IFRS最前線(8)
新会計基準の適用で売り上げが半減?
流通業界が迫られる“収益認識”の国際化
小尾拓也
ダイヤモンド・オンライン
2010/8/11
IFRSが適用されると、会社の売り上げが半減する――。企業関係者にこんな不安が広がっている。それは、国際会計基準と日本基準の間に「収益認識のギャップ」があるからだ。一体どういうことなのか? (ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年03月04日)。
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IFRSが適用されると、会社の売り上げが半減する――。企業関係者にこんな不安が広がっている。それは、国際会計基準と日本基準の間に「収益認識のギャップ」があるからだ。一体どういうことなのか?
会計基準の変更で、会社の売り上げが半減してしまう可能性がある――。多くの会計士や企業コンサルタントは、口々にこう指摘する。
企業関係者にとって、にわかには信じたくない話だ。しかし実はこれ、ケースによってはあり得ない話でもないという。
理由は、2015年、または2016年に強制適用が始まるIFRS(国際会計基準)における「収益認識」が、日本の認識とかなり異なるからだ。収益認識とは、平たく言えば「どのような要件が満たされたときに収益を計上できるか」という、会計処理上のコンセプトである。
もし、従来の収益認識が「国際基準に適していない」と判断されれば、収益として認められなくなる要件が増える恐れがあるのだ。
日本では、売上高(主な営業活動によって得た収益)を何より重視する経営者が、諸外国と比べていまだに多いと言われる。業態による違いもあるが、歴史の古い企業の中には、昔から「売り上げ至上主義」が企業文化として根付いているケースも少なくない。
不況の出口が見えないなか、その大事な売り上げが、単なる会計基準の変更によって急減する可能性もあると聞いたら、経営者は不安でたまらないだろう。
ただし、これには注釈がつく。原則主義をとるIFRSでは、具体的な規則は定められていない。企業がフレームワークに従って自ら「適正」と考える指針を決め、会計処理を行なうことが前提となる。
それは収益認識についても同様だ。にもかかわらず、企業関係者が必要以上に不安を抱くあまり、巷に拡大解釈が広まっている側面もある。
では、IFRSと日本の会計の間には、収益認識にどのような違いがあるのだろうか? 具体的なケースを交えながら、その違いと産業界が被りかねない影響について、考えてみよう。
ごく単純に言うと、IFRSの収益認識では「リスクと経済価値の移転」が重視されている。すなわち売り手は、商品を所有することによる重要なリスクと経済的な便益が買い手に完全に移転した時点をもって、収益計上することが望ましいということだ。
このコンセプトに照らした場合、日本企業の多くがこれまで当たり前と考えてきた「商品を売買する約束さえ成立すれば、売り上げが立ったも同然」という考え方は、通用しなくなる可能性が高い。
これについて、実際に問題が生じそうなパターンには、大きく「代理人と見なされるケース」と、「出荷基準が認められなくなるケース」の2つがある。
リスクをとらない業者は代理人?
手数料しか儲けがなくなりかねない
まず、「代理人と見なされるケース」を考えてみよう。影響を被りそうなのは、主に商社、百貨店、GMS(総合スーパー)などの流通業者だ。
IFRSでは、商品を販売する際に、不良在庫を抱える「在庫リスク」や代金の回収に失敗する「信用リスク」などをとっていない企業は、「代理人」と見なされてしまう可能性が高い。