解説このPCではWindows Vistaが動かない? 元麻布春男2006/07/01 |
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2006年3月にMicrosoftが発表した出荷時期に変更がないのであれば、あと半年ほどでWindows Vistaの一般出荷が始まることになる(マイクロソフトのニュースリリース「マイクロソフト、Windows Vistaのロードマップを更新」)。2006年度後半のPC導入計画を策定するに当たり、Windows Vistaが要求するハードウェア・スペックは気になるところだ。そこで、ここではマイクロソフトのWebサイトに公開されているWindows Vistaの要求する仕様について解説することにする。
Windows Vistaの最低システム要件は意外と低い
Windows Vistaは、2001年にリリースされたWindows XP以来となるWindows OSのメジャー・バージョンアップ製品だ。およそ5年ぶりにリリースされるVistaは、新しいユーザー・インターフェイス(Windows Aero)と新しい標準プログラミング・インターフェイス(WinFX)*1が採用され、さらにはセキュリティの強化も図られる。Microsoftは、Windows Vistaを今後10年の基盤と呼んでおり、非常に重要なバージョンアップであることは間違いない。このWindows Vistaを利用するために必要となるハードウェア構成は、いったいどのようなものだろうか。
*1 2006年6月、マイクロソフトは、それまで使用していたWinFXという名称の使用をやめ、Windows Vistaが提供するアプリケーション・インターフェイス全体を指して“.NET Framework 3.0”と呼ぶことを発表した(マイクロソフト「WinFX から .NET Framework 3.0 への名前変更について」)。 |
Windows Vistaを利用する最低システム要件は、マイクロソフトのWebサイトで公開されている(「サポートされている最低システム要件」)。これによれば、800MHz以上のプロセッサ、512Mbytesのメモリ、SVGA(800×600ドット)以上のグラフィックス機能(GPU)、20Gbytes以上のハードディスク(空き領域15Gbytes以上)、CD-ROMドライブと、いたって慎ましい。最初にWindows XPがリリースされた2001年秋の時点において、すでにPentium 4がリリースされていたことを考えると、Windows XPをプレインストールして出荷されたPCであれば、プロセッサやグラフィックス機能が障害となってWindows Vistaが導入できないというのは考えにくい。
Windows Vista | Windows XP Professional | |
プロセッサ | 動作クロック800MHzの32bit(x86)/64bit(x64) | 動作クロック300MHzの32bit(x86) |
メイン・メモリ | 512Mbytes | 128Mbytes |
GPU | SVGA(800×600ドット) | SVGA(800×600ドット) |
グラフィック・メモリ | − | − |
ハードディスク | 20Gbytes(空き容量:15Gbytes) | 2.1Gbytes以上 |
光ディスク装置 | CD-ROMドライブ | CD-ROMドライブまたはDVD-ROMドライブ |
オーディオ | − | − |
インターネット | − | − |
Windows VistaとWindows XP Professionalの最低システム要件 |
強いていえば、Windows XPがリリースされた当時のPCの場合、メモリ搭載量が128M〜256Mbytes程度であり、その後増設していないとすれば、Windows Vistaの導入が難しいことも考えられる。この場合、当時のPCに使われているメモリ(RDRAMあるいはPC133 SDRAM)をこれから買い足すというのは、価格の点(メインストリームではないメモリはかえって割高になる)でも、将来への投資という点でも、望ましいことではない。
またこの要件はあくまでも「最低システム要件」であり、快適に利用できることを保証するものではない。実際、上表のようにWindows XP Professionalの最低システム要件ではプロセッサの動作クロック300MHzと、快適に利用できるものとは程遠くなっている。このことからWindows Vistaにおいても、快適に利用するには最新とまではいかなくとも、それなりの性能のプロセッサが必要になると思われる。
