IFRS最前線(5)
IFRS先行企業・丸紅「IFRSは経営効率化のチャンスだ」
林恭子
ダイヤモンド・オンライン
2010/6/24
総合商社大手の丸紅がIFRS強制適用を前に、「IFRSタスクフォース」を経理部内に設置し、2013年度のIFRS適用を目指している。早期適用を進める理由とメリットについて、丸紅・榎執行役員に話を聞いた(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年01月21日)。
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――IFRSの適用は、単に会計基準の変更だけに留まらない。たとえば、「収益認識基準」の変更に際しては、各事業部門やお客様との調整も必要だと考えられる。これらの調整はいつ頃から行なっていくのか。
日本では、ほとんどの会社が「出荷基準」をとっているので、現在はこれを修正して決算している状況にある。日本の収益認識基準が変更されると、本社の単独決算や日本にある各事業会社への影響は大きい。これについては、来期以降検討していく。ただ、輸出・輸入などの貿易取引に関しては、それほど影響を被ることはないと考えている。
システムに関しては、営業請求書などを発行する営業事務において若干の修正が必要だ。とはいうものの、どの時点で売り上げを計上するかというマイナーな手直しで済む見通しであり、引き渡しのデータが把握できるような修正が必要になる程度ではないだろうか。
早期適用でコストセーブ!
「タイムリーな経営判断」も可能に
――このような早い段階で、IFRS適用に向けて動いている理由は何か?
「経営管理」という面で、早期適用するメリットが大きいと考えているからだ。
1つめのメリットは、決算業務の効率化が図れる点だ。当社の連結対象となる会社の約半分は、すでにIFRSを採用済み、ないしは採用方針を示している国にある。米国を入れると約3分の2、日本を含めればほぼ100%がIFRS適用会社だ。そうした環境になれば、連結財務諸表をIFRSでつくった方が、修正や調整が不要になる。決算業務の効率化を考えれば、早く導入するメリットは大きい。将来的には、かなり精度が高い月次連結決算ができるかもしれない。
もう1つのメリットは、タイムリーな経営判断が可能になる点だ。IFRSを適用することで、単一のものさしで各事業会社の財務状況を比較できる。これまで必要だった財務諸表の修正や調整をすることなく、タイムリーに各社の業績や当社への影響度を判断することができ、経営判断において迅速な「選択と集中」ができることになるだろう。
さらに、コストセーブという意味でも早く適用を進めるメリットは大きいと考えている。J-SOXへの対応が行なわれた際、直前に準備をした会社はかなりコストがかかったと聞く。このとき当社は、前倒しでJ-SOX対応を行なったため、コンサルティング費用をかなり削減することできた。IFRSの適用においても、コンサルティングサービスの需給が逼迫する2015年、2016年より以前に取り組んだほうが、コスト面で有利になる可能性がある。
ただ、ベースとなるノウハウが全くない段階で早期適用を行ない、逆に多くのコストがかかった会社もないわけではない。時期については、バランスが必要だ。
IFRS適用は
“コスト”ではなく“投資”
――適用にあたっては、相当な費用が必要になると思われる。丸紅において、それは“コスト”と捉えられているのか、それとも“投資”と捉えられているのか。
メリットを得るための“投資”と考えている。詳細な検討は来年度以降になるが、人件費を除けばコストは数億円程度で済む見通しなので、それほど多額のコストがかかるとは思っていない。また、システムも当面マイナーな手直しで済むと考えている。
今の連結決算システムは、各社から決算データをもらって集計するというものである。そのため、決算データがIFRSに変わっても、それを集計するだけなので、システムそのものを入れ替える必要はない。ただ、レポーティングパッケージは大きく変えていく必要がある。
最も大きな課題は
関連会社との「決算期の統一」
――IFRS適用に関して、グループの事業会社が疑問を感じている点や不安に思っている点は?
事業会社には、2009年末に今後の具体的なスケジュールを連絡したところだ。
米国会計基準からIFRSへの変更については、それほど大きな変更ではないため、心配している事業会社は多くない。しかし、決算期の統一については、不安が小さくないようだ。特に12月決算の事業会社は、決算期を3月に変えるためのスケジュールやシステムの変更を気にしているようだ。
決算期の変更には、まずシステムの変更が必要となる。これには半年から1年の期間を要する。そのほか、決算期の変更に伴う法的な申請手続き、税務上の決算期の変更をするか否かなど、様々な検討が必要だ。