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Ajaxが追い風となるか? Open Laszlo


宮下知起
2005/6/30

 いまOpen Laszloと呼ばれるリッチクライアント技術に注目が集まっている。かたやAjaxが急浮上している中、JavaScliptとXMLのスキルセットがあれば使えてしまうフリーのプラットフォームに、ユーザーの関心が集まる可能性を秘めている。

オープンソースモデルのリッチクライアント登場

 Ajaxを使い構築されたGoogle Mapsの登場もあり、Ajaxが注目を集めている。マイクロソフトも、ついにAjaxベースの開発ツール「Atlas」(開発コードネーム)を開発中であるという。Ajaxとは、Ajaxという特別な技術があるわけではない。内容は、JavaScript+CSSでプレゼンテーション層を構築し、サーバとクライアント間の通信に非同期なXMLHttpRequestを用いるというものだ。リッチなユーザーインターフェイス(UI)が実現でき、かつ、サーバとのやりとりはUIではなくデータのみとなるため、画面遷移が発生しないことでスピーディーなクライアントの操作が可能になる。すなわち、リッチなWebクライアントがさくさく動くわけだ。

 Ajaxの登場と現在の人気は、技術が枯れることによってWebブラウザとJavaScriptの互換性問題が解消され、JavaScriptやCSSをあらゆるケースで問題なく使えるようになったことが背景にある。一方で、数多く登場したベンダ製のリッチクライアント技術へのアンチテーゼがあるようにも思える。独自技術は使いたくない、高いコストはかけなくない、という思いだ。Ajaxはその点、無償でありJavaScriptという標準スクリプト言語が使える。

 このようにAjaxが注目される中で、もう1つの無償で使えるリッチクライアント技術が、にわかに注目を浴びてきている。米Laszlo Systems社のOpen Laszloだ(「@IT:オープンソースがRIA市場の起爆剤となる、ラズロCEO」「@IT:Open Laszloを使って作るリッチクライアント(1)」を参照)。

ビジネスモデルはJBOSSに似る

米Laszlo Systems社 CTO兼共同設立者 David temkin(デイビット・テムキン)氏

 米Laszlo Systems社のメンバは、JRun、ColdFusionの産みの親である米Allairer社、コンシューマサービスを手がけるエキサイト、アップルといった企業を渡り歩いてきたメンバによって構成されている。同社のCTOで共同創立者の1人であるDavid Temkin(デイビット・テムキン)氏は「Excite.comに勤務していたときに、ユーザーにリッチなエクスペリエンスを提供できるコンシューマサービスを提供することを考えていた。しかし、それを実現するアプリケーションの構築手段は、HTMLでも、JavaScriptでも、Flashでもなかった。リッチなUIの構築には手間がかかりすぎ、ツールの習得にも時間がかかった。この経験が、Laszloのヒントになっている」と語る。

 Open Laszloは、XMLとJavaScriptが書ければ、FlashベースのリッチなUIが構築できるというユニークな製品だ。しかも、ライセンスモデルはCPL(Common Public License)である。CPLは、米IBMがIBM Public Licenseをベースに作成したライセンス規定であり、Eclipseにも適用されている。CPLのライセンスは、CPLのソースコードと独自開発のソースコードを組み合わせたソフトを作成して、そのソフトのオブジェクトコードを頒布する場合、ソースコードの公開義務はあるが、CPLのソースコードの部分だけを公開すればよいというものだ。すなわち「ユーザーは、Open Laszloを自社の製品に自由に組み込んでビジネスを行うことが可能だ。しかもその際、公開すべきコードはOpen Laszloだけでよい」(デイビット・テムキン氏)。

 米Laszlo Systems社のビジネスモデルは「米JBossと同様に、コンサルティングとサービスでビジネスを行う」(デイビット・テムキン氏)ことだという。そしてそのためには、「Open Laszloはリッチクライアントのプラットフォームとして、できるだけ広く普及させることが重要だ」(デイビット・テムキン氏)。製品そのものは同社のサイトからダウンロードして自由に試すことが可能であり、日本発のオープンソースプロジェクト「Seasar Project」では、すでにOpen LaszloをSeasarプロダクトに取り込もうとしている。イノベータの間では興味あるツールとして試されているようだ。

