帳票ベンダ・インタビュー 第11回 韓国からの使者、 「まずは無料で帳票ツール提供」 吉田育代 2006/11/17 |
オープン環境の企業情報システムにおいて、帳票ニーズはいまどのような状況になっていて、それに対し帳票ベンダはどのようなソリューションを提供しているのか。帳票ベンダへの直接取材でその解を探るシリーズ。
第11回目の今回は、韓国にその出自を持ち、同国では圧倒的なシェアを誇るオズウェブテクノロジーを取り上げる。日本では、アプリケーション開発と帳票開発は別に進められることが多いのではないだろうか。大抵の場合、前者が一段落した後、「では帳票をどうしようか」となるのではないだろうか。しかし、この企業は“なぜ分ける必要があるのか”とその前提に疑問を呈し、アプリケーション開発ツールと帳票開発ツールをセットにしたスイート製品「OZXStudio」を2006年11月1日に発売開始し、日本市場に対して本格的な攻勢を掛けようとしている。
韓国帳票ニーズ |
オズウェブテクノロジーは、韓国での企業名称をフォーシーエス(FORCS)という。もともとは、コンピュータ・アソシエイツのシステム管理アプリケーション「Unicenter」のレポート開発を支援するところから出発した。
日本企業が帳票に対して独自のニーズを持つように、韓国企業の多くも外資系アプリケーションが標準で用意している帳票機能では満足できないようで、そのギャップを埋めていたのがフォーシーエスだったのだ。
オズウェブテクノロジー 取締役 金南甬氏「日本に来て3年目だが、ユーザーにとって有利なコンペが少ないのにはカルチャーショックを受けた」 |
やがて企業情報システムはWebアプリケーションが主流となる時代を迎え、フォーシーエスでも素早くこれに対応する。
そのうちにシステム管理という分野のみならず、Webアプリケーション上でのレポート作成や閲覧に企業の間で大きなニーズがあることに気付いた同社は汎用的な帳票開発ツールを開発、これを販売し始めた。それが「OZ Report Designer」だ。
ユーザーはこのツールで作られた電子帳票を「OZ Report Viewer」という独自のビューアで閲覧する。非常にグラフィカルで、Webアプリケーションでありながらまるでクライアント/サーバ型システムのような優れたGUIを提供したこの製品は、企業の帳票ニーズを満たすソリューションとして韓国市場に幅広く受け入れられた。
導入先にはサムソン、LG、ヒュンダイ、韓国電力、韓国政府、韓国銀行など大手企業、官公庁が名前を連ねており、そのマーケットシェアは50%とも60%ともいわれている。オズウェブテクノロジー 取締役 金南甬氏は「韓国での実績を自慢していいなら、1カ月でも話し続けられる(笑)」とジョークを飛ばす。2002年、フォーシーエスはこの製品の成功によって、韓国の株式市場であるKASDACに上場する。
やがて、こうした大手顧客から「OZ Report Designer」で作成した電子帳票に蓄積したデータの検索や分析も行えるアプリケーションもこの手法で作りたいという声が寄せられるようになり、同社はそれに後押しされる形で「OZ Application Designer」を発表した。日本でいうところのリッチクライアントを実現するアプリケーション開発ツールである。
去年までこれら2製品は別々に販売されてきたのが、企業におけるWebアプリケーションシステム実現の統合ソリューションとして、両者のサーバ機能を一本化、スイート製品化されることになった。韓国では2006年初頭から、日本市場では2006年11月1日から「OZ XStudio」という名称で発売を開始している。
帳票はWebアプリケーションと一緒に開発すれば効率がいい |
実は、金氏は「OZ XStudio」がリッチクライアント開発ツールと呼ばれることを好まない。韓国や米国では、表現力が低い現状のWeb環境に代わるテクノロジーに対して、Extended Internet、略してX-Internetという名称を与えている。
企業情報システムでクライアント/サーバ型システム並みのWebアプリケーションを構築しようとすると、サーバ側でパフォーマンスをコントロールしたり、セキュリティ管理をしたり、負荷分散機能を持つといったことが重要になる。
しかし、リッチクライアントではクライアントソフトウェアのみを対象にしているような印象があり、実態にそぐわないというのが同社の主張だ。製品名にXという文字が入っているのもそのためだ。
では、具体的に「OZ XStudio」を構成する製品群を紹介しよう。大きく3つのレイヤがある(図1)。
図1 OZ XStudioを構成する、開発者、管理者、ユーザ向けサービスの3つのレイヤ |
まず開発者のための製品として、前述の「OZ Report Designer」「OZ Application Designer」に加えて「OZ Query Designer」がラインアップされている。これはDB連携およびクエリー作成を手軽に実現させるためのクエリー作成ツールだ。
次に管理者のための製品として、「OZ Enterprise Manager」「OZ Repository Manager」がある。前者はサーバの運用状況のモニタリング、スケジューリングなど運用サービスを支援するツールで、後者はレポートおよびユーザーを検索したり、アクセス権限を設定したりするためのツールとなっている。
そして、ユーザーのための製品として、各種開発ツールで開発されたレポートやアプリケーションを閲覧および印刷、ほかのファイル形式での保存を行う「OZ Report Viewer」「OZ Application Viewer」とデータ処理のための実行環境「OZ Enterprise Server」がある。
セキュリティ機能で、OZは韓国でシェアNo.1を獲得しました |
普通なら、ここで「OZ Report Designer」「OZ Application Designer」といった開発ツールが帳票やアプリケーションを迅速に作り上げるためにどんな支援機能をどれだけ有しているかという話になるだろう。しかし、金氏はそれより重要な特長が「OZ XStudio」にはあるという。それはセキュリティだ。
