解説IDF Spring 2006レポート性能と消費電力のバランスを重視したIntelの新マイクロアーキテクチャ2. 明らかになってきた次世代プラットフォーム元麻布春男2006/03/29 |
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Intel Coreマイクロアーキテクチャのプロセッサが真っ先に投入されるのは、デスクトップPCの分野だ。すでにConroeという開発コード名が明らかにされているが、製品としてのブランドはIntel Core(Duo)が使われる可能性が高い。Conroeに続いて、デュアルプロセッサ対応サーバ/ワークステーション向けのWoodcrest(ブランド名としてはIntel Xeonになると思われる)、そしてモバイルPC向けのMerom(Intel Core Duo)が登場する見込みだ(デスクトップとモバイルの識別はプロセッサ・ナンバーの先頭に付けられるアルファベットで行われる可能性が高い)。
Intel Coreマイクロアーキテクチャをベースとした製品のロードマップ |
図中の黄色の開発コード名がIntel Coreマイクロアーキテクチャ採用の製品となる。まずデスクトップPC向けにIntel Coreマイクロアークテクチャ採用のプロセッサが投入されることになる。 |
このConroeに対応したプラットフォームだが、企業向けは「Averill(開発コード名:アベリル)」、コンシューマ向けは「Bridge Creek(開発コード名:ブリッジ・クリーク)」というプラットフォームが提供される見込みだ。いずれもチップセットにBroadwaterチップセット(Intel 965チップセット)を用いることでは共通しているが、プロセッサ・ナンバーやチップセットの正式名称も含めて、これまで以上に差別化される見込みだ。例えば、Averillプラットフォームに用いられるプロセッサはConroe E6000、チップセットはIntel Q965チップセットとされている。E6000のEがEnterpriseの略であるのはほぼ確実だと思われる。Q965チップセットのQが何を指しているのかは不明だが、ビジネス・クライアント向けのチップセットがIntel Q965で、コンシューマ向けはIntel G965(グラフィックスス機能内蔵タイプ)あるいはIntel P965(外付けグラフィックス)と呼ばれるらしい。
「らしい」と書いたのは、今回のIDFでコンシューマ向けプラットフォームに関するアップデートがほとんどなかったからだ。1月に開催された2006 International CESで情報公開したからか、HD DVDなど次世代技術にまだ不確定要素が含まれるからか、コンシューマ向けプラットフォームの露出は極めて限られていた。プレス向けのブリーフィングやTech Insightsも、Digital Home関連のものはなく、Digital Home事業部のドン・マクドナルド(Don MacDonald)事業部長のキーノートも新味に乏しかった。テクニカルセッションも、PC版HDMIとでもいうべきUDI(Universal Display Interface)やコンテンツ保護など、プラットフォームの周辺技術が中心となっていた印象である。ただ、2007年始めにクライアントPC向けに提供されるクワッドコア・プロセッサ(開発コード名:Kentsfield)は、ハイエンド・コンシューマ向けという位置付けのようだ。
それに対して企業向けクライアントについては、詳細なロードマップの提示が行われた。現在使われているのは、Pentium 4プロセッサにIntel 945Gチップセットを組み合わせたLyndonプラットフォームだが、Conroeプロセッサの導入と同時にAverillプラットフォームの導入が行われる。Averillプラットフォームは、既存のNetBurstマイクロアーキテクチャのプロセッサとIntel Q963チップセット(Broadwaterの廉価版だと思われる)を組み合わせ、基本的な管理機能しか持たない「Averill Fundamental」と、上述のConroe E6000シリーズにIntel Q965チップセットを組み合わせ、高度な管理機能をサポートした「Averill Professional」の2つで構成される。本命は、やはりフル機能を備えたProfessionalだろう。
Averill Professionalでは、現在のLyndonで提供されているiAMTがバージョン 2へと上がる。これまでネットワーク・チップで処理されていた管理機能が、プロセッサやメイン・メモリに移され、機能拡張が容易になる。例えば、クライアント側の管理エージェントをユーザーが削除した場合、iAMT 2.0では管理側からエージェント・ソフトウェアをプッシュできるようになる。