なおマイクロソフトは、Windows Vistaのアップグレードを保証する「Windows Vista Capable PC」プログラムを展開している。Windows Vistaにアップグレード可能なことが保証されたPC(Windows XP)には、「Windows Vista Capable PC」のロゴ・シールが貼られる。ただし、たとえロゴ・シールが貼られていたとしても、Windows Vistaに無償アップグレードできるわけではなく、快適に利用できることを保証するものでもないことに注意したい。
Windows Aeroの敷居は高い
上述のとおり、上記のシステム要件は「Windows Vistaのすべての機能を快適に利用できることを保証するものではない」く、あくまでも「最低(ミニマム)」であるということだ。特に、Windows Vistaの顔とでもいうべき新ユーザー・インターフェイスのWindows Aeroは、ハードウェア負荷が高くなる。中でもグラフィックス機能に対する条件が厳しい。
Windows Aeroの画面 |
Windows Aeroの特徴は、半透明の窓枠と、半分だけ食い込んだメニュー・バーのアイコンにある。Windows Aeroを快適に利用するには、ビルドインのパフォーマンス評価ツールの評価が3点以上であることが望ましいとされている。普及しているIntel 945Gの内蔵グラフィックスでは3点を得ることは現時点で難しい。 |
Windows VistaのFlip3D機能 |
Windows Aeroならではの機能の1つがFlip3Dである。Windowsキー+Tabキーで呼び出すことができる。マウスのスクロール・ホイールでタスクの切り替えができるが、実用性はそれほど高くない。 |
Windows Aeroを利用するには、以下の5項目を満たす必要がある。
- ハードウェアによるPixel Shader 2.0サポート
- 1.6Gbytes/sを超えるグラフィックス・メモリ帯域
- WDDMドライバの供給
- 32bitカラー・モードの利用
- 適切なグラフィックス・メモリ容量
まず1番目の条件だが、Pixel Shaderというのは、DirectX 8.0で導入されたプログラマブル・シェーダのうち、Pixel処理を行うものを指す。そのバージョンが2.0であるということは、2世代目のPixel Shader、すなわちDirectX 9.0以降に対応したグラフィックス機能が必要であることを意味する。
プログラマブル・シェーダには、Pixel Shaderに加え、頂点(Vertex)処理をつかさどるVertex Shaderもあるが、こちらは要件には含まれていない。恐らく市場で最も高いシェアを持つIntelチップセットの内蔵グラフィックス機能が、ハードウェアによるVertex Shaderをサポートしておらず、CPUによるソフトウェア処理でサポートせざるを得ないからだろう。
Pixel Shader 2.0を要求することで、必然的にWindows Aeroを利用するにはDirectX 9.0クラスのGPUが必要、ということになる。これは外付けグラフィックス・チップであれば、NVIDIA製のGeForce FX 5800(2003年1月発表)以降あるいはATI Technologies製RADEON 9500/9700(2002年7月発表)以降を必要とすることを意味する。チップセット内蔵グラフィックスであれば、Intel製だとIntel 915G(2004年6月発表)以降ということになる。
さらに2番目の1.6Gbytes/sを超えるグラフィックス・メモリ帯域という条件も厳しい。無条件にAGP4x世代のチップセットを用いたシステムが除外される。AGP4xの帯域は1.06Gbytes/sにすぎないため、どのようなグラフィックス・カードを用いても、AGPがボトルネックとなって条件を満たすことができない。AGP8x以降に対応したチップセットとなると、Intel製の場合Intel 865/875(2003年5月発表)以降の製品ということになるが、この場合はグラフィックス・カードが必須となる。チップセット内蔵グラフィックスで1.6Gbytes/sec以上の帯域という条件を満足させるものをカタログ・データから割り出すのは困難(メイン・メモリをプロセッサとGPUで共有しているため)だが、事実上Intel 945(2005年5月発表)以降ということになるのではないかと思われる。この1.6Gbytes/sという値が、Intel 945Gシリーズの内蔵グラフィックスを前提に算出されたものだともいわれているからだ。
