システム管理者のための.NET入門 1.変化に柔軟に対応できる情報システム デジタルアドバンテージ 小川 誉久2006/11/17 |
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冒頭でも簡単に触れたとおり、.NETとは、マイクロソフトが新世代ソフトウェア環境として提唱したコンセプトの総称である。誤解してはいけないのは、.NETは、特定の技術や製品、サービスを指す言葉ではないということだ。「.NETとはWebサービス(XML Webサービス)のことだ」とか、「.NET Frameworkランタイムのことだ」とか、「.NET対応アプリケーションのことだ」などという意見を聞くことがあるが、いずれも正しくない。こうした混乱の原因は、マイクロソフトによる初期の.NETに関する告知戦略の誤りにある。現在マイクロソフトは、製品名などに“.NET”という冠は付けない方針を貫いているが、一時は堂々と製品名に付けたりしていた(Visual Studio .NETなど)。発売間際で現在の名前に変わったものの、Windows Server 2003は、発売直前までWindows .NET Serverと呼ばれていた。
.NETを一言でいえば、テクノロジやサービス、対応製品などすべてを包含した、非常に大きなコンセプト=ビジョンである。まずは、なぜそのような新しいコンセプトがいまの情報システムに必要なのか、それがシステム管理者とどうかかわるのかについて述べよう。
環境変化に対応し、変化をリードできる企業が成長する
コンピュータやインターネットなどの情報技術が社会に与えた大きな影響の1つは、従来では考えられないほど、ビジネス環境の変化のスピードを速めたことだろう。Amazonや、楽天、Yahoo!、Googleなどは、インターネット・ユーザーなら誰もが一度は使ったことがあるメジャーなネット企業だが、20年前には影も形もなかった。これらの企業は、たかだか十数年という短期間に、インターネットの普及とともに新たなマーケットを開拓し、急速に影響力を増してきた。その一方では、長く市場を支配してきた老舗企業が、その市場を奪われ、影響力を低下させている。ネット企業は、老舗企業が予想だにしない姿形(すがたかたち)で代替可能なサービスを提供し、顧客を奪っていく。何十年という長い月日をかけて築いてきたビジネスが、これほどの短期間に奪われてしまうなどということは、インターネット時代以前には考えにくかったことだ。
ただし環境変化の加速がもたらす影響は、ネット企業に追い風、非ネット企業には脅威、という単純な図式とは限らない。変化は、どちらにも脅威でありチャンスである。実際、インターネットの普及の波に乗って台頭した第一世代のネット企業の中には、その後の変化にうまく対応できず、存続の危機にひんしているところもある。逆に、その後の変化に対応することで、影響力を拡大した老舗企業もある。要は、新しいか古いかではなく、環境変化に対応できる能力があるかどうかが、企業にもたらす利益と将来を大きく左右する時代になったということである。
変化に素早く的確に対応できる情報システム開発のカギを握るシステム管理者
企業活動の中枢に情報システムが不可欠になった現在、人や組織だけでなく、企業活動を支える情報システムにも、変化に素早く対応できる能力が必要だ。旧来の情報システム開発では、開発に数年、運用期間は数十年などといったものも珍しくなかった。これに対し現在では、短期間で周りの環境がどんどん変化するため、運用を開始した途端に改修が必要になるなど茶飯事だ。いまや、設計開始からサービス・インまで、数カ月などという超短期開発も当たり前になってきた。
従来の情報システム開発は、ともすれば、最初の設計から開発、最終的な運用管理に向かう一方通行になりがちだった。たとえ運用上の問題が発覚しても、設計や開発段階に戻って問題を根本的に修正することは基本的に不可能である。このため多くの問題を運用で回避せざるを得なかった。結果として、手作業での入力など本来は無用な属人処理や、余計なプロセスが運用段階で発生し、本当であればシステムによって自動化できる処理に高い人件費を費やしたり、機械化されていれば発生するはずのない人為的ミスの発生余地が生まれたりと、情報システム全体の運用コストを押し上げてしまっていた。
環境変化の短期化は、このような一方通行の情報システム開発ではなく、設計から開発、テスト、展開、運用までの全体プロセスを管理し、変化に応じてこのプロセスを反復可能にする必要を迫っている。情報システム開発におけるこの一連のプロセスは、「アプリケーションのライフサイクル」と呼ばれる。このライフサイクルを短期で繰り返しながら、時代の要求に対応していこうということだ。
いうまでもなく、変化に対応可能な情報システムといっても、その運用が企業活動を効果的に支援できるものでなければ意味がない。これを実現するには、運用段階でのノウハウや問題点などを、次の開発サイクルに的確にフィードバックする必要がある。つまりシステム管理者は、運用という情報システムのかつての終着駅ではなく、次のライフサイクルへの始発駅を担当する者として、積極的にシステム開発に参加する必要があるのだ。
アプリケーション開発のプロセスの変化 |
変化に対応し続けるには、開発から運用への一方通行ではなく、双方のフィードバックを繰り返す必要がある。 |
システム管理者にとっての.NET
これまで述べたとおり、環境変化に対応することは、企業が成長を維持するための生命線であり、これには情報システムの対応能力が欠かせない。このため情報システム開発は、短期化とともにライフサイクルの反復を余儀なくされており、ライフサイクル全体を最適化するためには、運用を担当するシステム管理者の適切なフィードバックが不可欠である。
詳しくはこれから述べるが、.NETを構成する技術や製品群は、さまざまな側面から現代の情報システムをサポートしてくれるとともに、アプリケーション・ライフサイクルの短期化と最適化を支援し、環境変化への対応を可能にしてくれる。しかし、.NETが企業の情報システムにもたらす価値をシステム管理者が正しく評価し、適切な助言を次の開発サイクルに与えて情報システムの価値を高めるためには、システム管理者の視点から、.NETのコンセプトや、.NETを構成する各種技術の機能や仕組みなどを理解しておく必要がある。.NETがソフトウェア開発者だけのものではなく、システム管理者にとっても重要な理由はここにある。
INDEX | ||
システム管理者のための.NET入門 | ||
第1回 なぜ.NETが必要なのか? | ||
1.変化に柔軟に対応できる情報システム | ||
2.これからの情報システムに何が必要なのか?(1) | ||
3.これからの情報システムに何が必要なのか?(2) | ||
「システム管理者のための.NET入門」 |
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