解説

ATI買収で動き出したAMDの新プロセッサ戦略

3. AMDのプラットフォームの未来図

元麻布春男
2006/09/01
解説タイトル

ATI買収によるAMDのプラットフォーム戦略

 逆に積極的な動きが見られるのは、プロセッサ以外の部分、プラットフォームに関するものだ。2006年6月に開かれたアナリストミーティングでAMDは、さまざまなプラットフォーム・イニシアティブを発表している。まず「4x4」だが、これは4つのプロセッサ・コアに4つのGPUを組み合わせるというものだ。ハイエンド・ゲーマー(エンスージャスト)向けのプラットフォームだ。

 デュアルコアのAMD Athlon 64 FXを2個搭載し、2個のGPUを搭載したグラフィックス・カードを2枚搭載することで4x4を実現する。AMD Athlon 64 FXのTDPが125W、グラフィックス・カード1枚100Wを超えるであろうことを考えると、これだけで500W近い電力を消費することになる。2006年内にIntelが投入するであろうデュアルダイによるクワッドコア・プロセッサに対抗する意図だと思われるが、市場規模は限られている。インターネット上での声の大きいハイエンド・ゲーマーに対するメッセージング的な側面が強い。

AMDの「4x4」を構成する要素
AMDの4x4は、主にハイエンド・ゲーマー向けで、ビジネス用途を考慮したものではない。AMD Athlon 64 FXを2個、GPUを2個搭載したグラフィックス・カードを2枚差すことで、高性能なゲーム・マシンを実現しようというものだ。4x4の意味は、デュアルコア・プロセッサを2個(4コア)と2個のGPUを搭載したグラフィックス・カード(4GPU)ということだ。

 Torrenza(トレンザ)は、プラットフォームに特定アプリケーションに対応したアクセラレータを加えることで、消費電力を抑えつつプラットフォームの性能を引き上げようというものだ。プラットフォームのどこにアクセラレータを配置するかは、コストや要求される性能などによって、さまざまなパターンが考えられる。PCI ExpressやHTX(HyperTransportの外部スロット規格)などの拡張スロットはもちろんのこと、チップセットやプロセッサにアクセラレータを内蔵することも想定されている。チップ内蔵の場合、オンダイもあれば、マルチチップ・パッケージ(MCP)も考えられる。

AMDが推進する新しいプラットフォーム「Torrenza」
プラットフォームに特定アプリケーションに対応したアクセラレータを追加することで、低消費電力と高性能を実現しようというもの。もちろん、コアに内蔵することも計画されている。ATI Technologiesの買収により、CPUコアにGPUの機能が統合されるものと見られている。

 ここで注目されたのは、アクセラレータをチップセットやプロセッサに内蔵する、という発想だ。従来、AMDはチップセットに関してはパートナーに任せる、という立場をとってきた。しかし、チップセットをサードパーティに任せておいて、チップセットの中にアクセラレータを内蔵させるイニシアティブをAMDが唱えるのは無理がある。また、プロセッサの中にアクセラレータを入れるにしても、AMDにグラフィックスやメディアに関連した技術の蓄積が豊富にあるわけではない。

 こうした疑問に答えるように、2006年7月にAMDはATI Technologiesの買収を発表した。ATI Technologiesを吸収することで、HyperTransport接続のGPU(Graphics Processing Unit)チップや、プロセッサ・パッケージに内蔵するグラフィックス・アクセラレータといったコンポーネントが提供可能になる。将来的にはプロセッサのダイ上にグラフィックス・アクセラレータを内蔵することもできるだろう。

 より短期的にはATI Technologiesの買収により、現在Intelに最も遅れをとっているモバイル・プラットフォームの向上が期待できる。すでにAMDのモバイルPC向けプロセッサは、消費電力や性能の点ではIntel製プロセッサに追いついている(低電圧あるいは超低電圧動作を除く)。しかし、どうしても差が縮まらないのは、プラットフォーム単位での消費電力、いい換えればバッテリ駆動時間だ。ATI Technologiesの買収は、従来のパートナーや、サードパーティのチップセット・ベンダとの間に摩擦を生むことが避けられないが、モバイル・プラットフォームの改善には貢献することだろう。

 このようにAMDの戦略が大きく動き出している。AMDとIntelの競争は、市場を活性化する一方、標準化という点ではユーザーに混乱を与える部分でもある。プロセッサ内にアクセラレータが内蔵されるようなことになれば、AMDとIntelのプロセッサ間の命令互換性も怪しくなりそうだ。今後とも両社の動きには注意が必要かもしれない。記事の終わり

 

 INDEX
  [解説]ATI買収で動き出したAMDの新プロセッサ戦略
    1.新プロセッサのRevision Fコアで何が変わったのか
    2.AMDのサーバ向けプロセッサの戦略
  3.AMDのプラットフォームの未来図
 
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