これらのハードウェアをサポートするグラフィックス・ドライバは、WDDMに準拠したものでなければならない。WDDMというのはWindows Display Driver Modelの略で、以前はVista Display Driver Modelと呼ばれていたものだ。いい換えればWindows XP用のグラフィックス・ドライバでは、Windows Aeroを利用することはできない(Windows XP用のグラフィックス・ドライバ自体をWindows Vistaで用いることは可能だが、この場合はWindows Aeroが利用できない)。現在、配布されているWindows Vista Beta 2にはWDDMに準拠したグラフィックス・ドライバが含まれているが、互換性やパフォーマンスの点で、まだ十分とはいえないのが実情だ。企業向けのリリース(2006年11月の予定)まで半年を切ってしまったが、この間のブラッシュアップが望まれる。
以上の条件を満たしたハードウェアであれば32bitカラー・モードをサポートしていないことはまず考えられないから、4番目の条件はほぼ無視してもよい。5番目の適切なグラフィックス・メモリ容量についてMicrosoftは、メモリ容量とサポート可能なディスプレイ解像度の関係を次の表のように説明している。
メモリ容量 | 解像度 |
〜64Mbytes | 1280×1024ドットまで |
〜128Mbytes | 1920×1200ドットまで |
〜256Mbytes | 1920×1200ドット以上 |
Windows Aeroを利用するためのグラフィックス・メモリの要件 |
これらはすべてシングル・ディスプレイ時のもので、デュアル・ディスプレイを利用する場合は、最低でも128Mbytes(解像度1280×1024ドット未満)、1280×1024ドット以上は256Mbytesのグラフィックス・メモリを搭載する必要がある。ただBeta 2のグラフィックス・ドライバから受ける印象では、これらの数字はあくまでも最低限であり、グラフィックス・メモリを余分に搭載した環境の方がWindows Aeroの使い勝手はよい。
このグラフィックス・メモリで気をつけなければならないのは、メイン・メモリを共有するチップセット内蔵グラフィックスの場合だ。冒頭で述べたように、Windows Vistaでは512Mbytesのメイン・メモリが必須とされる。Windows Aeroを利用しない場合は、この512Mbytesのメイン・メモリから最大64Mbytesをグラフィックスに割り当てることが認められているが、Windows Aeroを利用する場合は512Mbytesを切ることは許されない。つまりチップセット内蔵グラフィックスでWindows Aeroを利用するには、メイン・メモリは512Mbytesでは不足するということだ。
さらに注意すべきは、最近のIntelチップセットのメモリ帯域は、2本のメモリ・バスに同じ容量のDIMMを実装した場合に利用可能なデュアルチャネル・モードで最大になる(シングルチャネル・モードの2倍になる)という点だ。仮に768Mbytesのメモリを実装したシステムであっても、512Mbytes+256Mbytesといったアンバランスな構成だと、メモリ容量の条件はクリアできてもグラフィックス・メモリの帯域が不足する事態も考えられる。このことを意識してか、Microsoftはチップセット内蔵グラフィックスでWindows Aeroを利用する際には、メイン・メモリが1Gbytes必要、という説明をしている。この場合、最大256Mbytesをグラフィックス・メモリに割り当て可能となる。
Windows XPをWindows Vistaにアップグレードするには
以上のように、Windows Vistaを利用するためのハードウェア要求は、Windows Aeroさえ利用しなければそれほど高いものではない。グラフィックス・ハードウェアに投資してまでWindows Aeroを使う価値があるのか、という問いに答えるのは本稿の目的ではないが、グラフィックス・ドライバの開発が途上にある現状では、答えようにも答えられない、というのが正直なところだ。
ただ、Windows Aeroの要求仕様が非常に厳しいことを考えれば、既存のWindows XPシステムをWindows Aeroを利用したWindows Vistaシステムにアップグレードする、というのは現実味が薄いように感じる。Windows VistaはWindows XPから5年の歳月が経過したため、サポートするハードウェア間のギャップがどうしても大きくなってしまう。既存のシステムのアップグレード時はWindows Aeroを無効に、新規導入時はWindows Aeroの利用について評価を行う、というのが妥当なところではないだろうか。
関連リンク | |
マイクロソフト、Windows Vistaのロードマップを更新 | |
WinFX から .NET Framework 3.0 への名前変更について | |
サポートされている最低システム要件 |
「System Insiderの解説」 |
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