ビジネスソフト ヒント×テクニック
マーケティング


LTV(顧客生涯価値)を実際に求める方法とは?

Sharpmind Inc.
松尾 順

2006/11/7

CRMではLTV(顧客生涯価値)が大切だという。実際にLTVはどのように求め、どのような点を注意してマーケティング活動を行っていけばよいのだろうか?

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 CRM(Customer Relationship Management)がマーケティングのキーワードになって、10年近くたちます。CRMは既存客との良好な関係性を維持することによって、収益性を高めることが最大の目的です。つまり、新規客を増やすだけでなく、既存客からの収益を最大化しようという考え方です。

 CRMを推進するうえで、既存客からの収益を上げるための成果指標として利用されるのが、LTV(顧客生涯価値)です。LTVとは、1人1人の顧客がある製品や企業に対して付き合っている間に支払う金額合計から、その顧客を獲得・維持するための費用合計を差し引いた「累積利益額」です。つまり企業から見て、ある顧客がその企業と取引している間にどれだけの価値(利益)をもたらしてくれるかを測定する、長期的な視点での指標がLTVです。

 例えば、山田というお客さんが数年ごとにT社製自動車5台を乗りつぶし、または買い換えているとします。1台当たりの平均購入金額が200万円だったとすると、山田さんがT社の自動車に支払った金額合計は1000万円となりますね。一方、T社が、山田さんという顧客を獲得し、維持──つまり買い換えてもらうために必要としたさまざまなコスト(製造費や営業費など)の合計が800万円だったとすると、山田さんのLTVは200万円(1000万円−800万円)というわけです。

 CRMでは、LTVを最大化するように企業活動をコントロールすることが求められます。上記の例でいえば、Aさんが他社に浮気をしないでずっとT社製の自動車に買い替えてもらえるために必要なマーケティング活動(顧客維持のための活動)を実施するということです。一方で、そのマーケティング活動にいくらでも費用を掛けていいわけではありませんから、必要な費用を適切に管理しなければなりません。

LTVの算出方法

 では、具体的に「LTV」の算出方法を見ていきましょう。

 LTVは理屈のうえでは、顧客1人1人個別に算出するように定義されていますが、実務レベルでは顧客全体をベースにして求めます。というのも、現実に1人1人の購買金額と顧客費用を計算するのは不可能だからです(高額商品であれば購買金額は集計できるかもしれませんが、費用を配賦するのは困難です)。

 下の表は、ある会社のLTVを算出したExcelシート(数値はサンプル)です。

画面1 LTVの算出
リピート顧客数=新規顧客数×顧客維持率
顧客収入=顧客単価×リピート顧客数
顧客維持費用=新規またはリピート顧客数×1人当たり顧客維持費用
単年度利益=顧客収入−顧客維持費用
初期投資額=初年度の顧客を獲得するために投下した費用
顧客生涯価値(LTV)合計=単年度利益の累積金額
1人当たりLTV=LTV合計−初年度新規顧客数

 ここでは、1年目に獲得した新規顧客の5年目までのLTVを計算したものです。元のデータは、顧客データベースから、1年目の新規顧客の5年間の顧客単価や収入、顧客維持費用の数字を抽出したという前提です。

LTVの読み解き方

 さて、この表では1年目に新規に顧客になった方は1000人です。顧客維持率は、初年度がもっとも低く50%、以降は、顧客維持率は向上し、5年目は前年の顧客の80%がリピートしていて147人残っています。逆に見ると、5年前と比べると、853人が離れてしまったということです。

 1年目に戻って、この年の総売り上げは、顧客単価が2万円ですから、2000万円ですね。顧客維持費用は合計で900万円掛かっています。したがって、1年目の単年度利益は1100万円です。ただし、この年は、新規顧客1000人を獲得するための費用、1000万円が「初期投資額」として別途掛かっていますから、これを引くと初年度のLTVは1人当たりで見るとわずか1000円に過ぎません。

 しかし、2年目以降は、顧客数は減少していくものの、顧客単価も若干ながら増加しています。一方で1人当たり顧客維持費用も多少減り、毎年、相応の利益を上げていますね。

 さてLTVは、単年度利益の累積金額です。表の最下行「1人当たりLTV」は、LTVを1000人で割ったものになっています。1年目の新規顧客数1000人を分母として、2年目以降も全体の平均値を算出するわけです(つまり、5年目まで1000人が維持できていると仮定して、1人当たりいくらのLTVになるのかを算出しているといえます)。

 表を見ると、5年目の「1人当たりLTV」は約2万円です。つまり、この会社では自社顧客は5年間で1人当たり2万円の価値(利益)を生み出してくれているということになります。1年目の1人当たりのLTV(利益)が1000円に過ぎなかったのと比較してみてください。

 LTVを算出すると、いかに既存顧客を大切にすることが有効であるか、ということが数字で確認できますね。

 前述したように、CRMではこのLTVを成果指標として用いて、LTVを最大化できるようにマーケティング活動をコントロールします。LTVを最大化する1つの手は「顧客維持率」を上げることですが、そのためには顧客サービスを手厚くすることが必要かもしれません。すると、顧客維持コストが上昇してしまいます。結果として、顧客維持率の向上によって顧客収入が増加しても、同時に顧客維持費用が上昇したために、利益額が大きく減ってしまい、LTVが低下することもあり得ます。従って、この表の中では、顧客維持率、顧客単価、1人当たり顧客維持費用などの相互の関連性を注意深く見ながら、LTVを高めることが要求されるというわけです。

 なお、この表は単純化したもので、顧客収入、顧客維持費用については各社の収入、費用項目に応じて細分化してください。

 より詳しい顧客生涯価値の計算方法については、次の文献が参考になります。

参考書籍

筆者プロフィール
松尾 順(まつお じゅん)
1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける。
顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。

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