顧客調査から最適価格を導き出す方法とは?
2006/10/17
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開発からマーケティング、セールスまで、製品全体に責任を負うブランドマネージャのような方なら実感としてお分かりになると思いますが、「新製品の販売価格をいくらに決めたらいいのか」というのは最も頭の痛い問題の1つですね。
販売価格の決め方には大きくは2つあります。
1つは自社の利益確保しか考えない方法です。これは「コストプラス方式」と呼ばれるものです。例えば、製品1個作るのにコストが「○○円」掛かるとして、それにうちの利益は「□□円」欲しいからその分上乗せして、販売価格は「○○(コスト)+□□(利益)円」だ──とまあこんな決め方です。単純明快。これで売れれば楽ですが、コストプラス方式は競合製品の価格や対象顧客の金銭感覚を無視しています。もし設定した価格が高過ぎたら、まったく売れないこともあり得ますね。従って、「コストプラス方式」は、価格が高くても、代替できる製品・サービスがないような場合(公共事業の水道、電気などの独占的市場)にしか利用できません。
一方、競合や顧客、つまり「市場」(マーケット)を意識して価格を設定する方法があります。「マーケットプライス方式」です。例えば、すでに類似の競合製品が出回っているのなら、その価格と同じ、またはさらに安い価格設定にします。ただ、競合製品の価格が必ずしも顧客が望んでいる価格とは限りません。大幅に安くする必要があるかもしれないし、逆に多少高くても売れるかもしれません。価格は安ければ安いほどいいというわけではなく、安過ぎると品質は大丈夫だろうかという不安を逆に与えてしまうことがあります。また、価格が高いことは、それだけ品質の優れた商品であるというイメージにつながることもありますから、競合製品より高くても売れるということが起きるわけです(ファッションブランドはその典型的な例です)。
でも、類似製品のない画期的な新製品だったら、参考にできる製品がないので困りますね。しかも、最近は製品の基本的な特徴(性能、機能など)では製品差別化が難しいため、有名タレントが監修したとか、一流のデザイナーがデザインしたといった情報的な「付加価値」を与えられた製品が増えています。こうした製品になると、価格決めの基準があいまいですので、他社の類似製品の価格を基に決めるのは難しくなります。
そこで、今回ご紹介するのは、顧客調査に基づいて価格設定を行う方法です。
専門的には「価格感度分析」(PSM:Price Sensitivity Measurement)と呼ばれる分析方法です。名前は仰々しいですが、PSMのために必要な調査はシンプルなものですし、分析もExcelで簡単に行うことができます。
PSMのための顧客調査
PSMを行うために必要なデータを収集するため、販売したい製品のターゲット顧客を対象にアンケート調査を行います。まず、商品の特徴などを詳しく説明した後、次の4つの質問に答えてもらいます。
- この製品が安いと思い始める価格はいくらからですか?
- この製品が高いと思い始める価格はいくらからですか?
- この製品は高過ぎるので買わないと感じる価格はいくらですか?
- この製品は安過ぎるので買わないと感じる価格はいくらですか?
この調査は、いまならインターネット調査を利用するのが便利ですね。対象製品の特徴を写真、音声、動画などを駆使して十分に伝えることができるので、より信頼性の高い回答が得られます。郵送調査などと比較して、調査費用も安上がりです。
PSMの実施方法
上記アンケート調査でデータが収集できたら早速分析です。
■表の作成
4つの設問を行に、価格を列に置いて下表のような形でExcelに展開します。なお、これはあるデザイナーがデザインした高級感のある「デザイナー文房具」について、ターゲット顧客100人に聞いたという設定の架空の調査データです。
価格も分かりやすさのために100円刻みにしてあります。対象商品によっては、10円刻みや1円刻みと、より細かい単位で聞いても、もちろんOKです。
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サンプルデータ |
各セルの数字は、累積回答件数です。
「高いと思い始める」「高過ぎるので買わない」の行については、[安い方から高い方]へ数字を累積した数字にします。逆に、「安いと思い始める」「安過ぎるので買わない」の行は、[高い方から安い方]へ数字を累積した数字にします。当調査の回答者数は100人ですから、累積回答件数は最大で100件となります。
この数字の見方ですが、例えばこのデザイナー文房具を高いと思い始める人は、400円で5人、500円で24人、600円で55人と増えていくということを意味しています。。
■グラフの作成
さらに、これをヨコ折れ線グラフにします。上記のExcel表を範囲指定し、メニューアイコンから「グラフウィザード」をクリック、グラフの種類は、「折れ線」の標準形式(折れ線グラフ - 時間や項目によるデータの傾向を示します)を選択します。
画面1 グラフウィザード |
すると次のようなグラフができます。
画面2 完成したグラフ |
4つの折れ線が描かれていますが、交差しているところが4カ所ありますね。このうち、A、B、Cで示した交点が価格設定の目安を提供してくれます。
- A:下限価格
- これ以上安いと売れないと考えられる価格。今回の結果では400円くらいです。
「高いと思い始める」(グリーン)と「安過ぎるので買わない」(ピンク)の交点。 - B:最適価格
- 今回の調査結果から、最適と考えられる価格。500円くらいです。
「高過ぎて買わない」(ブルー)と「安過ぎるので買わない」(ピンク)の交点。 - C:上限価格
- これ以上高いと売れないと考えられる価格。600円くらいです。
「安いと思い始める」(オレンジ)と「高過ぎるので買わない」(ブルー)。
※ | なお、もう1つの交点は「実勢価格」(実際に売れていると考えられる価格)ですが、これは価格決めにはあまり使いません。 |
さてPSMの結果、最適価格は500円、下限価格400円、上限価格600円くらいということが分かりましたので、価格設定はこの数字を踏まえて行います。
最適価格が最も売れる可能性が高い数字ではありますが、自社としてはもう少し利益を取りたいと考えるなら、600円に近い数字、逆に利益より販売個数を増やしたいとか、シェア拡大が優先なら400円寄りの価格で決めることになります。
PSMは、データを集めるためにアンケート調査をする手間はあるものの、価格決めの基準となる数字を簡単な処理で得ることのできる分析方法です。ぜひお試しください。
1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける。
顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。
「ビジネスソフト ヒント×テクニック」 − INDEXページへ |
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