このiAMTによる管理機能は、VT(仮想化技術)を組み合わせることで、さらに強化される。ユーザーOSが実行されているバック・グラウンドで、ユーザーに見えない形で管理OS(Windows CEが考えられている)を実行し、コンピュータ・ウイルスやスパイウェアなどによる不正なパケットを監視することも可能になる。将来的にはLT(LaGrande Technology)を併用し、データをセキュアに取り扱う機能も追加される見込みだ。こうした企業向けクライアントを想定し、管理機能とセキュリティ機能を強化した利用形態を、IntelはEmbedded ITと呼んでいる。
サーバ・プラットフォーム
2006年におけるIntelのサーバ・プラットフォームで、最初に訪れる大きな更新は、Dempsey(デンプシー)プロセッサの投入と、それに伴うBensley(ベンスレイ)プラットフォームの提供だ。第2四半期に登場するDempseyは、1つのパッケージにシングルコアのダイを2個同梱したデュアルコア・プロセッサで、NetBurstマイクロアーキテクチャに基づく。
Dempseyプロセッサの概要 |
図のようにDempseyプロセッサは、シングルコアのダイをパッケージに2個同梱した形態を採用する。既存のNetBurstマイクロアーキテクチャを採用しており、Intel Coreマイクロアーキテクチャへの「つなぎ」的なプロセッサである。 |
Intelの急速なIntel Coreマイクロアーキテクチャへのシフトにより、影が薄くなってしまった感は否めないが、1066MHzのFSB、3.73GHzの動作クロックと、これまでのプロセッサで最高の性能を目指したものだ。その分、消費電力も大きく、TDPは130Wに達する。また、このDempseyからFC-LGA6という新しいパッケージが採用され、ピンがプロセッサ側でなく、ソケット側に設けられるようになる(ソケットの名称はLGA 771で、デスクトップ版より4本ピンが少ない)。
Dempsey | Woodcrest | |
TDP | 130W以下 | 80W以下 |
ソケット | LGA 771 | LGA 771 |
プラットフォーム | Bensley/Glidewell | Bensley/Glidewell |
マルチスレッディング | デュアルコア/ソケット当たり4スレッド | デュアルコア/ソケット当たり2スレッド |
製造プロセス | 65nm | 65nm |
2次キャッシュ | 4Mbytes(分離)/コア当たり2Mbytes | 4Mbytes(共有) |
FSB | 667MHz/1066MHz | 1333MHz |
低消費電力版 | Dempsey MV、95W以下 | Woodcrest LV、40W以下 |
DempseyとWoodCrestの比較 |
DempseyでデビューするBensleyプラットフォームは、Blackford(ブラックフォード)チップセットを中核としたものとなる。メモリとしてFB-DIMMに対応すること、2本のプロセッサ・バスにそれぞれ1個の物理プロセッサを接続するDIB(Dual Independent Bus)構成を採用するのが特徴だ。ソフトウェア的にはI/OAT(Intel I/O Acceleration Technology)とVTへの対応が目玉となる。I/OATは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせ最適化することで、ギガビット・イーサネット利用時のCPU占有率を、41%から17%に引き下げられるという。
Bensleyプラットフォームの概要 |
Bensleyプラットフォームは次世代のサーバ・プラットフォームとして、2006年第2四半期にリリースされる予定だ。FB-DIMMの採用により、メモリ帯域が大幅に広がるのが特徴である。 |
Bensleyプラットフォームは、Dempsey、Woodcrest、さらにクワッドコアのClovertownと3世代に渡って利用される見込みだ。WoodcrestではFSBが1333MHzへと引き上げられるが、最初からこれを見越した設計になっているものと思われる(2つのダイを封入するClovertownではFSBは1066MHzへと引き下げられる見込み)。2つのダイを用いることで、シングル・ダイの2倍のコアを持つプロセッサを製造できることは、FSB方式のメリットと考えられなくもないが、ソフトウェアのライセンスがソケット単位になりつつあることを考えれば、経済的なメリットも大きい。
