質素で豊かに

　景気の低迷から抜け出すためには、個人消費の拡大が必要だと、まことしやかに口にする経済専門家がいる。

　業績下方修正やリストラ、史上最悪の失業率などの見出しが新聞の経済面を埋め尽くしている昨今、庶民の財布のヒモが堅くなったのは事実だろう。百貨店やスーパーなどの小売業は、出口が見えない売上の低迷にあえいでいる。

　確かに贅沢はしなくなったかもしれない。けれど、今の暮らしぶりでも、私たちは住みたいところに住んで、食べたいものを食べ、着たいものを着ているし、そのために必要な出費はしている。つまり現在の個人消費は、景気の悪化によって本来あるべき水準より低迷しているわけではなく、バブルで水膨れした状態から、本来あるべき水準に戻ったと考えるべきではないか。

　これが正しいとすれば、景気高揚のための個人消費の拡大とは、「無駄なものを買わせる」政策だということになる。

　私が子供だった時代から比べれば、生活は驚くほど便利になった。しかしその代償として、生活ゴミは大幅に増えたし、食生活の偏りによる生活習慣病が深刻化している。便利にはなったかもしれないが、生活が豊かになったかどうかは大いに疑問である。

　考えるべきは、不要な消費を増やして、大量生産・大量消費を前提とする従来型の経済モデルに戻すことではなく、質素に暮らしながらも成立可能な21世紀型の新しい経済モデルを模索することではないか。

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　振り返って、私たちが生業としているコンピュータ関連出版業界の不況も深刻である。MACLIFEなどで知られるBNNの業務停止や、店頭公開廃止などを含むアスキーの大規模な経営再建などが発表されたことはご存知のとおりである。このように決定的な状態ではない出版社にしても、販売部数の低迷や広告売上の低下などにより、従来スタイルの出版活動を維持するのが困難になってきている。

　この原因の一端は、Webメディアの台頭にもある。インターネットのますますの普及により、わざわざ書店で雑誌などを買い求めなくても、ネットでの情報収集が可能になった（コンピュータ関連ではないが、写真週刊誌の草分けとして一時代を築いた『FOCUS』の休刊も、ネットの影響が大きかったと聞く）。印刷コストや書店の流通コストなどが不要なWebメディアは、ペーパー・メディアと比較すれば破格の低コストで情報を発信できる。インターネット接続とPCが不可欠なWebメディアは、当初はペーパー・メディアと直接の競合関係にはなかった。しかしインターネットの普及によって、両者が競合する局面は増える一方だ。コスト構造のみに着目すれば、この競争でWebメディアが圧倒的に優勢なのは明らかである。

　しかし、Webメディアの未来がバラ色かといえば、そうではない。収益源を実質的に広告のみに頼らざるをえない点は今も変わりないし、ネットバブル崩壊の影響で、その頼みの綱のネット広告売上も厳しさを増している。利用者への課金の可能性も含め、単純なバナー広告に依存しない収益モデルの確立が急がれている。ペーパー・メディアばかりでなく、今年はWebメディアが淘汰される1年にもなるだろう。

　安上がりでゴミも出ないのは結構だが、読者の期待に応え、信頼に足る情報を提供できるWeb主導メディアを維持することは本当に可能なのか？ 先に述べた21世紀型経済モデル探しの1つの局面がここにあるように思う。

（Windows Insiderガイド　小川誉久）

*都合により、2001年11月、12月分の編集後記をお休みしました。申し訳ありませんでした。

　編集後記

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