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Ajax開発環境を無償にしたTIBCOは勝ち組?
@IT編集部上島康夫
2006/3/21
Ajaxがリッチクライアントの中で不動の地位を築いたことは、誰の目にも明らかになった。現在リッチクライアント業界で最も熱いのは、Ajax統合開発環境&フレームワークの開発合戦だろう。SOA/BPMベンダとして知られるTIBCOソフトウェア(以下、TIBCO)は、Ajax開発環境「TIBCO General Interface Version 3.1 Professional Edition」(以下、GI)の無償提供を始めた(2006年2月13日付のプレスリリース、米国時間)。米TIBCO プロダクト・マーケティング・ディレクター、Jeff Kristick氏に、Ajaxにいち早く対応したGIの開発背景について話を伺った。 |
── 今回出荷されたGIは、Ajaxの開発ツールとフレームワークを組み込んだことで話題になっています。TIBCOのAjaxへの取り組みは、どのように始まったのですか。
多くのベンダが最近になってAjax対応を表明していますが、TIBCOがAjaxへの対応に取り組み始めたのは15カ月前、2004年11月にGeneral Interface社を買収し、「TIBCO General Interface」として最初となるバージョン2.4.5をリリースしたことに始まります。General Interface社はAjaxの開発環境とフレームワークを持っていました。その後、2005年9月にバージョン3.0、2006年2月に最新バージョンの3.1をリリースしてきました。この間、TIBCOの持つSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)やBPM(Business Process Management:ビジネスプロセス・マネジメント)をGIに統合する作業を続けてきたのです。またバージョン3.1からライセンス体系を見直して、無償提供を始めました。
GoogleやYahoo、マイクロソフト、IBMなどといった大手ベンダがこぞってAjaxを選択してきたことからも、当社の判断は正しかったといえるでしょう。
図1 GIで作成されたTIBCOのAjaxリッチクライアント 複数のフローティング・パネル、タブによる画面の切り替え、グラフ表示など、従来のクライアント/サーバ型アプリケーションと遜色のないリッチなインターフェイスがWebブラウザ上で実現されている。(画面をクリックすると拡大します) |
Ajaxを取り入れる以前は、ASPやJSPでWebブラウザのユーザーインターフェイス(以下、UI)を構築していました。これらの技術は静的なページしか作れず、パネルのサイズをダイナミックに変更するとか、リアルタイムな情報更新などはできませんでした。GIを使えば.NETやActiveXよりも楽に動的なUIをAjaxによって開発できます。BPMのような企業ごとにカスタマイズされたシステムで重要なのは使い勝手の良さです。Ajaxの潜在能力は非常に大きいと思います。
── General Interface社を買収した2004年ごろは、まだAjaxという技術はほとんど注目されていなかったはずですが、どのような理由でAjaxを選択したのですか。
米TIBCO プロダクト・マーケティング ディレクタ Jeff Kristick氏 |
Flashなど、ほかの技術も検討しましたが、Webサービスに基づいたSOAとの相性という点で、Ajaxの方がより親和性が高いと判断したのです。Flashでのインタラクティブ性は少し性質の違うものだと感じていました。
GIの開発環境は当時、クライアント側でのWebサービス機能が用意されていたのです。その機能を拡張してTIBCOのサービスインフラと統合すれば、BPMのクライアント開発にうってつけの製品になるはずだと感じました。
Ajaxに注目したきっかけは、あるお客さまからの要望でした。これは物流業界の企業で、社内外のユーザーに対して荷物の現在位置をWebブラウザ・ベースでリアルタイムに情報提供をしたいというニーズを持っていたのです。この企業はすでに社内システムにTIBCOのSOAメッセージング基盤を導入していましたが、さらにその情報をWebブラウザにプッシュしたかったのです。また、動的な情報更新に加えてクライアント側のリッチなUIも求めていました。これらを可能にする技術を探していたところ、早い段階からAjaxに取り組んでいたGeneral Interface社に出会ったのです。彼らの技術を見て、目の覚める思いをしました。そして調査を進めるに従って、Ajaxの潜在能力に引き付けられました。
── GIのライセンスは、Professional Editionだと開発、テスト、公開利用までが無償とされています。この反響はどうですか。