一方、マルチプロセッサ対応サーバのプラットフォームは、現在使われているTruland(トゥルーランド)が継続される。Trulandプラットフォーム向けに2006年後半に投入されるTulsa(タルサ)は、16Mbytesの3次キャッシュをサポートしたNetBurstマイクロアーキテクチャのプロセッサだ。マルチプロセッサ対応サーバ向けにIntel Coreマイクロアーキテクチャのプロセッサが投入されるのは、2007年前半のTigerton(タイガートン)からで、ここからClarksboro(クラークスボロ)チップセットを用いたCaneland(カネランド)プラットフォームへと切り替わる。Caneland/Clarksboroについては、まだ詳細は明らかにされていないが、FB-DIMMへの対応が行われるのは間違いないだろう。
冒頭でも述べたようにTigertonは、デュアルプロセッサ対応サーバ向けのプロセッサを転用した、急場しのぎの雰囲気が強い。この後のプロセッサについてIntelは具体的な発表を行っていないが、方向性としてはプロセッサコアと周辺(大容量の共有キャッシュ、バス・インターフェイスなど)を分離し、ダイ上で一種のネットワークを構築するアーキテクチャを公表している。プロセッサコア以外の周辺ロジックをUncore(非コア)と呼んでおり、それにちなんでUncoreアーキテクチャとも呼ばれる。将来的には、このUncoreアーキテクチャに、Next Generation Interconnectが組み合わされるのだろう。
64bit対応が行われるモバイル・プラットフォーム
モバイル向けとして初のIntel CoreマイクロアーキテクチャのプロセッサとなるMeromのデビューは、Conroeより1カ月ほど後だとされている。エネルギー効率に優れたYonahをかかえるだけに、デスクトップやサーバほどIntel Coreマイクロアーキテクチャの投入を急ぐ必要はないものの、MeromはIntelのモバイル・プラットフォームにとって初のEM64T対応プロセッサであり、Windows Vistaの登場と合わせ、64bitの普及に弾みがつくものと期待される。
Meromのプラットフォームは、当初は現行のNapa(ナパ)を継承することになっている。プラットフォームを継承するということは、ソケットやTDPについてもMeromはYonahと互換性を持つということを意味する(479ピンのFCBGA6/FCPGA6パッケージ)。
新しいプラットフォームとなるSanta Rosa(サンタ・ローザ)は2007年を予定している。Santa Rosaでは無線LANのIntel 802.11n対応が行われるほか、グラフィックス性能および機能が改善(DirectX 10対応)される。また、無線LANおよび有線LAN(ギガビット・イーサネット)ともにiAMTが取り入れられる。無線LAN向けにiAMTが拡張されることで、iAMTのバージョンも2.5となる。
このSanta Rosaのオプションとして提供されることになりそうなのが、「Robson(ロブソン)テクノロジー」だ。Robsonは、PCI Expressバス上に、NANDフラッシュメモリによるディスク・キャッシュを置こうというもので、システムの起動やアプリケーション起動の高速化、ハードディスクの信頼性向上、不揮発メモリの利用によるデータ・ロスの削減、といったメリットがうたわれている。IntelはMicronと共同でNANDフラッシュメモリ市場に参入したばかりだ。NANDフラッシュメモリのインターフェイスを統一化する構想(ONFI)も含め、注目されるところだ。
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2006年後半は、新しいマイクロアーキテクチャである「Intel Coreマイクロアーキテクチャ」の投入により、クライアントとサーバの両方で製品ライアンアップに大きな変更が生じる。新しいプロセッサの方が、コストパフォーマンスが高くなることは明らかなので、クライアント/サーバの導入を検討している場合は、新製品のリリース予定に注意した方がよいだろう。
INDEX | ||
[解説]IDF Spring 2006レポート | ||
性能と消費電力のバランスを重視したIntelの新マイクロアーキテクチャ | ||
1.モバイルからサーバまでに採用されるIntel Coreマイクロアーキテクチャの概要 | ||
2.明らかになってきた次世代プラットフォーム | ||
「System Insiderの解説」 |
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