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■世論と特許を意識したMSの思惑
米司法省との独禁法訴訟以来、Microsoftは裁判が世論にどのような影響を及ぼすかという点を十分に承知している。特に、審理には必ず証拠開示の手続きがあり、それに伴い、過去何年間かのメールや戦略会議などの社内文書が公表される。さらにMicrosoftは、配当金を増やせば需要が高まり、低迷している同社の株価をてこ入れできるであろうにもかかわらず、配当金を増やす代わりに530億ドル以上の現金を保持している理由の1つとして、訴訟問題の不確実性を挙げている。こうした考えから、Microsoftは独禁法訴訟において可能な限りの和解を目指している。特にそうした和解を、業務慣行の変更ではなく、1回限りの和解金の支払いで実現することを目指している。
また今回の和解合意は、独禁法をめぐるMicrosoftと政府当局の交渉において、同社に有利に働くかもしれない。特にMicrosoftのMCPPプログラムをめぐっては、Sunが司法省と裁判長に対し、同プログラムの制限の多さについて苦情を申し立てた結果、Microsoftがプログラムの条件変更を余儀なくされたという経緯があった。今回の和解により、Sunもこのプログラムに参加することになるため、今後、そうした圧力はかからなくなるはずだ。同様に、Microsoftは欧州の独禁法訴訟で問題となっているすべての情報をSunにライセンス供与することに同意したため、控訴裁は、ECがMicrosoftに対してこの情報を一様なライセンス・プログラムを介して開示するよう命じる必要があるかどうかについて、検討し直すことになるだろう。
最後に、今回の和解合意は、過去の侵害問題を考慮から外し、Sunとの間で特許相互使用契約のフレームワークを確立するという意味で、Microsoftの特許ポートフォリオの強化に役立つはずだ。新しい収益源を求め、また特許侵害訴訟を有利に進めたいMicrosoftにとって、特許の重要性は増す一方だ。特許に対する同社の新たな姿勢は、デジタル著作権管理会社のIntertrustとの特許訴訟でも大きな役割を果たした。MicrosoftはSunとの和解からわずか2週間足らずで、Intertrustとの訴訟でも和解を達成している。
■Sunに求められる事業転換
SunのJavaプログラミング言語とアプリケーション・プラットフォームは、人気はあるものの、収益にはそれほど貢献していない。Java標準を実装するアプリケーションや開発ツールの販売では、ほかの会社(特にIBM)の方が成功しているからだ。
一方、ドットコム・ブームが終わり、企業がプロプライエタリなUNIXハードウェアから、よりコストの低いIntelベースのシステムへと移行するのに伴い、Sunの中核事業であるSPARCプロセッサをベースとしたハードウェアの販売は苦戦を強いられている。その結果、同社は過去12四半期のうち11四半期で赤字を計上している(同社はMicrosoftとの和解を発表した同日に、従業員3300人のレイオフと四半期決算での予想を上回る赤字を発表している)。
こうした現実に直面し、Sunはもはやプロプライエタリなハードウェアの専門ベンダとしてとどまり続けることはできないこと、もっとソフトウェアに焦点を当てなければならないことを認識した。そうした変化を強調するがごとく、マクネリ氏はMicrosoftとの和解を発表した同日に、Sunのソフトウェア部門責任者のジョナサン・シュワルツ(Jonathan Schwartz)氏を同社最高執行責任者(COO)兼社長に任命した。同社は、お金のかかるMicrosoftとの法的闘争を続けながらでは、こうした費用のかかる抜本的な事業改革を行うことはできなかった。そこでマクネリ氏は2003年秋にバルマー氏に電話をかけ、それをきっかけに今回の和解合意へとつながる話し合いが始まった。
和解内容が意味すること
MicrosoftとAOL Time Warnerの2003年の和解と同様、Sunとの和解合意の完全な意味は時間とともに徐々に明らかになっていくだろう。ただし、両社がすでに公表済みの情報からは、以下のような変化が予想される。
●サーバの相互運用性
Microsoftからライセンスを受けた情報を使って、SunのJava System Identity Serverは恐らく、Windowsドメイン・コントローラのすべての機能を実行できるようになり、SunのJava System Directory ServerはMicrosoftのActive Directoryとの間で、パスワードなどのID属性を交換できるようになる。続いて、両社のそのほかの製品、特にSunのサーバとWindows PC/サーバとの間でも相互運用性が提供されることになるだろう。
●標準をめぐる協力
