.NET管理者虎の巻

マイクロソフト社のシステム管理者に聞く
.NETの社内展開、管理の実際

1.マイクロソフトはいかに.NETを活用しているのか

マイクロソフト株式会社
Microsoft ITディレクター
荒瀬 達也 氏

聞き手:Windows Server Insider編集長 小川 誉久
2007/08/23


 ツールやライブラリなどの開発環境が整い始め、ソフトウェア開発者にとって.NETは、アプリケーション開発を強力に支援してくれる開発プラットフォームに発展した。しかし、.NETアプリケーションの展開・運用を避けたがるシステム管理者はいまなお少なくない。.NET Frameworkの追加によって、システムが不安定になったり、管理の手間が増えたりするのでは、と考えるシステム管理者が多いためのようだ。


マイクロソフト株式会社
Microsoft ITディレクター
荒瀬達也 氏

 それでは、開発元として、.NETアプリケーションの展開・運用を早期から進めているだろうマイクロソフトでは、.NETアプリケーションをどのように運用管理しているのか? 管理上の負担や問題点は? 逆に、システム管理者にとって、.NETアプリケーションを採用するメリットは?

 今回は、マイクロソフトの社内システムを管理しているMicrosoft ITディレクターの荒瀬達也氏に、マイクロソフト社内における.NETの展開と管理について話を伺った。荒瀬氏は、マイクロソフトの日本法人設立当初から業務システムの導入や管理などを担当し、現在はマイクロソフトの日本法人における社内システム管理の責任者である。

マイクロソフトの社内システム環境について

―― 本題に入る前に、マイクロソフトの社内システムの概要についてお聞きします。現在、マイクロソフトの社内システム規模はどの程度なのでしょうか?

荒瀬:全世界では、34万台のクライアントPCがあり、6500〜8000台のサーバがあります。ここでいうサーバは、主に社内での業務に使われるもので、外部向けにサービスを提供するサーバ群とは別です。ユーザー数は約11万人ですので、単純計算では1人平均3台のクライアントPCを持っているということになります。ただし、これらにはITグループで管理していないテスト用のPCも多数含まれています。サーバの台数もまだまだ多い状態ですが、これでも以前の1万6000台規模からサーバ統合を行った結果、半分にまで集約されました。今後、サーバについては、さらに集約を進める計画でいます。

―― 現在利用している業務アプリケーションは何種類あるのでしょうか?

荒瀬:社内で使用されている業務アプリケーション全体では、全世界で約1000種類くらいあるでしょう。Excelのマクロのようなものを含めると、2500とか3000種類はあるという説もあります。

 業務アプリケーション数が多い背景には、国ごとに異なるカスタマイズを業務アプリケーションで吸収しているということがあります。マイクロソフトでは、基幹システムとして、SAPをシングル・インスタンスで導入しています。サプライチェーン・マネジメント(SCM)やファイナンス、人事管理などのコンポーネントが、すべてがSAP上で動作しています。ITグループでは、SAPによるグローバル展開を推し進めており、SAP関連アプリケーションによる経費精算や発注システムなども、本社側で開発したり、サードパーティ製品を導入したりして、それをグローバルで利用しています。

 しかし米国本社が考えるビジネスと、日本におけるビジネスには違いもあります。例えば、日本の労働基準法では、社員が何時から何時まで働いたという記録を残さなければならないのですが、本社側では出社していようが何だろうが仕事をしていればよいということで、労働時間の記録を残すようなアプリケーションにはなっていません。結局、これは世界標準仕様ではカバーできないので、日本側で個別に対応しました。このようにして、各国対応のカスタマイズが必要になるわけです。

―― 日本独自のアプリケーションというのは、1000種類のうち何種類あるのでしょうか?

荒瀬:90種類程度だと思います。米国本社で開発したアプリケーションで、ほぼ全社員が共通して利用するものは250種類に満たないと思います。それでも、マイクロソフトはソフトウェア・パッケージなどの生産部門のほとんどを外注化しており、生産管理システムなどを必要としない会社なので、250種類でも多いと感じていますが。

―― どのようなアプリケーションが多いのでしょうか?

荒瀬:多いのは人事系で、次は営業支援のアプリケーションです。例えば営業支援アプリケーションとしては、顧客別に販売機会を分析、管理、共有する営業案件管理システムなどがあります。もちろん、SAPとともに導入しているCRMソフトウェアのSiebelにも、営業案件管理モジュールがあるのですが、各国のビジネスのとらえ方や慣習などが異なるためか、使いにくい面もあり、各国で独自のアプリケーションを導入している例が多いようです。

マイクロソフトにおける.NETの展開

―― ここで今回の本題に入るのですが、それらのうち.NETアプリケーションの数は多いのでしょうか?

荒瀬:総数はまだそれほど多くはありません。参照系のアプリケーションでは、.NET以前から使われていたWebアプリケーションをブラウザ・ベースで使用しています。ExcelとVBAのマクロの組み合わせで十分なものもけっこうあります。またクライアント側で入力系を処理する場合でも、最近はOffice製品のInfoPathをフロントエンドとして利用したものが増えています。

 これに対し、入力系や参照系でも、大きな表をスクロールさせながら操作せざるを得ないようなものは、やはりWindowsベースの方が使いやすいため、これらは.NETアプリケーションとして開発されたものが増えています。アプリケーションの展開にはClickOnceを利用し、アプリケーションの配布がシステム管理の負担にならないようにしています。

―― .NETアプリケーションの数はまだ少ないということですが、一部の人しか.NETアプリケーションを使っていないということでしょうか?

荒瀬:それは違います。.NETベースのアプリケーションで最も使われているのは「HeadTrax(ヘッドトラックス)」という人事系のシステムなのですが、これについては、ほぼ全社員がインストールしているといっていいでしょう。つまり、マイクロソフトのほぼ全社員が、.NETアプリケーションを使用しています。

―― HeadTraxというのは、全世界で利用されているアプリケーションなのでしょうか?

荒瀬:全世界です。ユーザー数は11万人くらいになります。

―― HeadTraxの実行環境である.NET Frameworkのバージョンは?

荒瀬:.NET Framework 2.0です。これも展開にはClickOnceを利用しています。

―― ほぼ全員に.NET Frameworkがインストールされているということになりますね。

荒瀬:そうです。少々古いレポート系の.NETアプリケーションでは、.NET Framework 1.1を使ったものも残っているので、ほとんどのユーザー環境で.NET Framework 1.1/2.0の双方がインストールされていると思います。

―― クライアント側にインストールする.NETアプリケーションは、基本的にClickOnceで展開しているのですか?

荒瀬:ClickOnceで展開できるのは、.NET Framework 2.0以上に対応したものに限定されますが、ほとんどのケースでClickOnceを使っています。ClickOnceなら、アプリケーションも、.NET Frameworkも、簡単にWebサーバから配布できます。NET Framework 2.0がインストールされていなければ、リンクをクリックするだけで自動的に.NET Framework自体をインストールするようにもできます。おかげで、.NET Frameworkや.NETアプリケーションの展開、バージョン管理などについて、ITグループではほとんど手間がかかりません。

 次ページでは、.NETを管理する際のコツや.NET Frameworkにまつわるトラブルの有無などについて話を聞く。


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  .NETの社内展開、管理の実際
  1.マイクロソフトはいかに.NETを活用しているのか
    2..NET管理のコツはシステムの標準化にあり
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