 同社は、米国ですでに大手ISP・ポータルサイトを相手に、コンサルティング・ビジネスを開始しているという(下記のリスト参照)。Open Laszloをリッチクライアント・プラットフォームとして普及させ、コンシューマサービスを手がけるISPやポータルサイトに、Open Laszloベースのコンシューマサービス提供をコンサルするのが狙いだ。もちろん、エンタープライズも視野に入れているが、いまは大規模ユーザーを抱えるISPなどへのコンシューマ・ビジネスのコンサルが先だと考えているようだ。

  • 米SBCヤフーのパーソナルページ(参照URL
  • 米アースリンクのパーソナルスタートページ(参照URL
  • オンラインメディア米ZDMediaのゲームユーザーのためのページ(参照URL
Open laszloで作成されたカレンダーアプリケーション。月次でのカレンダー表示、予定の確認、予定の記入といった各フェイズで画面遷移が必要なく、かつFlashならではのアニメーションを生かした使いやすさに凝っている。米Laszlo Systems社のデモサイト(http://www.laszlosystems.com/partners/support/demos/)にアクセスすれば、さまざまなlaszloベースのWebアプリケーションを試すことができる (クリックすると拡大)

IDEは自社では提供しない−Eclipseプラグインが提供される

 Open LaszloにはIDE(統合開発ツール)は付属していない。テキストエディタさえあれば開発できるので、必要なスキルセットとしてはAjaxに非常に近い。その意味で「Ajaxの普及は我々にとっても追い風となると信じている。Ajaxのプログラマがわれわれの存在に気づいたとき、彼らはLaszloのユーザーとなるだろう」とデイビット・テムキン氏はいう。

 IDEが存在しないわけではない。IBMのalhaWorksのサイトでは、Open Laszloでリッチクライアントを開発するためのEclipseプラグインが提供されている。

Open Laszlo用のEclipseプラグインを公開しているaphaWorksのサイト。http://alphaworks.ibm.com/tech/ide4laszlo/でアクセスできる

 このプラグインを利用すると、以下の画面に示すようにWYSIWYGでFlashベースのUIを設計できる。

laszloプラグインを組み込んだ状態のEclipse。現在対応するEclipseのバージョンは、3.0.1もしくは3.0.2/aである。EclipseでFlashのUIをビジュアルに開発できる。UIはコンポーネント部品として用意されており、Visual BasicライクにFlashアプリケーションを開発できる点が特長だ (クリックすると拡大)

 作成したアプリケーションは、Laszlo Presentation Serverの上でFlashにジェネレートされ、クライアントに配布される。しかし、Laszlo Presentation ServerでSWFファイルを出力し、そのファイルを単独でサーバに置く運用も可能だ。この場合、運用方法は従来のFlashと同様ということになる。

 現在、Open Laszloのバージョンは3.0。laszlo Presentation ServerはJavaサーブレットで作られているため、対応OSは幅広い。事実上、Javaが動く環境であればどこでも利用できるが、公式にはWindows、Max OS X、Linuxに対応する。

 ところで、米Lazlo Systems社の大株主は実は日本企業だ。三井物産ベンチャーパートナーズがインキュベートしている。いずれ日本に上陸してくる可能性は高い。デイビット・テムキン氏は「日本とヨーロッパはデザインセンスに優れている。日本でLaszloでデザインされたアプリケーションが登場するのが楽しみだ。これまでWebはDTPの延長だった。今後Webのユーザーインターフェイスは、これまで我々が使ってきたクライアントアプリケーションの近いものに変わっていくに違いない」とも語る。

 Open Laszloは、今後がまったく未知数の技術ではある。しかし、Ajaxの人気の高まりと同様、Open Laszloの登場は、リッチクライアントをJavaScriptという枯れた技術で作ろうという1つの流れが作られつつあることを示唆しているかもしれない。







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