特集

無線LAN構築のABC
――基本から考える無線LAN構築講座――

デジタルアドバンテージ
2002/07/31


 ハードウェアの低価格化やノートPCへの標準搭載、公衆無線LANアクセス・サービス*1の開始などによって、急速に無線LAN、特にIEEE 802.11bの普及が進んでいる。企業においても、無線LANを導入することで、ネットワーク構築の経費を削減する動きも出てきている。有線のネットワークでは、クライアントPCが増えたり、オフィスのレイアウト変更などを行ったりすると、ケーブルの敷設のし直しが必要になり、意外と経費がかかってしまっていたからだ。無線LANでは、こうした場合でもケーブルの敷設がほとんど不要であり、簡単に無線LANクライアントの追加や設置場所の移動が行えるというメリットがある。

*1 飲食店や駅などの公衆エリアで無線LANを利用したインターネット・アクセス・サービスのことを、ここでは「公衆無線LANアクセス・サービス」と呼ぶ。従来は「ホットスポット・サービス」と呼ばれていたが、日本ではNTTコミュニケーションズが「ホットスポット」を独自の商標として登録、同社の公衆無線LANアクセス・サービスの名称として使っているため、本稿では便宜上「公衆無線LANアクセス・サービス」と表記している。

 その一方で、問題になっているのが、無線LANのセキュリティだ。無線LANは、当然ながら通信に無線を利用するため、いつ通信しているのか、あるいは誰がネットワークに接続しているのか、といった状態が目に見えないために余計に不安に感じる面もあるだろう。しかし、仕組みとしても留意しなければならない点がいくつかある。ここでは、そうした注意点を踏まえながら、企業内で無線LANを構築するためのポイントについて解説していこう。

どの無線LAN規格を採用するのか

 無線LANというと、現在のところIEEE 802.11bが一般的だが、最近では各ベンダから、より高速なIEEE 802.11a対応機器が販売され始めている。IEEE 802.11bとIEEE 802.11aの間には互換性がなく、直接の相互通信はできないため、無線LANの構築を行う場合、現時点では、まずどちらの規格を採用すればよいのか検討する必要がある*2。さらに、2002年末から2003年にかけて、IEEE 802.11bと互換性を持ちながら、最大54Mbits/sのデータ転送速度を実現するIEEE 802.11gを採用した製品も登場しそうだ。ただ、IEEE 802.11gに関しては、PC向けチップセット最大手のIntelが「チップセットでサポートする予定はない」と明言していることから、IEEE 802.11bとIEEE 802.11aのどちらか(もしくは両方)が業界標準となっていくのは間違いないだろう。そこで、選択のポイントとなる、両規格のメリットとデメリットを簡単にいくつか挙げてみよう。

*2 IEEE 802.11bとIEEE 802.11aの両方に対応したアクセス・ポイントも登場し始めているが、これは両規格のアクセス・ポイントをそれぞれ設置するのと機能的には変わらない。何より、無線LANアダプタで両規格をサポートする単体の製品は、2002年7月の時点でまだ市販されていない。やはり現在のところは、どちらか一方の規格を主に使うことになる。
 
インテルのIEEE 802.11b対応アクセス・ポイント
企業向けのアクセス・ポイント「PRO/Wireless 2011B LANアクセス・ポイント」。電波の出力制限のほか、通信速度の設定なども行える。
インテルのIEEE 802.11a対応アクセス・ポイント
IEEE 802.11a対応のアクセス・ポイント「PRO/Wireless 5000 LANアクセス・ポイント」 。オプションでIEEE 802.11bとの両対応にもできる。

■IEEE 802.11bのメリット/デメリット
 IEEE 802.11bの最大のメリットは、すでに多くの機器が採用している点にある。現在、多くのノートPCに標準装備されている無線LANはIEEE 802.11bであり、公衆無線LANアクセス・サービスもIEEE 802.11bをベースとしている。このようにすでに普及が始まっていることから、IEEE 802.11b対応製品の方が、ほかの規格に比べて選択の幅が広く、安価である。

 一方、デメリットは、データ通信速度が11Mbits/s(実効通信速度で4M〜5Mbits/s)と、10BASE-Tイーサネットにすら大幅に劣るほど遅いことが挙げられる。メールの送受信やWebのブラウズ程度なら何とかなるが、サイズの大きなファイルを転送する場合などは、IEEE 802.11bの実効通信速度は力不足と感じられることもあるだろう(大量のファイル転送が発生する典型的な例としては、ハードディスクのバックアップが挙げられる)。また、IEEE 802.11bが利用する2.4GHz帯はBluetoothや電子レンジなども使っており、これらの機器と電波が干渉して通信速度がさらに低下するという問題もある。さらにスペインやフランスなどでは、2.4GHz帯のうちIEEE 802.11bで利用できる周波数帯域が狭く、複数のチャンネルを確保できない点も、国際的な標準化の流れの中ではデメリットとなるだろう。

■IEEE 802.11aのメリット/デメリット
 IEEE 802.11aの最大のメリットは、データ通信速度が54Mbits/s(実効で30M〜40Mbits/s)とIEEE 802.11bに比べて圧倒的に高速な点にある。また、米国、ヨーロッパともに、IEEE 802.11aが利用する5GHz帯は比較的空いており、電波の干渉が生じにくいのと多くのチャンネルが確保できるというメリットもある。

 一方、各国とも5GHz帯の屋外での利用を電波法で制限しており、IEEE 802.11aを公衆無線LANアクセス・サービスに使うのは難しい点はデメリットである(日本では、4.900G〜5.000GHzおよび5.030G〜5.091GHzを屋外で利用できるように検討中だが、ここは現在のIEEE 802.11aの規格外の周波数である)。また、IEEE 802.11bに比べて後発であるため、どうしてもIEEE 802.11bとの相互接続性の確保を要求される点も、IEEE 802.11bとの互換性を持たないIEEE 802.11aの普及にはマイナスとなるだろう(市場ではIEEE 802.11bにも対応することが望まれている)。対応機器の価格も、全般的にIEEE 802.11bよりも高価である。

■IEEE 802.11bとIEEE 802.11aのどちらを選ぶべきか
 このように両規格には一長一短があり、単純に決められるものではない。将来的には、アクセス・ポイントも無線LANアダプタもIEEE 802.11bとIEEE 802.11aの両対応になりそうだが、当面は無線LANアダプタに関してはどちらか一方の規格を選択する必要がある。

 クライアントPCのほとんどがノートPCで、普及しつつある公衆無線LANアクセス・サービスを利用するユーザーが多い、というオフィス環境であれば、現在のところはIEEE 802.11bを選択した方が無難だろう。一方、公衆無線LANアクセス・サービスの利用はなく、むしろオフィス内でのデータ通信速度を重視するのであれば、IEEE 802.11aということになる。もちろん、導入コストと管理の手間は増えるが、IEEE 802.11bとIEEE 802.11aの両方のアクセス・ポイントを置くことで、両方の無線LANアダプタが利用できるようにすることも可能だ。以下の解説では、現時点でユーザー数が多いIEEE 802.11bによる無線LAN構築を前提にする。

  関連記事
新世代高速無線LAN「IEEE 802.11a」の世界
第3回 ネットワークの自由度を高める「無線LANアクセス・ポイント」
 
 

 INDEX
[特集]無線LAN構築のABC
    1.アクセス・ポイントのチャンネル設定
    2.SSID設定のコツ
    3.無線LANで必須のセキュリティ設定
 
 「System Insiderの特集」


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