SunとMicrosoftは標準をめぐり、しばしば衝突してきた。特に、Webを介して企業間でセキュリティ関連情報を交換する方法をめぐって、衝突が繰り返されてきた(WS-SecurityやWS-Federationなどの仕様は、当初、Microsoftが支持する一方でSunは支持していなかった)。今回の和解合意により、こうした衝突は終結し、そのほかの最新技術に関しても技術協力の道が開かれる。例えば、プロプライエタリなコンテンツを保護するためのデジタル著作権管理(DRM)技術などだ。シュワルツ氏は、DRM技術はSunにとって重要な分野だと強調している。
今後も残る激しい競争
休戦協定にかかわらず、SunとMicrosoftは今後も多くの分野、特にそれぞれの開発プラットフォーム(Javaと.NET)で対立することになるだろう。例えば、以下の分野には恐らく和解の影響は及びそうにない。
●JVMの相互運用性
シュワルツ氏によれば、両社のJVMの間で相互運用性を実現するための取り組みは進められていない。Microsoftは、恐らくJVMに関してはセキュリティ関連のアップデートをリリースするにとどめ、.NETでの相当技術となるCommon Language Runtime(CLR)の開発に集中することになるだろう。
●クロス言語のサポート
MicrosoftのC#言語はJ2EEでは当然サポートされそうにない。またMicrosoftは今後も、開発者がJavaコードをC#に変換するためのJava Conversion Language Assistant(JCLA)を推進し、.NET開発者がSunのAPIではなくMicrosoftのAPIでJava言語を使うためのJ#にはあまり重きを置かないだろう。
●開発ツール
今後も、Visual Studio .NETなどのMicrosoftツールではJ2EEアプリケーションは開発できない。
●Officeなどのデスクトップ・アプリケーション
Sunは、MicrosoftのOfficeスイートの対抗馬として、1999年に低価格な「StarOffice」の提供を開始し、2003年12月にはLinuxで動作するJavaベースのプロダクティビティ・アプリケーション・スイート「Java Desktop System」を発表した。今回の和解により、Sunがこれらの製品の提供を中止することはない。SunのCOOのシュワルツ氏は「当社は今後も戦略的であり続ける」と語っている。
しかし、StarOfficeはOfficeからそれほど多くの市場シェアを奪えずにいる。また多くの企業は、デスクトップでLinuxを使うことに対してほとんど興味を示していない。そのため、Sunはソフトウェアへの照準を高めつつも、従来どおりバックエンド分野での強みを生かし、デスクトップをめぐるMicrosoftとの競争は減速せざるを得ないかもしれない。
●OS
LinuxはSunとMicrosoft両方のサーバ売り上げに食い込んでいるが、今回の和解合意によって、このオープンソースOSに対する双方の姿勢が変わることはなさそうだ。
SunはSPARC搭載システムの市場にIntelベースの低価格なハードウェアが侵食しつつあることを認識しており、今後もIntelとAMDの両システム向けにSolarisの提供を続ける。その一方でサーバ・ソフトウェア(Java Enterprise System)のLinuxバージョンを開発し、Linuxの勢いにも乗じたい考えだ。ただし、Sunが自社のアプリケーション・ソフトウェアをWindowsに移植したり、WindowsのOEMとなったりすることはなさそうだ。
同様に、今回の和解合意はMicrosoftのLinuxに対するアプローチに変化をもたらすものでもない。Linuxは依然として、Microsoftの最大のライバルであり、同社の成長にとって最大の長期的な脅威でもある。現金注入と技術共有契約により、Sunがより成功の見込みの高いLinux製品を開発できるようになるという意味では、どちらかといえば、この和解によって、MicrosoftはSunのLinuxと一層直接的な競争関係に置かれることになるだろう。
参考資料
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『Directions on Microsoft日本語版』 2002年4月15日号の「SunとBe、Microsoftを相次ぎ提訴 反トラスト法違反訴訟の火の手が拡大」
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『Directions on Microsoft日本語版』 2004年1月22日号の「拡大するライセンス・ビジネス FATとClearTypeを巡る特許戦略」
- マイクロソフトとサンが包括提携をし、係争の和解に合意(マイクロソフト)
![]() 本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。『Directions on Microsoft 日本語版』は、同社のWebサイトより定期購読の申し込みができます。 |
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