Vistaの地平
第4回 TCO抑制に向けた各種運用管理機能が強化されたVista

2.Vistaの展開支援機能

デジタルアドバンテージ 小川 誉久
2007/02/09

 新機能追加や機能強化がなされた新OSの登場はいいのだが、新OSの導入・展開作業は管理者にとって頭の痛い問題である。特に、多数のクライアントPCに組織的にOSを展開し、必要な初期設定などを実施するには多大な工数がかかる。当然ながら、新OSによって得られる利益が、展開コストより大きくなければ、企業としてはVistaを組織展開する価値がない。

 従来のXPでも展開支援機能は提供されていたが、Vistaでは、OSのコンポーネント化/モジュール化が徹底され、展開用イメージの管理などを大幅に容易にするとともに、OSの再構成やイメージング技術の刷新、新サービス/新ツールの提供など、抜本的な展開支援機能強化が図られている。

より徹底されたOSのモジュール化とコンポーネント化

 システム・トラブル対応などを困難にする要因の1つとして、Windows OSのシステム構成の複雑化がある。OSの多機能化とシステムの複雑化は両刃であるが、OSのエディション(ホームユース向けパッケージか、ビジネス向けパッケージか)やクライアントの追加コンポーネント設定、言語設定などにより、Windowsシステムはクライアントごとに微妙に異なってくる。こうした違いは、ときとして障害の再現性に違いをもたらすことになる(こちらのPCでは問題が起こるが、別のPCでは起こらないという状況が発生する)。このように再現性がまちまちな問題は、障害対策も原因究明も非常に困難である。

 XPにおいてもモジュール化が意識されていなかったわけではないが、完全性はあまり高いとはいえなかった。これに対しVistaでは、より厳密なOSのモジュール化とコンポーネント化が進められた。これにより、展開対象の環境によらず、共通のコンポーネントが使われるようになるため、展開するプラットフォームのカスタマイズや、展開前のテストが容易になる。

 第1回で述べたとおり、マイクロソフトは、用途や規模などに応じて、複数のエディションのVista製品をラインアップしているが、これらの構成にあたっては、Vistaのコア機能を構成する共通コンポーネント群に対し、エディションおよび対応言語ごとに必要なコンポーネントを組み合わせている。つまり、コアとなる部分に対してさまざまなコンポーネントを追加・変更することによって、複数のエディションを1つのインストール・イメージで実現している。

 なお、ビジネス向けパッケージの上位版であるWindows Vista Enterpriseでは、Vistaの対応言語(36言語)すべてをサポート可能なMUI(Multi Language User Interface)がサポートされており、1つのインストール・イメージから、あらゆる言語に対応したVistaクライアントをインストールできるようにしている。必要なら、インストール後に任意の言語環境に切り替えることもできる。異なる言語設定でOSを展開するような国際企業にとっては、インストール・イメージを共通化できるため、管理や展開作業をXPのそれよりも大幅に軽減できるだろう。

複数のインストール・イメージを1ファイルとして保持できるWIM

 クライアントOSの組織的な展開作業では、展開用のインストール・イメージ(マスタとなるファイル)をあらかじめ作成しておき、それを複数のコンピュータにコピー、展開してインストールするのが一般的だ。インストール・イメージは、元となるコンピュータに実際にOSをインストールし、各種の初期設定を行い、必要なツールや業務アプリケーションなどを追加インストールしてから、ディスク・イメージをキャプチャして作成する。

 Windows Server 2003のRIS(リモート・インストール・サービス)や市販のディスク・イメージ・コピー・ツールなどを利用すれば、こうしたインストール・イメージを利用した展開は従来から可能だったが、イメージ・ファイルの取り扱いに問題があった。複数のクライアントPCへの展開といっても、コンピュータによって使用するデバイス(デバイス・ドライバ)に違いがあったり、使用言語設定に違いがあったりする場合がある。従来のインストール・イメージは、基本的にディスク・イメージをそのまま保存したバイナリ形式のファイルになっており、イメージ内の一部だけを変更することは簡単ではない。従って少しでも構成が違う場合には、ほとんどの部分が共通であっても、まるまる別個のイメージを作成しなければならなかった。

 これに対しVistaでは、内部に含まれるファイルに対するファイル単位での操作や、複数の異なるインストール・イメージを1つのイメージ・ファイルとして格納可能な新イメージ・フォーマット、WIM(Windows Imaging Format)がサポートされるようになった。実際、Windows Vistaのインストール・メディア(DVD-ROM)も、このWIM形式のファイルを利用して、異なるエディション用のインストール・イメージを1ファイルに収録している(Install.WIMファイル。ただし32bit用と64bit用は異なる)。どのVistaエディションがインストールされるかは、インストール時に決定される。

 WIMは、ソフトウェア配布などのシステム管理支援ソフトウェアSMS 2003 OSD Feature Pack(Systems Management Server 2003 Operating System Deployment Feature Pack)で初めて導入されたイメージ・ファイル形式で、これがVistaで標準サポートされるようになったものだ。

