IFRS最前線(8)
新会計基準の適用で売り上げが半減?
流通業界が迫られる“収益認識”の国際化
小尾拓也
ダイヤモンド・オンライン
2010/8/11
IFRSが適用されると、会社の売り上げが半減する――。企業関係者にこんな不安が広がっている。それは、国際会計基準と日本基準の間に「収益認識のギャップ」があるからだ。一体どういうことなのか? (ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年03月04日)。
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ところが、収益が発生する条件として、「リスクと便益が買い手に移ること」を掲げるIFRSの適用が始まると、商品が取引先に無事搬入された時点で収益計上する「着荷基準」や、検品が終わった時点で収益計上する「検収基準」が主流になる可能性が高い。
そうなると、ちゃんと着荷・検収の確認を行なう習慣がなかった企業は、売り上げの目算を立てずらくなる。
「出荷後、取引先への輸送中に商品が壊れてしまい、売り物にならなくなった」「注文品を間違えて届けてしまい、返品義務が生じた」といったトラブルは、日常的に起こり得るものだからだ。
特に、「取引先の検収に時間がかかる」「特約店を間に挟んでいるため、取引先にいつ商品が届くか把握しずらい」「売った後に買い手が売買を取り消しできる契約を結んでいる」「取引先に売った後も商品を一定期間自社の倉庫に置いている」といった特殊事情を持つ企業は、要注意だ。
そのため、IFRS適用の初年度は、社内における事務処理の手順や取引先との契約見直しなどが必要になる。契約書をマメに作る習慣がなかった企業などにとっては、かなりの負担になるだろう。
企業の信頼性をより高めるには
国際基準を受け入れるしかない
「何故そんな面倒くさい方針になっているのか?」と溜息をつく企業関係者も多いだろう。
しかし、そもそも商品のクオリティや約束した到着日にブレが生じにくい日本企業と違い、欧米企業では「約束した日に商品が届かない」「フタを空けたら頼んだ商品と随分違う」といったトラブルは日常茶飯事。だからこそ、IFRSでは「着荷基準が当たり前」とされているのだ。
このように、IFRSの収益認識は、「儲けが減ったり、手間がかかったりするだけ」というイメージが強い。しかし裏を返せば、「従来までの日本の収益認識に曖昧な部分が多過ぎた」という見方もできる。
それを根本的に見直し、国際社会でも通用する透明性の高い収益認識を持つ企業に生まれ変わることは、自社の信頼性を高め、将来の経営基盤をより磐石にすることにつながるはずだ。
「収益を得たいなら、今後はちゃんとリスクをとるべき」というのが、IFRSの理念なのである。
企業が成長を続けるためには、時として「痛み」も求められる。IFRSは、日本企業に改めてそれを問いかけている。