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2005年、Microsoftが直面する10大課題

2005/01/26
Copyright (C) 2005, Redmond Communications Inc. and Mediaselect Inc.


本記事は、(株)メディアセレクトが発行する月刊誌『Directions on Microsoft日本語版』 2005年2月号 p.16の「2005年Microsoftの課題トップ10」を、許可を得て転載したものです。同誌に関する詳しい情報は、本記事の最後に掲載しています。

 「Directions on Microsoft誌」のアナリスト・チームは毎年この時期に、Microsoftが向こう12カ月とそれ以降にわたって取り組むべき重要な戦略課題のトップ10を発表している。Microsoftがこれらの課題を放置することになれば、25年以上に及ぶ同社の高度成長と収益拡大の道は閉ざされ、より俊敏な競争相手たちに成功への扉を開け放つことになりかねない。

1.明確な製品ロードマップの提示

Rob Helm、リサーチ担当ディレクタ

 Windows XP、Office、そしてExchangeを含むMicrosoft主力製品群のロードマップは、顧客やパートナーに正しい判断を行うための詳細な情報を示していない。彼らは、製品にいつどのような機能が期待できるかを明示した複数年にわたるロードマップを必要としている。それがなければ、確実性の高いトレーニング・スケジュールや導入計画を組むことができず、ソフトウェア保守サービスの複数年契約の判断も難しくなる。ソフトウェア開発者もMicrosoft関連の製品を計画するとき、そうしたロードマップが必要だ。投資家もまた、将来どのような分野で成長が見込めるかを判断するとき、製品ロードマップが必要になる。

「信頼できるロードマップがなければ、Microsoftや同社の製品への投資は難しくなり、リスクが高まる。2005年はさらに多くのMicrosoft製品グループがWindowsサーバ部門のリードのもとに、2008年までの主要な製品リリースの明確なロードマップを公開しなければならない」

 
2.No.1になれない買収戦略の見直し
Chris Alliegro、ビジネス・アプリケーション主任アナリスト

 最近行われた主要な買収は、いずれもMicrosoftに新たな収益をもたらすには至っていない。買収したGreat PlainsとNavisionは、2010年までに100億ドル・ビジネスの核になるはずだった。ところが、それらを取り込んだMicrosoft Business Solutions(MBS)部門はいまだに採算が取れず、2010年までに達成が見込まれる収益も30億ドル以下だ。仮想化ソフトウェアのConnectix(現Microsoft Virtual Server)やWeb会議サービスのPlaceWare(現Live Meeting)の買収にしても、市場シェア第2位の企業であり、それ故買収金額は比較的抑えられたが、現在も2番手の位置に甘んじている。2003年に買収したアンチウイルス・ベンダのGeCADもまた、いまだだに製品、利益とも生み出していない。

「2005年度の業績いかんで、MBSが正しい戦略や販売チャネル、新しい顧客を呼び寄せる魅力的な製品ラインを選択したかどうかが明白になるはずだ。今年はMicrosoftにとっても、今日のような経済状況の中で、大規模な買収を成功させる能力があることを証明するチャンスでもある」

 
3.継続的なセキュリティ対策への取り組み
Michael Cherry、Windows主任アナリスト

 セキュリティは常にトップ10リストの上位に位置付けられる。だが、コードの徹底的な見直しなど、Microsoftの賞賛に値する努力にもかかわらず、セキュリティ問題はいまだに解決していない。事実、不心得なやからの悪行は後を絶たず、今日、インターネットに接続するときは、まず最新のService Packとセキュリティ・パッチ、アンチウイルス・プログラム、アンチスパイウェア・プログラムで保護されたPCを用意し、その上で攻撃を回避する方法を学ばなければならない。Microsoftがこの問題に直接責任を負う面は少ないかもしれない。だが、もし問題をやり過ごせば、最大の損失を被るのは同社だ。一方、Microsoftはこの問題を解決する上で、ほかのベンダより有利なポジションにいることも間違いない。今後は、どのような取り組みが有効だろう? Windowsの信頼性をさらに高め、電子メールの送り手の認証を簡単にできるようにほかのベンダと標準化で協力することは間違いなく重要だ。

「セキュリティ問題がWindowsクライアントの管理コストを上昇させ、シンクライアントという選択肢をより現実的なものとしている。Microsoftは今年、企業のPCを強化するという約束を果たさなければならない。将来バージョンの開発に力を入れ、現行バージョンのセキュリティ強化をなおざりにするようなことがあってはならない」