 いま述べたとおり、WIMの大きな特長は、内部に含まれるファイルを、ファイル単位で操作可能なイメージ・ファイル形式であることだ。ディスクのバイナリ・イメージをそのまま保存するようなイメージング・ツールと違い、ファイルとして保存・展開するので、任意のファイル・システムやディスク・ボリューム上に展開できるという特徴がある。またWIM対応のツール(すぐ次で述べるimagexコマンド)を使えば、WIMファイルをドライブとしてマウントして、イメージ・ファイル内部のファイルを通常のディスク・ファイル・システムと同様に操作することができる。これにより、すでに作成したイメージ・ファイルの一部だけを変更して、新しいイメージ・ファイルとして利用するなどが可能になる。

 WIMの第2の特長は、同一ファイルの単一化と圧縮をサポートし、複数のインストール・イメージをコンパクトに収納できるようにしたことだ。すでに述べたとおり、OSのインストール・イメージを複数作成しなければならない場合でも、OSのコア・ファイルのほとんどは共通している。WIMが登場するまでは、ごく一部が異なるだけで、ほとんどは共通しているにもかかわらず、異なるイメージ・ファイルを個別に作成し、ハードディスクなどを無駄に消費しなければならなかった。

 これに対してWIMでは、異なるイメージ・セットを収録する場合でも、同一のファイルは単一化してWIMファイル内部に保存できるようにした。つまりWIMでは、複数種類のイメージ・セットを保存しても、共通ファイルは1つ分の領域しか占有しない。またWIMには圧縮機能もあり、ファイル・サイズをさらに縮小できるようにしている。

 マイクロソフトは、WIMイメージ・ファイルを操作するAPIも提供している。このAPIを利用すれば、サードパーティ製ソフトウェアがWIMイメージを操作することもできる。将来的には、多くのシステム管理製品などがWIMをサポートするようになるだろう。

WIM管理ツール、WAIKを無償提供

 マイクロソフトは、WIMを利用した展開支援用として、Windows自動インストール・キット(WAIK:Windows Automated Installation Kit)と呼ばれるツールをインターネットで無償提供している。このWAIKは、Windows XP SP2、Windows Server 2003 SP1、Windows Vistaにインストールすることができる(ただしインストールにあたっては、あらかじめMSXML 6.0パーサ、.NET Framework 2.0がインストールされている必要がある。これらについてもダウンロード・イメージ内で提供されている)。

 このWAIKには、以下のツールがパッケージ化されている。

ツール 内容
ImageXコマンド WIM形式のイメージのキャプチャ、WIMイメージ・ファイルの編集などを可能にするコマンドライン・ツール
WinPE Windows Preinstallation Environment。コンピュータへのOSのインストール時などに、最初に起動させるミニ・バージョンのWindows OS。Win32ベースのAPIを備えている
Windows SIM Windows System Image Manager。WDSで使用するXMLベースのアンサー・ファイルを編集するためのツール。Vistaインストール時のカスタム設定などをアンサー・ファイルで行う
WDS Windows Deployment Services。インストール・イメージを配布するサーバ用サービス。従来のWindows Server 2003のRIS(Remote Install Services)の後継

 ImageXコマンドは、展開用のイメージをコンピュータからキャプチャしてWIM形式のファイルに保存したり、WIM形式のファイルをドライブにマウントして、イメージ・ファイルの編集などを可能にしたりするコマンドライン・ツールである。

 WinPE(Windows Preinstallation Environment)は、OSのインストールなど、特別な用途向けに作成された起動可能なミニWindows OSだ。Win32ベースのAPIも備えている。OSインストール時以外でも、トラブル対応やシステムのリカバリなど、OSが通常に起動しない場合にWinPEを活用することもできる。

 Windows SIMは、WDSで使用するアンサー・ファイルを編集するGUIツールである。インストール時のカスタマイズなどは、このアンサー・ファイルを利用することで、リモートでの無人インストールが可能になる。従来のRISでは、複数のファイル(Unattend.txt、WinBom.ini、Sysprep.infなど)を使用してインストールのカスタマイズを行う必要があったが、WDSのアンサー・ファイルでは、XMLベースの応答ファイルとしてひとまとめにされた。

Windows System Image Manager
自動展開時、コンピュータに対するカスタム設定などを行うために使うアンサーファイルを編集するためのツール。

 WDSは、WIM形式のイメージをクライアント側に展開するサーバ向けのツール群である。展開用サーバの管理、OSイメージの管理、クライアント・コンピュータのアカウント管理機能などを備える。従来のWindows Server 2003 RISの後継にあたる。

 このようにVistaでは、OSインストール・イメージのパッケージ化や管理、無人インストール時のカスタマイズ方法などが刷新され、より効率的かつ容易にクライアントへのOS展開が可能になった。Vistaの大量展開を検討しているなら、さっそくWAIKをダウンロードして、付属ドキュメントなどに目を通す必要があるだろう。


 INDEX
  Vistaの地平
  第4回 TCO抑制に向けた各種運用管理機能が強化されたVista
    1.管理可能な項目が大幅に増加されたグループ・ポリシー
  2.Vistaの展開支援機能
    3.TCP/IPスタックの刷新とツール強化
 
 「 Vistaの地平 」


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