Insider's Eyeエンタープライズ・システム分野でよく耳にする「分かったようで分からない」4つのキーワード(2)デジタルアドバンテージ 小川 誉久2000/10/27 |
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平均故障時間と平均修復時間から算出される可用性(availability)
インターネットを利用したサーバ・サービスが注目を集めるようになって以来、最もよく耳にするようになったキーワードの1つが「可用性(アベイラビリティ、availability)」だろう。本来「availability」には「有効性」という意味があるが、日本語での訳語としては「可用性」を当てるのがもはや常識となった。ただし、「可用性」は広辞苑にも掲載されていない言葉で、つまりはコンピュータ業界得意の造語である。可用性が高いことを指して、「高可用性」などとして、コンピュータ・システムの長所を強調する言葉として使われることが多い。
可用性を一言で説明すれば、「システム全体をダウンさせることなく、継続稼働させる能力」ということになる。一定期間において、そのうちシステムがどの程度の割合で正常稼働しているかを示す数値として「稼働率」がある。さまざまな文献を見るにつけ、「可用性」という言葉は、この「稼働率」とかぎりなく同じような意味で使われるケースが少なくない(場合によっては、「99.99%の可用性」などと完全に混同されているケースも目にする)。厳密な定義はともかく、少なくとも意味的には、両者は同じようなものだと考えておけばよいだろう。
稼働率は、抽象的な概念ではなく、数式によって算出可能な値である。具体的には、システムの平均故障時間(MTTF:Mean Time To Failure)と平均修復時間(MTTR:Mean Time To Repair)を用いる。このうちMTTFは、システムが故障などによって停止するまでの平均時間を示すもので、たとえば、平均して6カ月に1回の割合でシステムが停止する可能性があるとすれば、このシステムのMTTFは6カ月ということになる。逆の見方をすれば、MTTFはシステムの平均連続稼働時間と考えることもできる。
一方のMTTRは、停止状態になったシステムを稼働状態に復旧するまでにかかる時間で、たとえば平均30分で復旧できるとすれば、MTTRは30分になる。
これらMTTFとMTTRの値を使用して、稼働率は以下の式から算出する。
稼働率 = MTTF/(MTTF+MTTR)
このように稼働率は、平均故障時間(平均連続稼働時間)を、平均故障時間と平均復旧時間を加えたもので割って求める。つまり、ある瞬間において、システムが正常な稼働状態にある確率に等しい。通常は100倍して、パーセント表示されることが多い。
たとえば前出の例(MTTF=6カ月=6×30日×24時間×60分=259200分、MTTR=30分)なら、稼働率の値は次のようになる。
稼働率 =259200/(259200+30)×100 = 99.98%
言うまでもなく、システムが正常に稼働する確率は高いほどよいので、この値は大きいほど優れたシステムということになる。稼働率と似た概念として、「信頼性(reliability)」があるが、こちらはシステムが障害を発生する頻度にのみ注目しており、MTTRは考慮されていない。
計算式から分かるとおり、稼働率を高めるには2つのポイントがある。1つは分子にあるMTTFの値を大きくすること。つまり、障害を起こすことなく、システムを連続稼働できる時間をできるだけ長くすることだ。もう一方のポイントは、分母にあるMTTRを小さくすること。つまり、万一障害が発生しても、素早く復旧してシステムを稼働させることである。
こうして算出された稼働率の値は、連続する「9」の数によってクラス分けされる。たとえば上の例(99.98)では、9の連続は3つまでなので、「3ナイン・クラス」ということになる。稼働率のクラスと、そこから逆算した年間停止時間をまとめると次のようになる(1年は365日として算出)。
クラス | 稼働率の値 | 年間停止時間 |
2ナイン | 99%〜99.8% | 3.7日〜17.5時間 |
3ナイン | 99.9%〜99.98% | 8.8時間〜1.8時間 |
4ナイン | 99.99%〜99.998% | 53分〜11分 |
