター上席副社長と富士通の杉田忠晴副社長
今回の発表のために来日したIntelの上席副社長 兼 エンタープライズ・プラットフォーム事業本部長のマイク・フィスター(Mike Fister)氏(左)と富士通の代表取締役副社長 兼 CTOの杉田忠晴氏(右)。

 2003年1月24日、富士通とIntelは「ミッションクリティカル領域向けのIAサーバを共同開発する」と発表した。今回の協業では、IntelがIntel XeonXeon MPItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)の供給ならびにPCI Expressやコンパイラ、開発ツールなどの提供を行い、富士通がメインフレーム・クラスのミッションクリティカル領域向けのサーバを開発するというもの。富士通がIPF搭載サーバの開発に対してコミットしたのはこれが初めてのことになる。これで、Sun Microsystemsを除くハイエンド・サーバ・ベンダがすべてIPFの採用を決めたことになる。富士通が開発を行うサーバは、Windows Serverにも対応するが、主にLinuxをメインのOSと考えているようだ。ここでは、今回の協業の意味ならびにサーバ・ベンダ各社のIPF対応について整理しよう。

ミッションクリティカル領域向けLinuxサーバ市場でシェア30%を目標

 富士通は、2002年10月23日に大規模基幹システムに積極的にLinuxを採用していくことを表明している(富士通の「Linuxによる事業展開について」)。この発表で富士通は、以下のような取り組みを行うことを表明していた(一部抜粋)。

  • ディストリビュータと連携したアプリケーションの互換性保証、長期サポートの実現
  • オープン・ソース・コミュニティへの貢献/協調によるLinuxの改善/強化
  • ミドルウェア、パッケージ・ソフトウェアのLinux対応
  • オープン・ソース・ソフトウェアを含むシステムをサポートする体制の確立
  • Linuxシステムの拡張性/信頼性を向上するハードウェア・プラットフォームの提供

 今回のIntelとの協業は、この取り組みの一環といえるもので、2004年末にIntel Xeon/Xeon MP搭載サーバ、2005年末にIPF搭載サーバを開発・提供するという。富士通が独自にチップセットを開発し、自律制御やパーティショニング技術などが採用される予定だ。最大128プロセッサまで拡張可能という大規模なシステムになる。

大きな画面へ
Intelと富士通の協業内容
IAサーバのベース技術をIntelが富士通に供給し、富士通がサーバの開発を行うというもの。ミッションクリティカル領域での富士通のノウハウが活かせるという。

 富士通では、Linuxサーバ市場を成長分野であると見ており、2006年には7800億円規模(IDC予測)になるとしている。このうちミッションクリティカル領域では3000億円規模で、その金額シェア30%(1000億円)が富士通の目標であるとした。

IAサーバへのプラットフォーム統合が将来像?

 気になるのは富士通のほかのプラットフォームとの競合だ。すでにミッションクリティカル領域向けとしては、メインフレームの「GSシリーズ」、SPARC/Solaris採用の「PRIMEPOWER」を提供している。こうした疑問に対し富士通では、今回発表のLinux/IAサーバを第3の高性能サーバ製品群と位置付け、「幅広い顧客に対して最適なプラットフォームが提供できる」としている。現在プラットフォームを提供しているメインフレーム、SPARC/Solaris、Windows Serverの開発・提供は引き続き行い、既存の顧客が持つソフトウェア資産などを守っていくとも述べた。

 こう聞くと全方位的な戦略と思えるが、むしろ今回のIntelとの協業によってIA/Linuxサーバへと軸足が大きく移ったと見るべきだろう。日本では、ハイエンド・サーバ市場におけるメインフレームの比率は相変わらず高いものの、世界的な潮流では縮小傾向にある。Windows ServerやLinux向けに多くの基幹業務向けパッケージ・ソフトウェアが提供され始めており、こうしたパッケージを利用してメインフレームをIAサーバに置き換える企業も増えてきている。一方で新規にメンフレームを導入するようなところはほとんどないので、メインフレーム市場は縮小傾向にある。

