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WCR Watch [3]
FlashはJava開発者のものに成りうるか
宮下知起
2005/2/3
いまWebアプリケーションの生産性やサービス品質の低下への回答としてリッチクライアントが登場している。数あるリッチクライアント技術の中で、マクロメディアはFlashベースのリッチクライアント技術にこだわる。多くのクリエイターの支持を受けてきたマクロメディアにとってFlashを中心に据えるのは当然のことだが、マクロメディアが最大のターゲットとしているのはJava開発者層だ。Java開発者のマインドとニーズの両面を捉えることを狙いに出荷されたMacromedia Flex(以下、Flex)は、日本ではまだ出荷後間もないが、米国では1年を迎えようとしている。Flexの米国での評価はどうなのか? リッチクライアントのマーケットは果たして今後拡大するのか? WRC Watch第3回目として、米マクロメディアでバイスプレジデント兼プロダクトマネジメントを担当するJeff Whatcott(ジェフ・ワトコット)氏へのインタビューをお届けする。
■ 米国でのFlexの採用は進んでいるか
──2005年3月で、米国で出荷されて1年を迎えます。サーバ製品は評価から導入まで時間がかかるものですが、採用の現況はいかがでしょうか?
ワトコット氏 想像以上の顧客を得ています。通常サーバ製品は実案件がなければ評価対象にならないことが多いのですが、評価の機会を非常に多くちょうだいしています。しかもわれわれ自身驚いたのが、評価から採用までの時間が非常に短時間であることです。最短の事例では、評価からカットオーバーまでわずか2カ月という例があります。
──評価期間が短い理由は何でしょうか?
米マクロメディア バイスプレジデント Jeff Whatcott氏 |
ワトコット氏 まず、現在の運用環境を変更する必要がない点が理由の1つに挙げられます。Flexは、ビジネスロジックを崩すことなくフロントエンドのみを切り替えることができます。さらに、ここが最大のポイントですが、Flexの開発スタイルがJavaのそれに非常に似ているからです。Flexのプログラミングモデルはプロプライエタリなものではなく、オープンスタンダードがベースとなっています。UIの設計はXMLで、ロジックの記述はECMAScript準拠のActionScriptで行います。XMLが理解できて、JavaScriptが分かればよいので、開発者がもともと持つスキルをそのまま使うことができます。
■ FlashによるUIの開発は難しくないのか?
──Flashはデザイナーのためのツールという認識が根強くありますが、米国では、どのような方々がFlexを評価しているのでしょうか? もはや、Flashはデザイナーのものという認識は、払しょくされているのでしょうか?
ワトコット氏 従来のFlashは1人のクリエイターが作成することを前提にツールが作られていました。しかしFlexではコンポーネントベースの開発が可能なので、多くの開発者が開発に参加することができます。従来のFlashを使ってRIAを開発していた顧客からは、この点で非常に高い評価を得ています。もちろん、Flashの経験なくFlexを使ったJava開発者からも、開発が分担しやすい点が高く評価されています。
──従来のFlashのようにタイムラインをベースにムービーを作成するというスタイルではなく、ユーザーインターフェイスをコンポーネントを積み上げて構築するというイメージなのですね?
ワトコット氏 よく使うユーザーインターフェイスはクラスライブラリ化されています。ですので、開発者は一からユーザーインターフェイスを作らなくてもいいのです。もちろん、クラスを継承して、独自のクラスを作ることもできます。すなわち、ユーザーインターフェイスはパーツとして用意されているので、必要に応じて組み合わせたり、カスタマイズしていけばよいのです。このモデルによって、構築時間を短縮することができます。かつ、作業を分担できるので、チームでの仕事も非常にうまくいきます。
私たちは、FlexをJava開発者のニーズを拾って設計しました。Java開発における開発チームのスキル、ワークフローを研究しました。私たちのゴールは、Java開発の世界を変えることなく、RIAのフレームワークを作ることだったのです。そのために私たちは、JavaアプリケーションサーバMacromedia JRunの開発メンバーをFlexの開発メンバーに投入しました。
──J2EE開発者からは具体的にどのような評価が出ていますか?