「Web環境で最も尊重すべきはセキュリティです。開発生産性が高くても低くても、セキュリティ機能が低ければ誰も見向きもしません。堅牢なセキュリティ機能を備えているからこそ、OZは韓国でシェアNo.1を獲得することができたのです」(金氏)。
具体的にどのようなセキュリティ機能を有しているかというと、OZサーバで格納するデータは基本的に暗号化、圧縮処理が施される。データ転送も暗号化したままだ。また、「OZ Report Viewer」「OZ Application Viewer」で帳票を閲覧・検索といった作業が終了した後、キャッシュされたデータを削除する設定ができる。
さらに、クライアントで行われたすべての操作はサーバ側でログを取ることもできる。これにより、企業としては運用をユーザー任せにせず、厳密なセキュリティ管理ができることになる。そのほかにも、PCのMACアドレスと連動したユーザー認証や、PKI、シングルサインオンとの連携機能も備えているという。
「OZ XStudio」の開発ツールで作成する帳票やアプリケーションにウォーターマーク技術を付加することも可能で、印刷出力された書類がデータ改ざんのない正当なものであることを保証できるらしい。
OZなら1/3〜1/10の開発工数が可能だと考えている |
開発生産性は、セキュリティの次に来る特長だ。例えば「OZ Report Designer」では、これまでの導入実績から代表的な帳票様式についてはテンプレートを用意しており、ウィザードに従って進むだけで画面構成やデータベース接続が直感的に行えるようになっている。
また、チャート、分析テーブル、グリッド、多次元バーコードなどが標準コンポーネントとして備わっているとともに、開発者が独自に開発した帳票パーツをコンポーネントとして登録して再利用することもできる(図2)。
図2 チャート、分析テーブル、グリッド、多次元バーコードなどの豊富なコンポーネント群(画像をクリックすると拡大表示します) |
既存帳票からの帳票開発もオプションながらOCR機能により実現する。ほとんどの帳票はノンコーディングで実現できるとするが、演算処理などを必要とする複雑な帳票については、JavaScriptを使って開発することになるようだ。このような機能によって実現する開発生産性の高さについて、金氏は次のような表現をする。
「日本のあるパートナー企業は、自ら構想した帳票ソリューションを実現するのに、取引のある独立系ソフトウェアベンダに対して完成予定を聞いたところ、どこも『1年かかる』と答えたそうです。そんなに時間はかけられないというので、このパートナーはOZを使って自ら開発しました。すると3カ月で完成してしまったのです。それも当初予定していた機能の10倍も実現したうえでです。われわれはOZなら1/3〜1/10の開発工数が可能だと考えています」
「OZ XStudio」の3つ目の特長は、ユーザーインターフェイスの豊かさ、そしてパフォーマンスだ。X-Internetソリューションを標榜するだけあって、その表現力は非常に高い。そして処理速度が速い。筆者は、取材時に“データのリアルタイム処理”を示す電子帳票の例を見た。最初はその言葉が意味するところがよく分からなかったのだが、実際に画面を見て、正直Web環境でここまでできるのかと驚いた。
「OZ Report Viewer」上で3D表示されている何本もの棒グラフが、画面の中で増減し続けている。それはあるコーヒーショップの商品在庫の変動を示したものだったのだが、データベースから1秒ごとにXMLデータを取得しては表示する設定を施すことによって実現しているという(図3)。
図3 1秒ごと最新のにコーヒーショップの商品在庫が表示される(画像をクリックすると拡大表示します) |
また、スピードという点では、コンカレントモードが印象的だった。並列的にデータ加工および転送を行うこの機能により、数千ページ規模の帳票を閲覧・印刷する際もまずは1ページ目が、あるいは最初の10件なら10件のデータが示されるため、待たされるという感覚を持つことがない。韓国の大手企業がこの製品をこぞって導入しているのも、このように大容量データが非常にビジュアルに、さくさくと扱える点が高く評価されているからではないかと思われた。
まずは知ってもらうために日本ではすべて無償で提供する |
日本では、アプリケーション開発ツールと帳票開発ツールは別に扱う傾向がある。同社のスイート製品化はビジネス上かえってマイナスに働くのではないかと思ったのだが、開発ツール製品群もビューア製品群も、日本ではすべて無償で提供するためその心配はないという。有償なのは実行環境である「OZ Enterprise Server」のサーバライセンス(200万円〜)と年間保守料(サーバライセンスの15%)のみ。このような戦略的な価格設定は、オープンソーステクノロジーへの対抗策でもあるようだ。
「まずは帳票1つでもいい、小さなアプリケーション1つでもいい、OZ XStudioで開発してみてください。表現力の高いWeb環境が、企業活動にとってどれだけ利便性が高く、業務効率を高めてくれるかを実感していただけるはずです。1つ作ればきっと『あの仕事にも使いたい』『この仕事にも向くのではないか』と次々アイデアがわいてくることでしょう。韓国でもそのようにして広がっていきました。これはシステムインテグレータ企業にとっても、ビジネスチャンスを拡大できるX-Internetおよび帳票のトータルソリューションだとわれわれは堅く信じています」
オズウェブテクノロジー 取締役 古村浩三氏は、日本企業へのメッセージを上記のように語った。初年度の売り上げ目標は堅実に見積もって約2億円。日本でも韓国での成功を再現することができるか。同社今後の活躍が期待されるところだ。
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