 
4.PCをホーム・エンターテイメントのハブに
Matt Rosoff、コンシューマ製品およびサービス主任アナリスト

 MicrosoftはWindows PCをホーム・エンターテイメントのハブとして確立することで、コンシューマ市場におけるPCの販売拡大を期待している。同社は2004年、いくつか重要な製品を市場投入した。音楽と動画を記録、管理する低価格なMedia Center PC、家庭内に音楽や映像を配信、再生できる新しいソフトウェアとハードウェア、そしてMSNミュージック・ストアを始めとするダウンロード専門の多彩なオンライン・ミュージック・ストア群だ。しかし、Microsoftはいまだに競合他社、特にAppleの後塵を拝する居心地の悪い位置にいる。

「AppleのiPodとiTunes Music Storeは、市場で圧倒的なリードを確立した。彼らの成功は、Microsoftのデジタル・メディア計画全体にとって大きな脅威となっている。2005年、Microsoftとデジタル・メディア・パートナー各社は、使いやすさとスタイルでAppleと同等か、それ以上のものを提供しなければ、この重要な市場の主導権をAppleに与えてしまうだろう」

 
5.保守契約更新による収益の維持
Paul DeGroot、セールス、サポート、ライセンシング、パートナー戦略主任アナリスト

 一般に企業は、WindowsやOfficeの最新バージョンを利用できるソフトウェア保守契約を結んでいるが、それでも古いバージョンを利用し続けるユーザーは少なくない。彼らは“これで十分”と考えているからだ。そうした状況にあって、Microsoftが企業に保守契約を更新するよう説得することは容易ではない。保守契約による収益を維持するためには、新しいバージョンの導入にさまざまなメリットがあることを企業に理解してもらうことが必要だ。

「WindowsやOffice、そのほかの重要な製品は2000年に成熟期を迎えた、と多くの顧客が考えている。2005年、Microsoftはそうした顧客に対して、新しいバージョンの導入や保守契約がいかに有利であるかを具体的に示す必要がある」

 
6.オープンソースの現実的な脅威の認識
Greg DeMichillie、開発プラットフォームおよびツール主任アナリスト

 フリーで安価なオープンソース・ソフトウェアは、Microsoftにとってシリアスな競争相手となっている。サーバ分野では、Windows Server 2003で計画されている管理および導入ツールの強化によって、重要なシステム管理における優位性を強く示さなければならない。またデスクトップ分野では、もはや市場独占が磐石のものではなくなったと認識すべきだ。Internet Explorerを侵食するFirefox、OpenOffice.org、そしてLinuxと、ユーザーの前にはデスクトップの新しい選択肢が浮上しつつある。Microsoftは柔軟で魅力的な価格体系を検討し、Linuxに追いつかれないようWindowsやOfficeの開発スケジュールを急がなければならない。

「Firefoxは、オープンソース製品にもMicrosoftから市場シェアを奪い返すことが可能なことを示した。Firefoxなどのコミュニティ・プロジェクトは、嫌気性の有機体だ。Netscapeのときのように酸素供給をカットして締め上げることはできない。Microsoftは2005年、Internet ExplorerやOfficeのような成熟した製品についても、積極的に機能強化を進めていく姿勢を示すことで、コミュニティ・デスクトップ製品に対する優位性を維持しなければならない」

 
7.Longhornへの開発者の呼び込み
Rob Helm、リサーチ・ディレクタ

 MicrosoftのWindowsデスクトップ・ビジネスの基本的な強みは、Windows PC用にアプリケーションをコーディングする巨大なソフトウェア開発者の一群が存在することだ。しかしデスクトップ・ソフトウェア開発者は、アプリケーションの信頼性や安全性が向上するにもかかわらず、同社の最新ソフトウェア開発プラットフォーム、.NET Frameworkへの移行に消極的だ。“Longhorn”のリリースは、デスクトップ開発に新しい基盤を提供するものになるとみられているが、プロジェクトの進行は遅れ、ファイル・システムなどの重要コンポーネントの将来も不透明だ。Microsoftは、新しい技術の投入に関して柔軟で説得力のある計画を示すとともに、デスクトップに幅広く適用し、開発者の意欲を引き出して、彼らがJavaやシンクライアントWebアプリケーションの開発に向かわないようにしなければならない。

