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WCR Watch [7]


アドビに引き継がれるマクロメディアのRIA戦略


宮下知起
2005/10/29



カンファレンス会場のアナハイム・コンベンションセンター。マクロメディアにとっては今回が最後のプライベートカンファレンスだ

 米アドビシステムズとの合併をひかえた米マクロメディアのプライベートカンファレンス「Macromedia MAX 2005」が、10月16日から4日間の日程で米カリフォルニア州アナハイムで開催された。毎年開催されるMAXは、マクロメディアユーザーに同社の今後の方針と新技術を披露し、さらにはラーニングの機会を提供するものだ。

 今回はマクロメディアとしての最後のMAXとなったわけだが、そこで語られたのはFlashプラットフォーム戦略の継続だった。すなわち今回のMAXは、マクロメディアの戦略が米アドビシステムズのインターネット分野における戦略として、そのまま引き継がれることが明示された機会でもあった。

■開発者の裾野を広げるFlex 2の登場

  今回のMAXでは、戦略において中核にあるのはRIA(リッチインターネットアプリケーション)であることが再度確認された。中でも大きなトピックはFlex 1.5の次期バージョンFlex 2の発表である。

 Flex 2における目玉はFlex Builder 2の登場だ。従来までDreamweaverベースの開発環境であったFlex Builderは、いよいよEclipseベースの統合開発環境へと生まれ変わる。

 Flex Builder 2はそれ単体で実行可能なFlashファイルを生成できるため、従来のFlexのように実行のためのサーバを用意する必要がない。デザイナがFlash MXを使ってSWFファイルとしてのFlashアプリケーションを作成できるのと同様、プログラマはFlex Builder 2を使うことでFlashをUIに用いたアプリケーションを自在に開発、配布できるようになる。メリットを整理してみよう。
  • Flex Builder 2だけでFlashアプリケーションを開発・配布できる
  • サーバプラットフォームが不要に
  • CPUライセンスが不要に

 Flex Framework 2は、XMLベースのFlash UIを実現するためのライブラリ群と、デバッグ等をサポートするユーティリティで構成される。Flex Builder 2とFlex Framework 2で構成される開発環境は、Javaや.NETに慣れた開発者に違和感を感じさせない、自然な開発スタイルを提供するという。

米マクロメディア 執行副社長 Jeff Whatcott氏。「Flex 2の出荷時期については、開発者の意向が充分に反映できてから」と話す

 さらに、Flex 2では、バックエンドで大量データを扱う大規模システムの開発、レガシーシステムとの連携のためのミドルウェア「Flex Enterprise Services 2」が用意される。米マクロメディアでエンタープライズ製品を統括するJeff Whatcott氏のコメントによると、クライアントとサーバ間の通信を高速に行うためのAMFプロトコルのゲートウェイ機能が強化される。これは例えば、金融分野でとくにニーズのあるクライアントへのリアルタイムデータのプッシュ配信のニーズに応えるものだ。また、基調講演では、パフォーマンステストツールの米マーキュリーインタラクティブとのパートナーシップが発表された。マーキュリーのテストツールにFlash UIを採用するとともに、Flexにパフォーマンスチューニングのための機能を組み込むという内容だ。これらの機能が盛り込まれることになるFlex Enterprise Services 2のライセンスは、おそらくCPUライセンスで提供されるとのことだ。

基調講演で発表されたFlex 2の製品体系。ツールとしての「Flex Builder 2「とエンタープライズアプリケーションを構築するためのプラットフォーム「Flex Enterprise Services 2」、共通基盤としてのフレームワーク「Flex Framewrok 2」で構成される

 こうしてみると、FlexはFlex 2になることで、プレゼンテーションUIを開発するFlex Builder 2と堅牢なサーバ基盤を構築するためのEnterprise Services 2に分離して提供されることになる。はじめからこのような形態でFlexを出荷しなかた理由についてWhatcott氏は「Flexはデザイナのためのものではなく、エンタープライズ向けの製品であることを認知いただく必要があった。そのために、最初にサーバプラットフォームと一体となったFlexを出荷した。これは最初からの戦略であり、CPUライセンスが不要なlaszlo Sysytemsなどを意識した戦略変換ではない」と述べている。