非常に大きな反響を呼び、多数ダウンロードされています。Webシステムの開発者にとって、無償で使えるAjax開発環境を手に入れられることは非常にうれしいことだと思いますよ。GIの無償提供をきっかけに、Ajax開発者がさらに増えることを望んでいます。
図2 GIの開発環境 拡大画像をよく見ていただければ分かるが、このツール自体がWebブラウザ上で稼働するAjaxアプリケーションである。現時点でここまでの完成度を持ったAjax開発環境は少ないだろう。しかも無償で利用できる。(画面をクリックすると拡大します) |
- TIBCO
General Interfaceダウンロードサイト(英語)
無償利用が可能な「General Interface Version 3.1 Professional Edition」をダウンロードするには、上記サイトからTIBCO General Interface開発者コミュニティ「power.tibco.com」にユーザー登録する必要がある(無料)。
- TIBCO
General Interfaceホワイトペーパー(PDF)
── TIBCOはSOAやBPMといった企業システムの基盤構築を得意とするベンダだと認識していますが、リッチクライアントとSOAやBPMとの相性について、どのようなお考えを持っていますか。
TIBCOにとって2006年は、BPMを重要な分野として位置付けて多くの投資を行っていきます。ビジネス統合を成功させるためには、既存のシステムとの連携が重要になるのですが、この連携にはSOAといわれているサービスレイヤを利用するのが最も効果的です。サービスレイヤを通して既存システムのコンポーネントを利用し、ビジネスプロセスを実行することで、ビジネス統合をさらに大きな成功に導くことになるでしょう。GIをAjaxに対応させた狙いは、SOAと連携したBPMに、より高度なユーザービリティや開発柔軟性を付け加えるためだったのです。
ビジネスプロセスの管理が重要であるという着想は、決して新しいものではありません。例えば「シックスシグマ」や「TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)」、エドワード・デミング(Dr. William Edwards Deming)氏の「PDCAサイクル」などが存在しました。最近になって変わってきたのは、ITテクノロジーが成熟してビジネスプロセスを管理・実行するシステムを構築できるようになったことです。BPMは北米やヨーロッパが先行していますが、日本でもこれから一気に普及が進むでしょう。
SOAに基づいたITシステム基盤が整えば、各部門レベルで稼働しているシステムがサービスという形で利用できるようになり、これによってBPMの活用が進むと考えています。ただし、既存システムをサービスとして再定義するSOA的なアプローチは非常にコストがかかるのも事実です。そしてROI(投資対効果)はすぐには表れません。そこで、SOAとBPMを組み合わせて導入するアプローチに注目が集まっています。これはビジネス的な要件、例えば経営層にとって最も重要なプロセスがクレジットカードの決済業務だとしたら、そのプロセスに必要な部分からSOA基盤を作っていく。SOAとBPMを組み合わせると、こうした小さな単位でのビジネス統合が図れ、高いROIが得られるのです。
われわれの見てきたユーザー企業では、重要度の高い特定業務からSOA/BPM化していく方がビジネス的に成功している場合が多いですね。ESB(Enterprise Service Bus:エンタープライズ・サービスバス)を導入して、全社的にSOAを構築するケースもありますが、ROIを定量化して評価しにくい傾向が出ています。全社的にSOA化する「ITアプローチ」、重要なところからSOA化する「トップダウン・アプローチ」と、2つの考え方があると思います。
TIBCOではAjaxのことを「SOAの顔(Face of SOA)」ととらえています。つまりSOAだけでは、経営層やエンドユーザーに何が実現されたのかアピールすることができないので、Ajaxを使ったUIは重要な要素となってきます。Ajaxによるリアルタイムな情報更新や洗練されたユーザービリティは、SOAの魅力を効果的に表現してくれます。
◇
Ajaxを使ったリッチクライアントをSOAやBPMといった企業の基盤システムのUI構築に位置付けるTIBCOの戦略は、前回「リッチクライアントがSOAをのみこむとき」で紹介した国内ベンダ「サイオ」の提唱する「クライアント型SOA」にも通ずるところがあって、非常に興味深いものだった。リッチクライアントは単にWebブラウザの見栄えを向上させる技術から、企業システムのフロントエンドに必須の要素技術に発展しつつあるのだろう。
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