 もう一方のプラットフォームであるSPARC/Solarisサーバについても、先行きは不透明だ。富士通は、Sun Microsystemsとともに、SPARC/Solarisサーバを推進しているが、肝心のSun Microsystemsが「IPFへの移行を検討」というウワサが絶えない。SPARC/Solarisは、ハイエンド・サーバ市場にオープン・システムの先駆けとして参入したこと、性能や機能面でほかのプラットフォームよりも優位であったことなどから、多くのソフトウェア資産と顧客を獲得した。しかし、その立場もIAサーバに追い越されつつある。

 さらにHewlett-Packard(HP)が独自のRISCプロセッサであるPA-RISCから、IPFへの移行を決めたことでも明らかなように、もはやハイエンド・サーバ向けプロセッサを自力で開発するのは開発リソースと資金の両面で難しくなってきている。UltraSPARCの性能向上のペースが、IPFに比べてもゆっくりなことがそれを証明している。このままのペースであれば、遅かれ早かれUltraSPARCがIPFに対して性能的な魅力を失ってしまうだろう。うがった見方かもしれないが、富士通がLinuxに軸足を置くのは、同じUNIX系OSとしてSolarisからの移行が容易であることと関係があるのかもしれない。

 こうしたハイエンド・サーバを取り巻く環境が、富士通をIA/Linuxサーバへと走らせているのではないだろうか。つまり全方位戦略というよりも、各プラットフォームをIAサーバに集約し、ハイエンド・サーバ向けOSとしてLinuxを、それ以外をWindows Serverでそれぞれカバーするというのが富士通の将来像のように思えてくる。そう見ると、2005年を目標にHPがプラットフォームをIAサーバに統合する、という戦略とダブって見えるのだ。

サーバ・ベンダのハイエンド・サーバ戦略

 ここで主なサーバ・ベンダのハイエンド・サーバ分野での動きを整理しておこう。

■IPFへのプラットフォーム統合を目指すHP
 HPは、2005年を目標に同社のRISCプラットフォームをすべてIPF搭載サーバへと移行させると発表している。HPはCompaqと合併したことで、サポートするサーバ・プロセッサがIA-32、IPF、Alpha(Alpha Server)、MIPS(NonStopサーバ)、PA-RISC(hp superdome/hp server rp)と5種類に広がってしまった。MIPSは、プロセッサの開発を行っているMIPS Technologiesが、どちらかというと組み込み向けにシフトし始めており、NonStopサーバの性能を継続して保証することが難しくなってきている。自社開発のAlphaとPA-RISCは、前述のようにもはや開発リソースと資金の両面で維持するのが難しくなっているのが現状だ。これは統合先をAlphaやPA-RISCとせずに、IPFを選択したことでも明らかである。

 OSは、富士通がLinuxを主体としているのに対し、HPではhp-ux、Linux、NonStop Kernel、Windows Serverをサポートするとしている。ミッションクリティカル領域では、いまのところhp-uxに力を入れているようだが、将来的にはLinuxに統合ということもあるだろう。現在のところOSについては、市場の動向を見ながら対応を決める、というのがHPのスタンスのようだ。

■Dell Computerはいつハイエンド・サーバ市場へ進出するのか?
 いまやサーバ・ベンダとして第4位の売上高を誇るDell Computerは、クライアントPCからIAサーバ、ストレージと製品ラインアップを増やしてきた。ハイエンド・サーバについては、一時Unisysと提携し、ES7000シリーズの販売にチャレンジしたが、ソフトウェア・ソリューションを持たないDell Computerではうまくいかなかったようだ。結局、現在はハイエンド・サーバへの参入を保留している。IPF+Windows Server/Linux市場が盛り上がり、現在のIAサーバと同様、パッケージ・ソフトウェアが充実すれば、ハードウェア供給先としてのDell Computerの強みが生かせるだろう。逆にそういう市場にならなければ、自社でソフトウェア開発からサポート、運用サポートまで行うIBMや富士通、NECなどと、Dell Computerが対等に勝負するのは難しい。そのため、Dell Computerは当面ハイエンド・サーバ市場への本格的な参入は行わないだろう。