 Flex Builder 2は、現在アルファ版としてMacromedia Labsで公開されている。Macromedia LabsにはWikiが設けられており、マクロメディアとユーザーの間に密なリレーションを築きながら、製品にユーザーの声をフィードバックしていくことを目的としている(Macromedia Labsは英語版だけの提供だが、日本のサイトにもMacromedia Labsを紹介したコンテンツが用意されている)。

 Whtcott氏は「今後、Flexはデザイン、コーディング、テスト、運用というアプリケーション開発のライフサイクル全体をサポートしていく」と述べる。マクロメディアはFlex 2でエンタープライズ市場に本腰を入れる。

■デスクトップにもRIAを「Appolo」

米マクロメディア チーフソフトウェアアーキテクト兼執行副社長 Kevin Lynch氏

 今回のMAXでは、Webブラウザを使わないFlashの実行環境「Appolo」計画が発表された。2003年のMacromedia MAXで発表されたCentral(プレビュー版)もブラウザを使わないFlash実行環境だったが、米マクロメディアでチーフソフトウェアアーキテクト兼執行副社長を務めるKevin Lynch氏は「Centralは開発者に難しかった」と述べる。Appoloは、既存のマクロメディアのツールの中でデスクトップアプリケーションを開発できるものになる。

 AppoloはデスクトップにおけるFlash実行環境だが、WebブラウザのプラグインとしてのFlash Playerと同様にSandBoxに対応し、ローカルリソースのセキュリティを実現するという。

 デスクトップのユーザーインターフェイスは、マイクロソフトがOSという括りの中で牛耳ってきた分野だ。デスクトップに独自のユーザーインターフェイス環境を提供することは、マイクロソフトへの挑戦でもある。これに対してLynch氏は「OSは5年程度の長いサイクルで変化する。しかし、われわれは非常に速いサイクルで変化するWebの変化をユーザーインターフェイスにフィードバックできる。しかもそれはユーザーがさまざまに検証した結果であるので、非常に使いやすいものになるはずだ、とマクロメディアの強みを説明した。

■Flashは高パフォーマンス、クロスデバイスに進化する

 来年登場するFlash 8.5は、コードが全面的に書き直される。そのため、前バージョンとの互換性は前バージョンのVirtual Machineを内包することで対応するという。それほど力を入れた新しいFlashの特長は、Action Script 3.0に対応。Action Script 3.0はオブジェクト指向言語として完成されたプログラミングモデルを目指し、Flexでの開発をサポート。複雑なアプリケーションにはFlashは不向きという先入観を徹底して払拭するところに狙いがあるという。

 JIT(Just in Time Compiler)を搭載することで実効性能も飛躍的に向上し、アルファ版の段階ではFlash Player 8の約15倍のパフォーマンスを叩き出すという。エンタープライズにおけるFlashの実効性能を意識している。

 Flashはパフォーマンスの向上だけでなく、クロスデバイス上でさらに実用的なものに進化する。モバイル向けのFlash Lite 1.1は、近い将来Flash Lite 2.0にアップデートされる。Flash Player 7を継承して作られるFlash Lite 2.0は、Action Script 2.0をサポートし、携帯デバイスでのビデオ配信の機能を強化する。

 PC同様に携帯にもRIAを提供できるようにしたいのがマクロメディアのねらいだ。「携帯向けのFlash UIの開発も、Flexと同様のツールを使ってクロス開発できるようにする考えだ」とWhatcott氏は述べている。

FlexはFlex3でクロス開発に対応する(時期は未定)。FlashによるRIA関連のコンテンツはクロスOS、クロスブラウザ、クロスデバイスに進化していく (クリックすると拡大)

 クロスプラットフォーム、クロスデバイスに展開するマクロメディアのRIA戦略は、そのままアドビへと引き継がれる。実際、マクロメディアから取締役5名が新生アドビの経営陣に参加。現アドビシステムズの経営陣からは2名が退任するという報道が流れている。いちはやくインターネットのマーケットに躍り出たマクロメディアが、合併後の新生アドビシステムズのエンタープライズ分野の戦略を牽引する。







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