5ナイン | 99.999% | 5.3分以下 |
稼働率クラスと年間停止時間の関係 |
ちなみに、マイクロソフトとパートナー企業が協業し、Windows 2000 Datacenter Serverを利用したシステム構築・運営サービスを行うWindows Datacenterプログラムでは、99.9%(3ナイン)以上の稼働率を保証するサービス・メニューが用意されている(Windows Datacenterプログラムに関するマイクロソフトのニュースリリース)。
.NET戦略とともに語られるようになったキーワード、アジリティ(agility)
4つ目のキーワードであるアジリティ(agility)は、「俊敏さ」、「鋭敏さ」といった意味の言葉である。くだんのMSCのオープニング・セッションでは、この「アジリティ」が大きく強調されていたため、前出の@ITニュースを始め、各Webニュース記事のタイトルなどにもこの文字が踊った。
サーバ・システムにおけるハードウェア寄りの領域で使われることが多いこれまでの3つのキーワードとは異なり、この「アジリティ」は、ERP(Enterprise Resource Planning)など、さらに上位のビジネス・ソフトウェア領域で数年前から耳にするようになった言葉だ。マイクロソフトは、自社の.NET戦略(特に時節柄、.NET Enterprise Servers製品群の話題とセットになることが多い)を語るうえで好んで使うようになった。英語では、「business agility」として使われている。意味的には、組織化、情報化が十分でない従来の情報システムを.NET Enterprise Serversによってアップグレードすれば、ビジネスがより「俊敏」になる。あるいは逆に、「ドッグ・イヤー」や「マウス・イヤー」などと、ビジネス環境の変化が加速度的にスピードを上げていく昨今、アジリティに欠ける従来の情報システムでは生き残っていけない、という意味もある。
MSCのデモンストレーションでは、部品商社と部品メーカーが、それぞれコミュニケーション手段を持たない独自の情報システムを使用し、人手に頼った電話とFAXによる「旧来の」受注処理システムと、BizTalk Server 2000を始めとする.NET Enterprise Servers製品群を用いてBtoBを構築した受注処理システムのアジリティ具合の対比を、分かりやすい再現映画によって紹介していた。まずは従来のシステムの場合、顧客先である某メーカーの担当者からの急ぎの部品納入を外出先で受けた部品商社の営業マンは、携帯電話とFAXを駆使して、自社在庫と部品メーカーの製造ラインを確認しようとする。しかし、自社の在庫管理システムを確認できる担当者は不在、部品メーカーの責任者も不在と踏んだり蹴ったりで、結局すべての処理を完了して顧客に返答するまでに5時間以上もかかってしまう。これに対し、.NET Enterprise ServersによってBtoBのコネクティビティが実現されている場合には、連絡を受けた外出先で颯爽(さっそう)とWindows CEマシンを取り出し、ここから自社の在庫や、部品メーカーのラインの状態を確認し、数分で発注処理と顧客への返答を終えるという具合だ。
要は、ユーザーの期待に応えるサービスを提供し続けるということ
以上、長々と込み入った話を続けてきた。しかし世の常として、内側に踏み込むと恐ろしく複雑なものでも、外側から見れば当たり前のことであったり、シンプルなことであったりするものだ。この例にならい、ユーザーの視点から今回のキーワードをまとめると、急速に変化・増大するユーザーのニーズにも素早く(アジリティ)、低コストで臨機応変に対応することが可能なシステムで(スケールアップ、スケールアウト)、ユーザーの期待に十分応えられる機能性と性能を持ったサービスを、24時間365日、停止することなく提供し続ける(スケールアウト、アベイラビリティ)、そんな情報システムを構築するということになるだろう。
いつでも、どこからでも、安心して使える便利なサービスを提供するための情報システム。こんな当たり前のようなシステムを、きちんと構築しようというのが、これらのキーワードが意味するところなのだ。
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