■Linuxは重視するもののハードウェアは問わないIBM
 IBMの場合、HPと逆にOS側を統合する戦略を採用している。ハードウェア・プラットフォームとしては、メインフレーム、POWER4搭載サーバ、IPF搭載サーバ、IA-32搭載サーバと多いが、すべてでLinuxのサポートを表明している。Linux以外では、Windows ServerやAIX(独自のUNIX系OS)もサポートしているものの、これらは対象とするプロットフォームが限られている。つまり、ハードウェアの種類は多くても、OSをLinuxで統一することで、プラットフォームを統合しようという戦略のようだ。

 また、ミッションクリティカル領域向けとしては、どちらかというとPOWER4を重視する傾向にある。Itanium 2搭載サーバの投入が遅れているのも気になるところだ。ハイエンド・サーバ市場では、IBMは大きなシェアを持っているだけに、今後の対応に注目したい。

■HPとの協業がポイントとなるNEC
 現在、IPF搭載サーバの開発に最も積極的なのはNECだろう。NECは、メインフレーム(ACOSシリーズ)、MIPS(UP4800シリーズ)、PA-RISC(NX7000シリーズ)、SPARC(CX5000シリーズ)、IA-32、IPFをサポートしており、まるでサーバのデパート状態といった感じだ。このうちNX7000シリーズはHPから、CX5000シリーズはSun MicrosystemsからOEM供給を受けている。HPとはSI事業やアウトソーシング事業で協業を行っており、綿密な関係にある。NX7000シリーズもその一環としてNECのサーバ・ラインアップを補完するものとしてOEM供給を受けているようだ。一方のCX5000シリーズについては、1年以上もニュースリリースが出ていないほどなので、それほど力は入れていないと思われる。またHPの項で述べたように、MIPSに将来性はあまりなく、メインフレームについても同様であることから、NECではこれらをIPFへと統合することを検討しているようだ。

 NECの場合、戦略的なパートナーでもあるHPに大きく影響を受けることになるだろう。その中で、どのような独自性を打ち出すのかが、ハイエンド・サーバ市場での課題になるのかもしれない。特に積極的に開発を行っているIPF搭載サーバでは、HPと製品ラインアップが重なることになる。この点をどのように処理するのかが1つのポイントとなるだろう。

■IBMとHPを天秤にかける(?)日立製作所
 日立製作所は、IBMとHPの両社からハイエンド・サーバのOEM供給を受けており、POWER4搭載サーバでは独自開発も行っている。また、IPF搭載サーバも自社で開発しており、正直、どういう戦略を持っているのか分かりにくい。ただHPがIPFに統合することで、日立製作所のハイエンド・サーバも自然とPOWER4とIPFの2本立てに向かうと思われる。ただ、他社がハードウェアもしくはOSで、プラットフォームの統合を目指す中、日立製作所はPOWER4とIPFをどのように位置付けるのか気になるところだ。POWER4とIPFを串刺しにしてサポートするには、Linuxの採用が分かりやすいのだが。今回、富士通がIA/Linuxに大きく舵を切ったことから、日立製作所も何らかの動きを見せるかもしれない。

 富士通がIA/Linuxサーバへと動き始めたことで、ミッションクリティカル領域への参入を目指すMicrosoftの戦略にも大きく影響を与えることになるだろう。今回開発するサーバは、Windows Serverのサポートも行うとしているが、Linuxへのコミットメントと比べるとややおざなりな感じもする。ユーザーにとっては、この市場でLinuxとWindows Server、そのほかのUNIXという競争が起きることで、優れたソリューションが安価で提供されることに期待したい。記事の終わり

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