ワトコット氏 やはり開発が非常に短期間であるという声が圧倒的ですね。もう一つ共通した意見が、JSPよりも行数が少ないにもかかわらず、出来上がるユーザーインターフェイスは非常にリッチであるという点です。コーディング量が減り、出来上がるソフトウェアの質は上がるのですから、こんなにいいことはありません。
ほとんどのJava開発者は実はJSPを好んでいないと思います。例えば、ページのリフレッシュを考えるのは好きではありません。StrutsやJSFといったフレームワークも登場していますが、フレームワークの導入自体が難しく、障壁となっています。FlexはMVCモデルを非常にきれいに、シンプルに実現します。この点がJava開発者にとって魅力となっています。
Macromedia Flexには開発ツールFlex Builderが同梱されている(評価版もあり)。コードとGUIの2ウェイでの開発が可能なため、実際のユーザーインターフェイスを確認しながらXMLコードを記述することができる |
■ 競合製品に対する販売戦略は?
──米国ではLaszloやNexawebといった競合製品があります。これらの製品へのアドバンテージはどこにあるのでしょうか?
ワトコット氏 アドバンテージについて言及する前に、RIAのマーケットは非常に大きいことをお話したいと思います。RIAはビジネスに非常に大きな効果をもたらすので、多くのベンダがRIAのためのソリューションを出してきています。米国においては、いまは競争というフェイズではなく、RIA構築技術のマーケットをともに広げるという動きになっているのです。
あえてFlexの優れている点をお話すると、まず、Flashランタイムの普及率です。Flash 5以降のバージョンは、インターネットに接続される全PCの98%に普及しています。これまでのデータだと、Flashは新しいバージョンが出て12カ月間の間に平均82%の普及率を誇っています。Webブラウザであろうと、OSであろうと、これだけの普及率を誇れるものはまずあり得ないでしょう。
もう1つの優れている点は、先にも説明したようにFlexは標準ベースのプログラミングモデルを持っているということです。さらにFlexは、そのほかのFlashのプラットフォームを利用できます。例えばFlash Communication Serverと組み合わせて、ビデオやチャット、マルチユーザー・コミュニケーションを利用できます。さらには、日本では未出荷ですが、Centralというデスクトップ上でFlashを実行できる環境を使い、ブラウザの外でFlashアプリケーションを実行できます。
──FlashによるRIAの、他社技術に対する圧倒的な違いは何でしょうか?
ワトコット氏 いま、“ページリフレッシュがないのがRIA”という認識がまかり通っているように思います。これだけだとRIAのポテンシャルを生かせないのではないでしょうか? ビデオ、アプリケーション共有、チャット、コラボレーション機能を、クラスプラットフォーム、クロスデバイスで実現できるのがFlexによるRIAの強みです。私たちは、データとコンテンツとコミュニケーションの3つがRIAの柱だと考えています。これらがそろって、初めてRIAなのです。Flashはこの3つの柱を満たしていると考えています。
Macromedia Flexの開発に関する情報は製品サイトに充実している。同サイトからは評価版を無償でダウンロードできる。60日間の評価期間を過ぎると自動的にデベロッパー版となるので、期限なく評価や学習のための利用が可能だ。評価用の入手が容易であることも同製品が評価機会を多く得ている理由の1つだ |
■ RIAはビジネスとして拡大していくか?
──ビジネスとしてのRIAの市場をどのように予測していますか?
ワトコット氏 私たちは、2008年までにアプリケーションの35%がRIAになると予想しています。マーケットは非常に大きいと考えています。すでに英国では、Flexを中心に据えたRIAのコンサルタント企業が誕生しています。私たちも、さまざまなベンダとの協業を強化していく予定で、その中には、大手のERPベンダなども含まれています。
日本では、データエントリ中心のRIAのニーズが大きいようです。現在のFlexがこのニーズに応えられないわけではありませんが、日本の需要を研究し、将来は製品に取り入れていく考えでいます。非常に残念なのは、日本のさまざまなレポートでは、Flashはデータエントリ業務には向かず、クリエイティブなECサイトに適しているという評価が多いことです。事実、米国でのFlexの事例の50%は企業のイントラネットなのです。その中でも特に金融機関の顧客が多いのです。Flashで実現できるのはeコマースだけではありません。
日本は、米国に次ぐ2番目に大きなマーケットであると考えています。しかも、リッチクライアントに関するカンファレンスが単独で開かれているケースは日本にしかありません。フロントエンドを重視するという文化的な特長なのかもしれませんね。
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Flashは、データとコンテンツとコミュニケーションというRIAに必要な3本柱の要件を満たす。しかし、これまでのFlashツールはクリエイター向けのものであり、Java開発者、さらにはプロジェクトでの大きな仕事には不向きだった。ところが、Flexは開発フェイズのこれらの課題を解決し、本格的なRIA構築ツールとして誕生している、というのがWhatcott氏の説明だ。Flexは、国内市場では出荷後まだ3カ月に満たない。今後国内市場でどう評価されていくのか、注目されるところだ。
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