「Microsoftは秋に予定される2005 Professional Developers Conference(PDC)で、開発者たちにLonghornの新技術がデスクトップ・ソフトウェアの開発負担を軽減し、ユーザーにとっても利益になるということを説得する必要がある。同イベントは、Longhornがデスクトップ分野でLinuxやJavaよりどれくらい先行しているか、同技術でデスクトップ・アプリケーションを開発することがどれほど効率的かを開発者に示す絶好のチャンスとなるだろう」

 
8.Xbox 2のリリースで黒字化に
Matt Rosoff、コンシューマ製品およびサービス主任アナリスト

 Microsoftはゲーム機市場を同社とソニーの2社間のレースにしようとした。だが現実には第3の会社が存在する。任天堂はMicrosoftの期待に反し、市場から消えることはなかった。そしてXboxフリークになる可能性のある多くのユーザーが、いま任天堂の新しい携帯ゲーム機のボタンを叩いている。Microsoftのゲーム・アドベンチャーは、この数年間で約20億ドルの累積赤字を生み出した。もし新しいコンソール、Xbox 2がソニーの次世代機に勝つことができれば、その状況は一変するだろう。しかし、いずれにしてもCFO(最高財務責任者)のジョン・コナーズ(John Connors)氏が望むように、2007年までには黒字に転換しなければならない。

「2005年にソニーが新機種を投入するなら、Xbox 2もそれに追随せざるを得ない。そしてMicrosoftは製造コストを下げ、開発者を新しいプラットフォームへ移行させる強力な施策が必要になる。そうしなければ、この市場で利益を生むのは難しい」

 
9.64bit対応OSの確実な投入
Paul DeGroot、セールス、サポート、ライセンシング、パートナー戦略主任アナリスト

 Microsoftの最も収益性の高い製品、Windowsクライアントの売り上げは、PCの売り上げとほぼ連動する。まもなく最新のPCは、64bitプロセッサを搭載するようになるだろう。新しいハードウェアに組み込まれる64bit版のWindowsは、特別な価格設定になる可能性もあり、その売り上げはMicrosoftの収益拡大に少なからず寄与するはずだ。今日、ほとんどのユーザーは64bitプロセッシングを必要としていない。しかし、現在入手し得る最高のパフォーマンスを求めるユーザー(ゲーマー、あるいはシミュレーションを実行したり、大量のデータを分析したりするリサーチャー)や、今後4、5年は現役として使える機種を購入したいと考えるユーザーは、遅かれ早かれ64bitにアップグレードし、MicrosoftのOS売り上げに貢献することになるだろう。

「64bitシステムへの移行は、PCの買い替えサイクルを加速する。それは、Microsoftの最も収益性の高いビジネスの売り上げを伸ばす単独要因としては最大のものだ。同社は2005年、パワーユーザーにアップグレードを促す64bit Windowsを間違いなく出荷しなければならない」

 
10.社会的地位にふさわしい振る舞い
Michael Cherry

 米司法省との反トラスト法訴訟は結局、Microsoftに莫大な罰金を強要する結果には至らなかった。だが、同社は今後も多額の和解金を要求する訴訟に悩まされ続けるだろう。Microsoftがそれなりの規模と存在感を追い求めるとすれば、これまでのようななり振り構わぬやり方を改めなければならない。今後は、顧客やパートナー、競合他社との関係業務に携わる社員に、細心の注意を払って明確に記述された厳格なルールを順守するよう求めなければならない。特に、知的財産や企業秘密のやりとりが含まれるケースでは、そうしたことが重要となる。もしそれらを怠れば、明日には数十億ドルの和解金支払いとなって降りかかってくるだろう。

「競合他社や前のパートナーから起こされる訴訟は、Microsoftの名声を傷つけるだけでなく、収益にも悪影響を及ぼす。Microsoftは2005年、社員に対して、単に法律の条文を守るだけでなく、同社の規模や社会的地位にふさわしい高い規範に従うように求めなければならない」

 
Directions on Microsoft日本語版
本記事は、(株)メディアセレクトが発行するマイクロソフト技術戦略情報誌「Directions on Microsoft日本語版」から、同社の許可を得て内容を転載したものです。『Directions on Microsoft 日本語版』は、同社のWebサイトより定期購読の申し込みができます。

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